32 出来損ないの真価2
「マ、マナグレネード……」
そう、杖として栽培する事を止め、生りかけの杖を収穫したのも、この凄まじい威力を見たからだ。
あと栽培速度が短縮できると言うのも大きかった。
ちなみに命名は俺だ。
「効果範囲は半径10m。威力は見た通りです」
「う、うむ、素晴らしい威力だ! ショウジ殿、このマジックアイテムはいくらだね!?」
「使用回数は減っていますが、その分威力は据え置き。お値段は前回の杖と同じ額でいかがでしょうか?」
「よし、あるだけ買った!!」
即断即決でレンド伯爵が購入を決断する。
使い捨てマジックアイテムだから、通常のマジックアイテムに比べると安いが、それでもこれだけの数が揃えばかなりの出費だ。
だと言うのに即決できるのだから、今回の魔物の大量出現はよほど想定外の事態だったんだろうな。
あとダンジョン持ちの領主ってのは、俺の想像上に莫大な収入があるのだろうか?
だとしたら相当の資産持ちなんじゃないか?
「まいどありがとうございます」
レンド伯爵は決断も迅速なら、その後の行動も迅速だった。
最前線以外の部隊を再編し、投擲に優れた者を主力として軍を動かし始めた。
思い鎧を纏った部隊が前線の魔物を押さえ、その後ろから投擲部隊がマナグレネードで後方の敵に投擲して後ろの魔物達が吹き飛ぶ。
「よし! 後続の魔物が分断されたぞ! 今の内に前線の魔物を殲滅しろ!」
物見台から見ているとわかるが、今の攻撃で前線の魔物達と後続の魔物達の間に空白が出来た事で、兵士達が前線の魔物を各個撃破しやすくなっていた。
そして次々に放たれるマナグレネードによって、魔物達は戦う事なくどんどん数を減らしていく。
更に一撃で倒しきれなかった射程範囲ギリギリの魔物達がその場に倒れ後続の魔物がまえに出る事が出来なくなる。
こうして更に魔物達の進行が遅れ、動きの止まった場所に追加のマナグレネードが投入されて諸共に殲滅。
瞬く間に戦場が魔物の血で染まっていった。
そこかしこに降り注ぐ爆風に魔物達は困惑し、知恵のある魔物はこれ以上この場に居ては的になるだけだと戦場から離脱ものの、それを待っていた騎兵部隊によって各個撃破されていく。
凄いのはマナグレネードだけじゃない。
マナグレネードで誘導された魔物達が一か所に集められ、魔法や弓矢によってまとめて仕留められていく。
「流石は正規の騎士団ね。数の限られているマジックアイテムを有効活用する為に敵の進路を誘導して最大限に戦力を活かしているわ」
サシャの言葉通り、魔物の群れは騎士団の攻撃で次々に分断されていき、散り散りになった魔物達に冒険者達が向かって行く。
騎士団と冒険者の群れがまるで生き物のように動いている。
その光景は戦場を舞台とした劇めいた光景であり、流れるような動きは人と魔物を使った詰め将棋のようでもあった。
「凄いな」
思わず言葉が漏れる。
「それもきみの提供してくれたマジックアイテムがあればこそだ。今回の戦いではとにかく時間と人手が足りなかったからね。きみのお陰で最低限の人数を集める時間を稼ぎ、実戦力以上に魔物達に打撃を与える事が出来た。あとはこのまま魔物をダンジョンに押し返し、後日援軍としてやってくる追加の冒険者達を軍に再編すれば例年道理に魔物達の掃討を実行できる」
おお、何とかなりそうみたいでよかった。
と、その時だった。
「お館様、指揮個体が現れました!」
見張りの兵士の言葉に、本陣の空気が冷たく凍るのを、俺は感じるのだった。