03 新たな商人誕生!
「うわー、出来ちゃったよ」
俺は畑の畝から引っ張り出した蔓の先に生えているモノを見つめる。
蔓を引っ張ったといっても芋やカブを植えた訳ではない。
「お金も栽培できるんだなぁ」
そう、俺は【栽培】スキルでお金を栽培したのだ。
最初は本格的に栽培をする為、この世界で価値の高い品は何かを考えていた。
町を歩いて回った所で感じたのは、服、宝石辺りが大きさや重さに比べて価格が高かった。
特に服は驚くほど高価だったことに驚いた。
どうもこの世界では布の反物でもかなりの値段になるらしい。
おそらくなんだが、この世界にはまだ化学繊維が存在しないから高価なのではないかと思った。
つまり材料である糸が貴重なのだ。
そしてミシンといった縫製機械が未熟なのも服を貴重にする理由だろう。
だから古着でもこの世界では結構なお値段だった。
感覚的には普段着でも新卒が着る安いスーツくらいのお値段がするのだ。
改めて異世界の物の価値観の違いには驚かされる。
そして宝石はどの世界でも価値があるらしくこれまたいいお値段がした。
ただ装飾品になると職人の一点モノらしく、同じ形の品は基本的に存在しなかった。
その為、俺の【栽培】スキルを使うと贋作と間違えられてしまいそうなので、宝石を売り物にするなら原石を売る方が良いだろう。
で、そこで気付いたのが、お金の栽培だ。
あれ? 何でも栽培できるのなら価値に直結した金を栽培すればいいんじゃね? と。
我ながらとんでもない事を思いついてしまった訳だが、ここまで色々な物が栽培出来てお金が栽培出来ない訳がない。
大金を即座に用意出来る様になれば、この国からの脱出も容易になると判断した俺は、さっそくそれを実行してみた。
「で、出来てしまったんだよなぁ」
実際出来たそれを見ると変な笑いが湧いて来る。
芋の様に蔓から生えたお金はなんともシュール。
俺こっちの世界に来てからいっつもシュールって言ってる気がするわ。
「まぁお金を栽培したのは、ごまかしが利くってのもあるからだしなぁ」
売り物が大量にあったら、とくにそれが作物だったら猶更出所を疑われるが、それがお金だった場合はいい訳が出来る。
例えば与えられた空き家か畑に埋められていたとか言ってな。
そう答えれば金持ちの埋蔵金か脱税の為に誰かが埋めたと思う事だろう。
そしてこの土地は俺が王様から与えられた物なので、どうしようと俺の勝手だ。
権力で無理やり金を奪われる可能性も無きにしもあらずだが、【栽培】スキルの秘密を隠す為のカモフラージュと考えれば惜しくはない。
「さて、それじゃあ収穫した作物を売り始めるか」
◆
「ここが商人ギルドか」
収穫した品を売りに王都の商店街へとやって来た俺だったが、最初に入った店の店員から、王都で大きな商売するには商人ギルドに入る必要があると言われて追い出されてしまった。
なんでも猟師や職人が小口の買い取りを頼む分には資格はいらないが、大量の品の売買をする場合には国の法律で資格が必要なのだそうだ。
多分詐欺対策とかそのあたりだろう。
ファンタジー世界なのに面倒くさい事だ。
「ま、さっさと入会しちまうか」
商人ギルドに足を踏み入れた俺は、その光景に懐かしさを感じる。
「へぇ」
ギルドの建物はその全てが木でできていたのだが、そこで働く職員達からは銀行員などから感じる仕事人の空気を感じたのだ。
だが俺は郷愁を感じる為にここに来た訳じゃない。
目的を果たす為、すぐに受付へと向かう。
「商人ギルドへようこそ。私は受付のシーマと申します」
ちょっと年齢が高めだけど美人の受付嬢が挨拶をしてくる。
「すみません。商人ギルドに入会したいのですが」
「かしこまりました。それではこちらの入会用紙に必要事項をご記入ください」
「あっ」
そこで俺はここが異世界だった事を思い出す。
やっべー……異世界の文字が分からないと商売が出来ないじゃないか。
商人は読み書きができるのが常識、というか出来なかったらまともな取引が出来ない。
「どうかされましたか?」
シーマさんがこちらの顔を見て疑問を投げかける。
「いやえっと」
どうする? 字が読めないって正直に白状するか?
内心で激しく焦った俺だったが、その問題はあっさりと解決した。
「あれ、読める!?」
そう、何故か俺は異世界の言語で書かれた書類の内容が読めたのだ。
これはアレか? 俺が勇者だから読めるのか?
勇者として召喚された事でスキルが使える様になった俺だが、どうやら異世界の言語も理解できるようになったみたいだ。
よく考えたら異世界人と会話も出来てるしなぁ。
「いやなんでもありませんでした」
「はぁ……」
事情を知らないシーマさんは首を傾げていた。
ともあれ、なんとか書類の記入は成功だ。
「では入会金として銀貨を一枚頂きます」
あぶねー!
お金を栽培しておいてよかったー!
そうだよね、組織に入会するんだから入会金くらいいるよね!
「すみません、銀貨が無いので銅貨で支払いをさせて頂きたいのですが、この国の相場では銀貨は銅貨何枚になりますか?」
必殺外国人のフリ!
知らない事は外人なので、で通すぞ!
「我が国では銅貨10枚で銀貨一枚と等価になります。また銀貨10枚で金貨一枚と等価になります」
おお、それは分かりやすい。
異世界も十進法なんだなぁ。
「分かりました、ありがとうございます」
俺は懐から栽培した銅貨を10枚取り出しカウンターに置く。
するとシーマさんは受け取った栽培銅貨を秤のような物の上に載せていく。
「それは?」
「これは偽造貨幣を確認するマジックアイテムです。これを使えば貨幣に含まれる金銀銅の比率を確認する事も出来ますよ」
おお!? マジックアイテム!?
っていうか偽造貨幣を確認する!?
やっべぇ! モロ偽造貨幣ですよコレ!?
っていうか、この世界での貨幣偽造ってどれくらいの罪な訳!?
でも間違いなく軽くはないよねきっと!
大丈夫なんですか【栽培】スキルさぁーん!!
「確認しました。ではこちらが……ショウジ・アキナ様のギルドカードとなります。我が国で商いをする際は、こちらのカードを取引相手にお見せください」
すっげぇ! さらっと通ったよ!
スゲェよ【栽培】スキルさん!!
これで偽造し放題ですよ!
「なお紛失された場合には再発行に金貨一枚をお支払いいただく事になりますのでご注意ください」
うわ再発行代金結構高いわ、入会金の10倍かよ。
「また当ギルドでは毎年組織を運営する為、年一回上納金の支払いをお願いしております。上納金の支払い時期は毎年の年末の月、金額はギルドランクによって上下します」
「ギルドランクが上がると何か得があるんですか?」
「ギルドの資料閲覧やギルドが運営するオークションへの参加権利などがあげられます。ギルドランクを上げたい場合は昇格金を以ってランクの上昇申請をしてください。その際に細かいランク特典をお伝えいたします」
さすが商人ギルド、何をするにも金なんだなぁ。
「それと、ギルドランクに関係なく当ギルドにて商品の買い取りも可能です。ただ在庫の関係で買い取り不可になったり、相場よりかなり安くなる事がありますので、それでもよろしければですが」
へー、そんなサービスもあるのか。
「じゃあ急いで売らないといけない物が出来たらその時はお願いします」
「はい、その際はよろしくお願いしたします。それと、当ギルドでは手数料を戴く事で両替も行っております」
「両替?」
「はい、細かいお金を高額貨幣に換える事で計算がしやすくなります。また大量の貨幣を持ち歩かなくて済みます」
ふむふむ両替をしてくれるのはありがたいね。
「じゃあちょっと両替をお願いします。これを金貨にお願いします」
俺は銅貨を100枚出して金貨への両替を頼んだ。
「か、かしこまりました」
やっべ、小銭の数が多すぎてシーマさんの顔が引きつってるわ、スンマセン。
まぁこんな面倒な事をしたのにも理由があるのよ。
◆
商人ギルドから帰った日、俺はさっそく両替した金貨を畑に埋めた。
そして翌日からひたすら金貨の栽培を繰り返し、文字通り芋蔓式に増えた金貨を掘り起こした。
目的は何かって?
そんなの決まってる。
商売をする為に必要な商品と機材を購入する為だ。
あらかじめ調査しておいた高額商品を買いあさり、栽培スキルで大量に在庫を増やし、その間に馬車も注文した。
特注だったので結構なお値段がしたが、どうせスキルで増やしたお金なので惜しくは無い。
地球に残してきた開業資金を使ったと思うことにしよう。
「ギルドに登録も出来た。スキルで商品も軍資金も十分。増やした金貨を使って新品の馬車も用意できた」
商人をする為のあらゆる準備が整った。
「ついにだ、ついにここまで来た」
ブラック会社で死ぬ思いで働き続け、遂に軍資金がたまったと思えば、異世界に召還なんかされてあわや命の危機、あげく元の世界に戻る方法など無いと断言までされた。
絶望に次ぐ絶望に本当どん底の連続だったが、ようやく俺は目的を、夢を掴む事が出来たのだ。
自分の店を持つという夢、商人になる夢を。
今はまだ自分の店を持たない行商人の身ではあるが、それでも商人は商人。
間違いなく起業したのだ。
「そうだ、俺は、俺は遂に起業したんだ!」
確かに金は【栽培】スキルで幾らでも手に入る。
そもそも行商人になったのもこの国から逃げる為だ。
だがそれでも、商売をするという夢は、搾取される側ではなく、する側になるという夢は俺にとって特別な意味がある!
それが今日までの俺が目指してきた目的だからだ。
さぁ、これからは【栽培】スキルを最大限に利用して、この異世界で大儲けしてやるぜ!