28 使い捨てな魔法の杖
「よーっし、ちゃんと生ってるな!」
俺は畑から生えた杖を掘り起こす。
サシャからマジックアイテムを借りた俺は、さっそくソレを栽培してみる事にした。
なおサシャはいつもの村で待っていてもらっている。
名目上は村で食料を売る部下の護衛だ。
植えた魔法の杖は芋みたいに地面の下に生り、畑の上にはこれまた芋みたいに蔓が生えていた。
なので蔓を引っ張ると、そこに生った杖がまとめて引き抜かれる訳だ。
うん、自分で言ってても良く分からん気分になる光景だな。
「さ、さーて、それじゃあ実際にマジックアイテムを使ってみますかー!」
実際に使ってみて、マジックアイテムも栽培スキルで問題なく複製できるのかを試さないとな。
……まぁ、マジックアイテムを使ってみたいというのも否定はしない。
俺は畑の端っこに的代わりの木の板を置くと、すこし離れた場所に移動して杖を構える。
「ええと……たしか、このスイッチだっけ?」
的に杖を向けてスイッチを押すと、ボンッという音と共に杖の先端についていた宝石から炎の弾が飛び出る。
「おおっ!?」
出た出た! ホントに出た!
気分は魔法使いだな!
そして炎の弾が的にぶつかると、的はまるでガソリンをぶっかけたみたいに勢いよく炎上する。
「うおぉ……結構すげぇな……」
ただ炎の塊がぶつかるだけかと思ったのだが、意外と威力が強い。
と、その時だった。
突然バキッという大きな音が聞こえた。
「なんだ?」
音の鳴った方向を見ると、畑を覆っていた壁の一部が破壊され一匹の大きな熊の姿が入ってきたところだった。
しかも腕が6本ある熊が。
「……ま、魔物!?」
ただ熊というだけでなく魔物が侵入した事に慌てた俺は、メーネを呼ぼうとしたのだが、ふと自らが手に持った魔法の杖の存在を思い出す。
「……そうだ、これなら!」
俺は熊の魔物に狙いを定め、杖のスイッチを押す。
すると杖から出た炎の弾は見事熊の魔物に命中し炎上した。
もしかして俺ってスナイパーの才能があるんじゃないだろうか?
炎の弾の直撃を受けた熊の魔物が、悲鳴を上げてのたうち回る。
「おお! いけるぞ!」
ダメージも申し分ない、これなら俺でも戦力になるんじゃないのか!?
などと考えていたら怒った熊の魔物が雄たけびを上げてこちらに突撃してきた。
「うわぁぁぁぁ!?」
慌てて杖のスイッチを連打して熊の魔物を攻撃する。
だが熊は止まらない。
そんな時、突然炎の弾が出なくなる。
「え? あ? なんでっ!?」
弾が出なくなった事に困惑した俺はそれに使用回数があった事を思い出す。
「そういや使い捨てだったぁぁぁぁ!?」
そんな事をしている間にも熊はドンドン近づいてくる。
「ってか熊速っ!?」
慌てた俺は、使えなくなった杖を捨て逃げようとしたのだが、何かに足を取られて転倒してしまう。
「一体何……!?」
俺の足を絡めとったそれの正体は、一本の蔦だった。
「これだ!」
俺は急ぎ蔦を引っ張ると、土の中から何本もの杖が飛び出してきた。
「よし!」
俺は蔦から二本の杖を引きちぎると、両手で持って迫りくる熊へと連射する。
「このこのおこのこのっ!!」
二丁拳銃ならぬ二丁杖の乱射で熊の魔物が火だるまになる。
だが熊の魔物はなおもこちらに向かってくる。
つーかガッツありすぎだろ熊!?
そして再び杖が弾切れになり、もう駄目かと思ったその時、ようやく熊の魔物は地面に倒れた。
「た、倒した……!?」
俺は倒れた熊に弾切れになった杖を投げてみる。
しかし熊は動かない。
「これは、俺が勝った……のか!?」
黒焦げになった熊の姿に、改めて認識が追いついて来る。
「まじか……」
剣も魔法も使えない俺が、魔物を倒した……
「う……うう……うぉぉぉぉぉぉぉ!?」
興奮が抑えきれず、俺は無意識に雄たけびを上げてしまう。
「ショ、ショウジさん大丈夫ですか!? 何かあったんですか!?」
その時、畑を覆う柵の外側からメーネの声が聞こえて来た。
そうか、畑の中が見ない様に、柵は蔦を使った即席のカーテンで覆ってるから、メーネは魔物の襲撃に気づかなかったのか。
そして俺の雄叫びを聞いて何事かとやって来たのか。
「ああ大丈夫だ。もう解決した」
「そ、そうなんですか?」
そう言えば、この畑には魔物避けのポーションをかけてある筈なんだが、何でこの魔法は近づいてきたんだ?
たしか魔物避けのポーションはBランクまでの魔物を寄せ付けない効果があった筈だ。
という事はまさかこの魔物は……
「メッ……」
メーネを呼ぼうとした俺は、畑の事を思い出して慌てて未収穫の商品の収穫を行う。
収穫さえしてしまえば普通の畑にしか見ないからな。
そして一通り見られたらマズい品を収穫し終えてからメーネを呼ぶ。
「なんですかショウジさん……というか、入って良かったんですか?」
畑のある区画には入るなと言ってあったので、メーネが本当に入って良かったのかとオドオドしている。
「ああ、ちょっとトラブルが発生したんでな。それよりこれを見てくれ」
俺はメーネに黒焦げになった熊の魔物の死骸を見せる。
「黒焦げの魔物……ですか?」
あー、まぁ普通はそう思うよな。
「腕が6本の……これは熊? でも腕が6本って……まさかデモンベアー!?」
おっ、どうやらこの熊の事を知っているみたいだ。
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、これは森の悪魔と言われる魔物デモンベアーですよ!」
森の悪魔とは穏やかじゃないなう。
「6本の腕から繰り出される攻撃は金属鎧や大楯をも引き裂き、その分厚い毛皮は戦斧での攻撃でも用意には切断できず、逃げようとしても巨体に似合わぬ俊足で瞬く間に追いすがってくるという非常に恐ろしい魔物なんです!」
めっちゃ怖いなそれ。
俺そんなヤバイヤツと戦ってたのかよ。
「Aランクに認定される程の魔物なのに……これ、ショウジさんが倒したんですか!?」
「え? あ、ああ」
思わず素直に答えてしまった。
というかやっぱりこいつAランクの魔物だったのか。
「黒焦げのデモンベアー……っ!? もしかしてショウジさんは魔法使いだったんですか!?」
あー。そう考えちゃったかー。
「いや、以前仕入れたマジックアイテムのおかげだから」
「マジックアイテムですか?」
「そう、炎の魔法が使えるマジックアイテムを以前入手してね。ソレでコイツで撃退したんだ」
うん、嘘ではないな。
昨日も以前には間違いない。
「凄いです! デモンベアーを黒焦げに出来るマジックアイテムを持っているなんて!」
ま、まぁ使い捨ての品なんだけどね。
「さて、それじゃあ破壊された壁を直したら、コイツを味見してみるか。せっかく焼いたんだしな!」
「はい!」
なお、黒焦げになったデモンベアーは不味かった。
「ショウジさん、ちょっと中まで焼き過ぎです……」
「スマン……」
黒焦げと言うより、炭になってました。