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27 魔女の薬とパトロン探し

「こちらです」


 俺は従業員に案内され、俺を待っているサシャという女が居る応接室へとやって来た。

 というか、自分の店ながら広いなぁ。

 商品を陳列するスペースも結構広かったけど、奥に応接室まであるのかよ。


 気を取り直して応接室に入ると、そこには美しい長髪の美人が居た。

 妖艶……は言い過ぎにしろ、結構な色っぽさだ。

 大人の色気という奴だろうか?

 メーネが小動物系の美少女なら、サシャは文字通り魔女と呼ぶにふさわしい美しさだ。


「お待たせしました。私が店主のショウジ・アキナです」


「え……?」


 えって何だよ?

 そして何故かサシャは俺の事をジロジロ見て来る。


「うーん、聞いた通りの黒髪だしこの人よねぇ……でもまさか店主さんだったなんて……」


 どうやら探していた俺が店主だとは思わなかったらしく、サシャはやや困惑気味だ。


「それで、確かサシャさんと言いましたか。貴女はどのような理由で私に会いに来られたのですか?」


 相手が何者か分からないので、こちらのペースで会話を進めさせてもらおう。

 場合によってはメーネに頼んで力ずくで解決する事にもなるかもしれないからな。


「ええ、そうね。貴方が店主と分かって色々と納得がいったわ。そしてその事実は私にとって僥倖でもあるわね」


 ふむ? 俺が店主だった事がサシャにとって僥倖?


「改めまして、私はサシャ。見ての通り魔法使いよ」


 まぁ、それっぽい恰好はしてると思った。


「私は貴方にこれを見てもらいたくてやって来たの」


 そう言ってサシャはスカートのすそをまくり上げ、布に包まれた50cm程の何かを取りだす。

 うん、綺麗な足だ。


「……コホン」


 何故かメーネが不機嫌そうに睨んで来た。

 いや向こうが勝手に見せてきたんじゃないか。


 テーブルの上に布に包まれた品を置くと、それはゴトリと硬い音を鳴らした。

 そしてサシャはゆっくりと布を開いて中身を見せる。


「これは……杖ですか?」


 そう、布の中から出て来たのは、豪勢な装飾のされた短い杖だった。


「ただの杖じゃないわ。これは魔法の杖よ」


「ほう!」


 いかんいかん、つい声が出てしまった。

 だが魔法の杖と言われて興味が湧かない男の子、いや地球人は居ないだろう。


「この杖は魔法の使えない人間でも炎の魔法が出せるマジックアイテムよ。呪文を唱えなくても、ここのスイッチを押せば魔法が発動するの」


 おお、いかにも魔法の武器って感じだな!

 正直ミスリルの武器とかよりもファンタジー感あるぞ!


「ただ、マジックアイテムに使われている魔石は現代では失われた特別な加工技術で作られているから、内蔵された魔石の魔力を使い切ったらもう二度と使えないの」


 まぁ技術的な問題は理解した。

 ただそれだけでは俺の所に来た意味はない。

 使い捨てのマジックアイテムじゃあ明確な使用限界がある以上、大した価値はない。

 つまり、本当の商談はこれからという訳だ。


「でもね。私ならその問題を何とか出来るわ」


 ほら来た。


「それはどういう意味ですか?」


「私はマジックアイテムの研究者なの。古代に失われた技術を現代に蘇らせる為の研究をしているのよ」


 そう言えばメーネがそんなような事を言っていたな。


「それで? その研究者さんは私に何を求めてやって来たんですか?」


 これ以上まどろっこしい探り合いは無しだ。

 単刀直入にいこう。


「私の研究を支援してくれないかしら?」


 まぁ会話の流れからそうだとは思った。


「何故私なんですか? 貴女の研究なら、それこそ国に売り込んだ方が良くないですか?」


 何しろ失われた技術を復活させようとしているんだ。

 マジックアイテムが貴重で強力な品なら、それこそ国が乗り出してくるだろう。


「そういう公の機関には昔から居るお抱え魔法使い達が食い込んでいるのよ。実績のない私のような野良魔法使いじゃあ話を聞いてさえもらえないわ」


 あー、政治家や御用商人よろしく、二世魔法使いが研究機関を独占しているのか。

 そりゃあさぞかし研究が進んでいない事だろうなぁ。


「ですがそれなら有力な個人の貴族に売り込んでみては?」


 国家機関は駄目でも、道楽者の貴族なら話は別だ。

 そういった連中に気に入られれば、国家機関程じゃなくとも、個人で研究を続けるよりは潤沢な予算を得られる。


「そういう貴族はね、研究以外のモノを求めて来るのよ」


「あー」


 つまりサシャ本人か。

 まぁ確かにサシャは美人だし色っぽい。

 メーネと比べると発育も比較にならない程……。

 今の無し、なんか後ろから凄い寒気がしてきた。

 言葉にしてないからセーフ、セーフ!


「では、私を選んだ理由は? 他にも大店の店主は居るでしょう?」


 これが一番気になるところだ。

 何故サシャはまだ正式に商売を開始していない俺をパトロン候補に選んだのか。

 はっきり言って俺達に接点はどこにもない。

 この店舗を購入したのだって、直接動いたのは俺ではなくオグマ達だ。

 サシャにそれが分かる筈が無い。


「私が貴方に目を付けた理由はね……」


 サシャが胸元から一本の瓶を取りだしてテーブルに置いた。

 というか、何故そこから出したし?


「これは……?」


 この色、なんか見覚えがあるような……。


「これは魔物避けポーションよ」


「魔物避けポーション!?」


 ああそうか、これは俺が買った魔物避けポーションと同じ色だ!


「このポーションは私が遺跡探索をしていた時に偶然発見した古代のレシピで作ったものなの」


 という事は、俺が買ったポーションは……


「正直レシピの材料は現代では貴重なものばかりでね、作っても赤字にしかならない役立たずだったのよ」


 ああ、だからあんなに高かったんだな。

 材料費が高くても代替手段があったら、どれだけ良い商品でも需要は低いだろうしなぁ。


「だから私は考えを切り替えたのよ。これがコストの問題で使いものにならない事を知って尚買う人間が居るなら、その人は私の研究を理解してくれる可能性があるって」


 つまり魔物避けポーションは、サシャが自分のパトロン探しの為に市場に流してたって訳か。

 そして俺はそんなサシャのお眼鏡にかかったと。


「成る程」


 要約すると、ロストテクノロジーの研究費用が欲しいって訳だな。


「こちらのメリットは?」


 ただロストテクノロジーを復活させるだけでは意味が無い。

 サシャが完成した技術だけもって逃げ出す危険があるからだ。

 実際は成功していても、やっぱり無理だったゴメーンで済ませる可能性もある。


「私から出せるのは研究成果の提供ってところかしら?」


 つまり完成した復元マジックアイテムの試作品を最優先で貰えると。


「足りませんね。担保としてそのマジックアイテムを預からせてもらいましょう」


 本音は栽培スキルで複製する為だ。


「それは困るわ。このマジックアイテムは大事な研究資料なのよ?」


 さすがにそれは受け入れられないとサシャが拒絶する。

 ちっ、駄目か。

 だがせっかくマジックアイテムがあるんだ。それを諦める理由もない。

 もう少しせめて見るか。


「勿論ただで預かる気はありません。この使い捨てマジックアイテムの相場価格の倍額を貴女に預けます」


「えっ!?」


 俺は自分が持ち逃げしたとしても、サシャにとって損にならないとレンタル料を提示する。


「そして預かったマジックアイテムが本物と分かったら、マジックアイテムは返却しますし預けたお金は貴女の研究費用として使って頂いて構いません」


「い、良いの!? 使い捨てのマジックアイテムでも結構な値段よ!?」


「ええ、構いません」


 なにせこのマジックアイテムが栽培できるようになれば、倍額どころの儲けじゃないからな。


「研究費用として使って良いって事は、私に資金提供をしてくれるって事かしら?」


「まずはお試しですね。マジックアイテムが本物と分かるまではうちの店の従業員として働いてもらいます。業務内容はポーションの制作とオーナーである私の護衛。それ以外の時間は研究に使って頂いて構いません」


「護衛の時間は?」


「こちらのメーネと交代で、場合によっては一緒に護衛をしてもらう事もあります」


「……そうねぇ、冒険者として命がけで遺跡に潜ったり、依頼を受けて自分で研究費用を集めるよりは、貴方のお店で働いた方が時間も予算も余裕が出来そうね」


「分かったわ、その条件で受けさせてもらうわ」


「交渉成立ですね」


 こうして、俺はサシャの暫定パトロンとなったのだった。

 よっしゃ、マジックアイテムゲットだぜ!


 ◆


 翌日、サシャを雇った俺は従業員達を連れていつもの村へと向かっていた。

 目的は毎度の行商と森の畑で栽培している商品の入荷。

 そしてサシャが護衛として戦えるかのテストだ。


「お、出て来たな」


 村が近づいてきた頃になってようやく、街道に魔物の影が見えて来た。

 やって来たのはえらく足の大きい馬が四頭、先端に向かう程大きくなる足のデザインはあからさまに異常でとても普通の生き物とは思えない。


「あー、それじゃあ先生たのみます」


「はいはい……ところで先生って私の事?」


 まぁいわゆるお約束だ。


「ワンダラーホースが四頭か。まぁこの程度なら問題ないわね」


 サシャは余裕綽々って感じだな。


「メーネ、ワンダラーホースって強いのか?」


 俺は横に座っていたメーネに小声で質問する。


「ええと、ワンダラーホースは獲物をその大きな蹄でふみ砕く凶暴な魔物です。Cランクの魔物ですが、とにかく足が速いので、逃げるのも追うのも困難です。ですので今のように開けた環境ではBランク相当の敵に匹敵するかと」


 ふむ、中の上って感じか。


「アイスファウンテン!」


 サシャが魔法を発動させると、俺達とワンダラーホースの間の地面から氷があふれ出し、波紋のように周囲に広がっていく。

 ワンダラーホースは突然現れた氷に躊躇う事無く加速し、次の瞬間大きく跳躍した。


「氷を跳び超えるつもりか!」


 得体のしれない氷を飛び越えて、こちらに直接攻撃する事を選ぶとは、意外に賢いな。しかも決断力も高い。


「ふふふ、無駄よ」


 けれど、サシャは余裕の表情だ。


「えい」


 サシャが手に持った杖を下から上に振ると、氷の広がる速度が急速に速くなった。

 そしてワンダラーホースの着地地点まで氷は広がり、氷の上に着地したワンダラーホースはバランスを崩して転倒してしまう。


「まず一頭」


 まだ倒していないぞ、そう言おうと思った俺だったが、転倒したワンダラーホースを見て彼女がそう言った理由を理解する。 

 転倒したワンダラーホースは足の骨が折れてあらぬ方向に曲がっていたのだ。

 これでは再び立ち上がって攻撃する事は不可能だ。


 そして後続のワンダラーホース達は仲間の惨状に足を止め、氷の波紋から逃れる為に少しずつ後退を始める。


「ホーミングアイスアローズ」


 サシャが新たな魔法を発動させると、彼女の前に何本もの氷の矢が生まれる。


「行きなさい!」


 サシャの号令に応える様に、矢が真っすぐにワンダラーホース達に飛んでいく。

 ワンダラーホースはそんな攻撃に当たるものかと回避するが、サシャの魔法は彼等をあざ笑うかのように軌道を曲げて追跡を始めた。

 これにはワンダラーホース達も驚き、慌てて逃げ始める。


 だがそれこそがサシャの罠だった。

 サシャの攻撃から逃げていたワンダラーホース達が突如転倒しだしたのだ。

 その理由は先程サシャが発動させた氷の魔法だった。

 サシャの魔法は最初のワンダラーホースを転倒させた後も広がり続けており、氷の矢に追われていたワンダラーホースはその事に気づけないまま追い立てられ、自ら氷に向かって飛び込んでしまったのだ。


 そして転倒したワンダラーホースに氷の矢が深々と突き刺さる。

 ワンダラーホース達は数度痙攣していたが、じきに動きを止める。


「とまぁこんなものね」


 さらりと、さも大した事なかったと言わんばかりにサシャは笑った。

 さっきメーネが開けた場所では苦戦するって言ってたばかりなんだがなぁ。


 ううむ、これはもしかして、かなり良い買い物をしたのかもしれない。


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