表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/68

34 事後処理と旅の始まり

 大暴走が無事終息し、事後処理も終わった頃、俺は鍛冶師のモード経由で再びレンド伯爵の館へと呼ばれた。

 後払い分の報酬を受け取る為、そしてレンド伯爵から事後報告を聞く為だ。


 正直何で俺みたいな一介の商人にそんな話をするのかは分からないが、まぁ情報は武器と言うし、教えてくれると言うんだから素直に聞かせてもらうとしよう。


「やぁ、待っていたよアキナ君。それに美しいお嬢さん達」


 応接室へと連れてこられた俺達は、レンド伯爵に笑顔で迎え入れられる。


「お久しぶりですレンド伯爵様」


「はははっ、そう硬くならずに。私と君達の仲じゃないか」


 そこまで言う程仲良くないと思うけどな。


「さて、まずは要件から済ませよう」


 レンド伯爵が 指を鳴らすと、後ろに控えていた使用人が重そうな革袋をテーブルの上に載せる。


「使い捨ての魔法の杖の追加分およびマナグレネードの代金だ。今回は無理をしてもらったからね、その分色を付けてあるよ」


「ありがとうございます」


 俺は金額を確認する事無く革袋をメーネに持ってもらう。


「さて、ここから先は今回の事件の顛末だ。おっともちろん他言無用で頼むよ」


 そう言ってレンド伯爵は今回の大暴走が終わった後の事を話してくれた。


「今回の大暴走だが、動員できた兵数の割には被害は最小限で済んだよ。特に民間人の被害が皆無だったのが素晴らしい。これも君の用意してくれたマジックアイテムのお陰だよ。ありがとう」


 そう言ってレンド伯爵が頭を下げると、周囲に居た執事や使用人が慌てふためく。


「お館様、平民に頭を下げるなど!?」


「いや、今回の件は彼等の協力がなければ大きな被害が出ていた。私が頭を下げて礼を言うだけの価値があるほどにね」


 な、なんか良く分からんが、レンド伯爵が頭を下げたのは相当とんでもない事みたいだ。

 見れば使用人達だけでなく、メーネやサシャまで驚いた顔をしている。


「さて、続きと行こうか」


 レンド伯爵が手を振ると、執事や使用人達が部屋から出ていく。


「事件の後始末も滞りなく済んだ我々は、今回の大暴走を調査する事にした」


「調査……ですか?」


「ああ、今回の大暴走は異常な速さで進行していったからね。今後の為にも調査が必要と判断したんだ。幸いにも大暴走の後でダンジョン内の魔物は激減していたからね」


 と、そこでレンド伯爵はテーブルに置かれた紅茶を一口すすって間を置く。


「そしてダンジョンの下層で我々はとんでもないものを発見した」


 そう語るレンド伯爵の表情は非常に険しいものになる。


「とんでもないもの?」


「魔物を興奮させる香、それがダンジョン下層の各所に大量に仕掛けられていた」


「それは……」


 レンド伯爵の言葉が真実なら、今回の大暴走の真相はとんでもない事になる。


「そう、誰かが意図的に大暴走を引き起こしたんだ」


 おいおい、なんかヤバい事になって来たぞ。

 これなんか事件に巻き込まれる前振りじゃねぇの?


「でも本当に魔物を興奮させる事で大暴走を引き起こせるものかしら?」


 と、サシャが香の効果に疑問を呈する。


「ダンジョンや魔物の研究家達の話では過去の大暴走の中には、複数の強力な魔物を暴れさせた事が原因で引き起こされた可能性が高い事例もあるそうだ。まぁ実験した者は居ないので偶然の可能性も否定できないけれどね」


 いやいや、そんなん実験してまた魔物が暴れたらたまらんて。


「それに仮に大暴走を引き起こす意図が無かったとしても、そんなものを大量にダンジョン内にバラまいた事には間違いなく悪意を感じる」


 だよなぁ、狭いダンジョンで魔物を興奮させるなんて、どう考えても碌な結果にならないのは間違いない。


「そんな訳だから、君も気を付けてくれたまえ」


「え?」


 そりゃどういう意味ですか?


「結果的に君達は今回の大暴走を食い止めた英雄だからね。もし魔物を興奮させる香をバラ撒いた黒幕が君達の事を知ったら、間違いなく君達を敵と認識するだろう」


 お、おお……マジか……?

 ただ普通に商売しただけでどこの誰とも知らない悪党に敵認定されんの?


「まぁそんな訳で、何も知らない君達が敵に襲われて命を失わない様にこの情報を教えたわけなんだ。なに君らは我が領地の恩人だからね」


 と、レンド伯爵が朗らかに笑う。

 ううむ、確かにこの人が教えてくれなかったら何の準備も出来ずに敵に襲われていた可能性がある。

 ここは機密情報を教えてもらって感謝するべきなんだろうな。 


「教えて頂きありがとうございます、レンド伯爵」


「うん、くれぐれも気を付けてね」


 その後、俺達は多少の雑談をしながら交友を深めた後、レンド伯爵領を後にした。


 ◆


「なんだか凄い事になりましたね」


 レンド伯爵領からの帰り道、メーネが興奮を抑えきれない様子で声をあげる。


「そうだなぁ。ちょっとこれは俺の手に余る状況だな」


「だったらどうするの?」


 問いかけて来るサシャに、俺はここに来るまでに考えていた案を口にする。


「商売の場を他国に変えようと思う」


 そう、俺はこの国での商売を切り上げ、他国で商売をしようと考えていたのだ。


「あらそれじゃあお店は良いの?」


「ああ、従業員ごと別の国に連れて行こうと思う」


「思い切りが良いのね」


 サシャが驚いたと目を丸くする。

 幸い、金ならいくらでも増やせるからな。

 新しい店も金にあかせて買ってしまえば良い。


 何より、異世界に来てまで他人の都合に振り回されるなんて御免だ。

 こっちには栽培スキルがあるんだから、店や商品を失ってもすぐにやり直す事が出来る。


「うん、言葉にした事で気持ちが固まった。すぐに他国に行って店を開こう」


「私はショウジさんに付いていきますよ」


「私もパトロンの方針に従うわ」


 うん、二人も賛成してくれた事だし、さっそく帰ったら引っ越し計画を練るとするか。


「よし、店に戻ったら従業員達を連れて逃げるぞ」


「はい!」


「ええ!」


 こうして、俺達は新天地を求めてこの国を脱出する事にしたのだった。


書籍版『商人勇者は異世界を牛耳る!』は、MFブックスより好評発売中です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ