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26 ドワーフの鉄と相場

 森の家で食糧と鉄の増産を続け、数日をかけて馬車の限界まで鉄を積み込んだ俺達は、最後の鉄を積んで村にいる従業員達の下へと向かう事にする。


「よし、それじゃあ納品しに行くか」


「あれ? あの箱は良いんですか?」


 メーネは一個だけ残された鉄の箱を見て首を傾げる。


「ああ、あれは良いんだ」


 そう、あれは俺が栽培する為の種イモならぬ種鉄だからな。

 店主の依頼のおかげで、元手0で鉄を手に入れる事が出来たぜ。


 これで今後は他の町に鉄を売ったり、森に作った家の改装にも使う事も出来る様になったわけだ。


 ……なんつーか、クラフト系のゲームで新しい素材を発見した気分だな。

 まぁ最初に上位素材であるミスリルをゲットしていたりするんだが。


 ◆


「この度は本当にありがとうございました。おかげで今年の冬は家族を奴隷商人に売りに出さずに済みそうです」


 従業員と合流した俺達が村を出ると聞き、長老が感謝の言葉を告げて来る。


「いえいえ、それよりもこの村ではそんなに慢性的に食料が足りないのですか?」


「ええ、魔族との戦争で税が増え、男手は戦争に連れていかれましたので、食料の生産量もどんどん減っています」


 成る程、それじゃあ自分達が食べる分の食糧が無くなるわけだ。

 というかこの状況、完全に悪循環じゃないか?


 国王が食糧が足りなくて困っていると言っていたが、完全に自業自得だろ。

 こりゃあ逃げ出して正解だったな。


「貴方様が安く食料を売ってくださって本当に助かりました」


 長老が深々と頭を下げると、他の村人達も頭を下げて来る。

 いやまぁ、栽培スキルで費用は限りなくゼロだから出来た価格設定だしな。


「それじゃあ我々はこれで失礼いたします」


 さて、王都へ向かうとするか。


 ◆


「頼まれた鉄、用意出来ましたよ」


 再び王都へやって来た俺達はさっそく鍛冶屋へ鉄の納品にやってきた。 


「……は、早ぇな」


 余裕をもったスケジュールで来たので、店主が目を丸くしている。

 まぁ、単にこれ以上は馬車に乗せられなかったからなんだけどな。

 いや、ホント栽培スキルの生産速度ヤバいわ。

 倍々ゲームで増えていくんだもん。


「では商品の品質チェックをお願いします」


「お、おう」


 最初は戸惑っていたものの、目の前にズラリと並べられた鉄入りの箱を見た瞬間から、店主の目が職人のそれに変わる。


「……良い鉄だ。俺が求めた鉄の質と寸分たがわぬ質だ」


 そりゃあまぁ、アンタから渡された鉄をそのまま複製したわけだからな。


「ではこれで依頼達成ですね」


「ああ、正直言って数箱揃えられれば御の字だったんだがな」


 なら後は代金を貰うだけだな。


「代金ですが……」


「どうした?」


 親方が早く言えとこちらを見て来る。

 しまった、俺この世界の鉄の相場を知らんわ。


 つーか地球の相場も知らん。

 リサーチ不足というなかれ。

 だって鉄の塊なんて王都の町じゃ売ってなかったんだよ。


 そもそも地球でも加工前の鉄塊を売ってる店なんてそうそうない。

 大抵は問屋から一直線で業者の下へ行くからな。

 そしてこの世界でも、鉄は鍛冶屋が買うので一般人が買う機会はまずない。

 だって鍛冶が出来る一般市民なんて居ないからだ。


 みんな鍛冶屋に頼んで必要な道具を作ってもらうんだから。

 しまったな、これなら最初に親方から買い取り価格を聞いておけばよかった。


「おい、いくらなんだ」


 親方が急かしてくる。

 ええいこうなったら!


「そうですね、今回は特急の仕入れだった事もあり、先方にも迷惑を掛けましたから……」


 俺は以前話したミスリルの剣の価格から鉄の武器の金額を逆算し、さらに武器の制作費を抜いた原材料費を推察する。


「金貨30枚といったところでどうでしょう?」


 そう、地球では鉄はそれほど貴重ではない。そしてこの世界では鉄以上の素材であるミスリルが存在する。

 だから金貨30枚でどうだ!?


「金貨30枚!? 安すぎる!?」


 しまったぁぁぁぁぁ! 外したぁぁぁ!!


「一体何を考えたらそんな頭の悪い金額になるんだ!?」


 頭悪いとまで言われたぞおい!?

 この世界じゃ鉄って結構貴重なのか!?


 リカバーリカバー! 何か良い言い訳は無いか!!

 ……そうだ!


「それは前回の借りを返す為ですよ……」


「借りだと?」


「ええ、以前貴方はゴルデッドの件で揉めた私達に、誰かが嗅ぎまわってると教えてくれたでしょう? あの情報のおかげで私達は余計なゴタゴタに巻き込まれずに済んだんです。その礼ですよ」


「だからといって金貨30枚はないだろう……」


 親方はまだ納得いかない様子だが、なんとか誤魔化せたみたいだ。


「ショ、ショウジさん……私の為にそこまで……」


 なんか勘違いしてメーネが感動し始めたぞ。

 

「……金貨80枚の恩義か。お前さんは随分と俺を買ってくれたんだなぁ」

 

 金貨80枚? それってもしかして正確な相場の金額か!?

 よっしゃぁぁぁ! 正確な相場情報ゲットォォォォォ!

 いや最初の30枚と合わせて金貨110枚ってところか?

 次回からはこの金額で代金を請求しよう。


「……だが、その恩を受けるわけには行かねぇ。俺が持ち込んだ迷惑だ。ちゃんと相場通りの代金は支払う」


 あらら、義理堅い事で。

 まぁ俺としては助かるが。


「ああそうだ、剣が出来たら一本売ってくれませんか?」


「構わん。一本くらいならくれてやる、だいぶ無茶をさせたみたいだからな」


 いや、全然無理はしてないんだけどね。

 とはいえ、これで親方の剣をゲットだ。

 栽培して外国で売る事にしよう。


「いま金を持ってくる」


 親方は店の奥に引っ込むと、大きな革袋を持って戻ってきた。


「これが代金だ。確認してくれ」


 俺は革袋を受け取ると、中身をカウンターの上に出して枚数を確認していく。


「金貨110枚、確かに受け取りました」


「おう」


 金貨を袋に戻しつつ、俺はふと思い浮かんだ疑問を聞いてみる。


「ところで、金貨110枚をポンと出せるなんて、王都の鍛冶屋ってそんなに儲かるんですか?」


「馬鹿いえ、騎士団に納品する様な大工房でもなけりゃこんな金ポンと出せるか。今回は依頼主から前払いで材料費を貰ってたんだよ」


 ほう、大量の武器を注文して、さらに前払いとは豪気な依頼主も居たもんだ。


「まぁ、そんなわけで助かったぜ。長く続く戦争で鉄不足だったからな」


 あー、やっぱ鉄が不足してるから価格が高騰してたのか。

 これが戦争特需ってやつなのか? いや違うか。


「ああそうだ、ついでに聞きたい事があるんですが」


 素材について考えていた俺は、ふと思いついた疑問を口にする。


「何だ?」


「ミスリルの剣よりも硬い武器ってあるんですか?」

 

 俺はちらりとメーネに視線を動かしながら聞く。


「ああ、武器殺しか。成る程、ミスリルでも駄目とは大したスキルだな」


「分かるんですか?」


 さらりとスキルが原因と判断したが、そんなにメーネのスキルは有名なんだろうか?


「人間が使ってミスリルの武器が壊れるんだ、まずスキルが原因だろうと思っただけさ」


 成る程、やっぱり普通はミスリルの武器は壊れないらしい。


「ミスリルで駄目なら、アダマンタイト、それでも駄目ならオリハルコンってところか? まぁオリハルコンなんざ実在しているのか自体怪しいシロモノだがな」


 おー、オリハルコン! ファンタジーの最強金属の代名詞だな!

 ただ実在は疑わしいのか。残念だな。


「オリハルコンはデマって事ですか?」


「どうだろうな、オリハルコンを探す奴は多いし、オリハルコンで作られたといわれる聖剣や国宝はある。最も本当にオリハルコンなのかはこれまた疑わしいがな」


 ふむふむ、自称オリハルコンならあるのか。


「なら、今後の仕入れにオリハルコン探しをするのもアリかもしれませんね」


「ええ!? 本気ですかショウジさん!?」


「ははっ、そりゃあいいや! もしオリハルコンが手に入ったのなら、是非俺にも卸してくれよ」


「ええ、約束します」


 伝説の金属オリハルコンか、もしそんな物が実在するのなら、俺のスキルで大量生産して無敵のオリハルコン装備を制作するのも面白いかもしれないな!


「では私達はこれで」


「ああ、助かったぜ。それとだな……」


 店を出ようとした俺に、店主が話しかけてくる。


「今後はそのクソ丁寧な言葉遣いはいらん。そんな貴族相手に使うような言葉遣いをされるのはどうにも気持ち悪い」


 どうやら敬語は嫌いみたいだ。


「それと俺の事はモードで良い。店主殿とか親方とかはやめろよ」


「……分かったよモード。それから俺の事はショウジで良い」


「おう、剣が出来たら取りに来な」


 ◆


 さて、依頼も達成した事だし、また新しい商品が無いか探しに行くかなー。

 それともこんどは別の町に行くか?


「旦那様―!」


 王都の商店街を散策していたら、オグマが走ってやってきた。


「そんなに慌ててどうした?」


「それが、旦那様に会いたいという方が現れまして」


「俺に!?」


 開店したばかりの店に来て全く関係性のない俺を指名!?

 一体誰が!?

 まさか追っ手が店と俺の関係を嗅ぎつけたのか!?


「先方は旦那様に会うまで帰らないと仰っていまして……どうしましょうか」


 何だそりゃ、あの店に俺が関係していると確信しているのか。


「あー、名前は聞いているのか?」


 まぁ誰だろうとこの世界に知り合いなんて数えるほどしか居ない。しかも大半が碌でもない知り合いばかりだ。

 なので名前を聞けば会うべきかの指標にはなるだろう。

 知らない人間なら無視して、名前を名のらなかったのなら、それを理由にそんな失礼な奴とは会う気がしないとか適当な事を言えばいいや。


「サシャと名のる美しい女性です」


 女? この世界の女の知り合いなんて、商人ギルドの受付嬢かメーネくらいしかいないぞ?


「サシャ!?」


 俺が首を傾げていたら、傍にいたメーネが目を丸くして驚きの声をあげた。


「知っているのか?」


「ええ、マジックアイテムの研究者として冒険者の間では有名な人ですよ」


 へぇ、有名なんだ。

 でもそんな有名人が何故俺に?

 マジックアイテムの研究者なんて、俺と何の接点も無いぞ。


「さて、どうするかな」


 怪しい事は怪しいが、謎のマジックアイテムの研究者ってのは、ちょっぴり気になるな。


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