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25 ドワーフの依頼と貧困村

「儲かりまっかー?」


 俺はお約束のセリフを口にしながら鍛冶屋に入っていく。


「なんだその妙な挨拶は」


「私の故郷にいた商人達の挨拶です」


 残念通じなかった。ちょっと古かったか。

 というか異世界だしな。


「お前、逃げたんじゃ……いや、まぁ良い。以前頼まれた品は仕上がっている。持ってけ」


 俺は財布を開いて代金を渡そうとすると、店主に遮られる。


「その前に頼みたい仕事がある」


「仕事ですか?」


「ああ、大量の折れたミスリルの剣を持ってきたお前さんを見込んで頼みたい」


 ふむ、どうやら真面目な話みたいだ。


「実は今、かなりの数の武器製作を依頼されているんだが、鉄が足りなくて指定された数を揃えられそうにないんだ」


「それで私に材料を集めて欲しいと?」


「ああ。出来るか?」


 ふむ、素材集めか。

 そいつは俺の栽培スキルの出番だな。


「数と期日は?」


「そうだな……」


 親方は一旦店の奥に入ると、木箱を持ってすぐに戻って来た。


「この木箱に一杯の鉄を最低でも5箱、あればあるほど良い。ソイツを二週間以内で頼む。鉄の質はコイツと同じ純度で頼む」


 そう言って木箱の中から鉄の塊を取りだす。

 つっても、俺に鉄の良し悪しなんて分かんねぇよ。


「そうですね、ではその鉄と同等の純度の鉄を5つ程貸してもらえますか? 俺じゃ鉄の良し悪しは分からないんで。取引相手に実物を見せて確認してもらいます。ああ、5つなのは求める質の平均を割り出してもらう為です」


もちろん嘘だ。

俺の栽培スキルで手っ取り早く数を増やす為に数が欲しいだけだ。つってもあまり数を求めると親方も困るだろうし、何より不振がられる。

この辺りが適切な数だろう。


「分かった。持っていけ」


 親方はあっさりと了承して鉄の塊を持ってくる。

 物わかりの良い親方で良かったぜ。


 二週間なら森に戻るのに3日、栽培で5日、余裕をもって残りの日数を使えば問題ないかな。


「分かりました。任せてください」


「無理を頼んだ詫びとして修理代はチャラにしてやる。鉄の代金は持って来た時に払う。数が揃わなかったら集まった分だけでも持ってきてくれ」


「その時は完成品の剣でも買ってきますよ」


「ははっ、そんなモン持ってきたら鋳溶かして新しい剣を作ってやるよ!」


 ◆


「それにしてもショウジさんは凄いですね!」


 鍛冶屋を出て少し歩いていたら、不意にメーネがそんな事を口にした。


「え? 何で?」


「だって気難しいドワーフの鍛冶師がアキナさんを頼って鉄を注文したんですよ」


「それのどこが凄いんだ?」


 原材料を問屋に注文したようなもんだと思うんだが。

 しかしメーネは首を横に振って否定した。


「ドワーフは仕事に使う素材に凄く五月蠅いんです。自分が納得する素材しか欲しがらないので、商人を仲介せずに直接鉱山まで買い付けに行くドワーフも居るくらいなんですよ」


 農家に実際に出向いて質をチェックする料理人みたいだな。

 まぁ、それも良し悪しなんだけどな。

 なにせ大口契約ってのは、農家にとってありがたいけれど、相手が悪質な場合は来年の契約を盾に取って突然仕入れ値の値下げを要求してくるからな……


 ああいや、今のは無しだ。

 メーネに聞かせるような話じゃない。


「まぁそれだけウチの商品が魅力的に見えたって事だろ」


「はい! きっとそうですね!」


「それじゃあ今晩は王都の宿に泊まって、馬車の数が揃ったら森に帰ろうか」


「はい!」


 ◆


 馬車の用意が出来た俺達は、一旦壊冥の森の近くにある村にやってきた。

 この村に輸送用の馬車と従業員達を待機させる為だ。

 だが目的はそれだけじゃあない。


「何だ何だ?」


「馬車が一杯ねぇ」


 村の人達が何事かと馬車の回りに集まってくる。


「ほう、こんな辺鄙な村にこんな大人数のお客さんとは珍しい」


 いかにも長老然とした老人が姿を現す。


「初めまして、我々は旅の行商です。仕事でこの近くを通った際に、この村に気づきましてね。一つ商売でもさせてもらおうかと寄らせてもらいました」


 そう、もう一つの目的は、この村で行商をする事だ。

 商品は物価の高い王都の品なので、売っても大した儲けにはならないだろう。

 けれど今後この村で物資の受け渡しを続けるなら、行商は村人の信頼を得る事も出来る良い宣伝になる。

 何より、まだ商売に慣れていない新人店員の実戦経験を積むには丁度良い場所だ。

 一応経験者の従業員に鍛えてもらったらしいけど、客の対応は実際にやらないと身につかない。

 なので、連れて来た店員達には頑張って接客に慣れて欲しいと思う。


「ほう、行商の方でしたか」


「ええ、王都から仕入れた珍しい商品や便利な商品がありますよ、ぜひご覧になっていってください」


「へぇ、王都の商品か。そりゃ確かに珍しいなぁ」


 馬車から卸された商品がゴザの上に並べられていく。


「どうぞ皆さん、冷やかしでもかまいませんから、見ていってください!」


 俺の呼び掛けに応える様に、村人達が露店に群がる。


「あらまぁ綺麗な服ねぇ。王都じゃこんな綺麗な古着が売ってるの!?」


「こっちは切れ味の良さそうな鎌じゃな。これなら草刈りもあっちゅうまに終わりそうじゃのお」


 村人の興味は古着や農具といった実用品に向けられ、逆に装飾品や嗜好品へはあまり興味が無さそうだった。

 ふむ、生活が困窮しているから、贅沢品には金を使いたくないって事かな?


「あ、あの、こちらの髪飾りはおいくらですか?」


 と、思ったら若い男性が女性ものの髪飾りの値段を聞いている。

 当然本人が使う為ではなく、だれか意中の女性に贈る為だろう。

 頑張れ若人よ。


「あの……」


 とその時、一人の痩せた女性が俺に話しかけて来た。


「何でしょうか?」


「食糧は売り物にありませんか?」


「食糧ですか?」


 農家が食糧? 普通農家が買わないものって贅沢品以外では食糧が普通じゃね?

 そりゃあ地球の農家だったら料理の為に自分達が作っていない食材を買うだろうが、この世界で食べた料理を見る限り、一般人はあまり多くの食材を使う料理は作らない。

 寧ろただ焼いて塩をかけただけの肉や、煮た芋がデンと入った塩スープといった単純な料理がメインだった。


 ふと気が付くと、他の村人達も、買い物の手を止めてこちらを見ている。


「そうですね、今はありませんが、後日合流する馬車にはいくらか積んでありますよ」


 すると村人達がわっと歓声をあげる。


「その、申し訳ありませんが、少しで良いので食料を売っては頂けませんか?」


 村長がおずおずと、しかし期待を込めて食料を売って欲しいと頼んでくる。


「かまいませんよ。お代さえ頂ければ何でもお売りしますよ」


「「「「おおおおっ!!」」」」


 再び村人達から歓声があがる。


 ふーむ、こりゃあ俺の想像以上にこの国の食糧事情はマズいのかもしれない。

 国王も俺が処分されそうになった時に、食糧事情の改善を期待していた。

 そして今目の前で、一番食料を得やすいであろう農家の人達が食糧を求めて来た。


 こうなると、俺がこの世界で大商人となる為には、食料の大量生産も視野に入れた方が良いかもしれないな。


 ◆


 その後、俺とメーネは一足先に食料を積んだ馬車と合流すると言って、村を出た。

 もちろん目的地は壊冥の森の家だ。


 そして店主から受け取った鉄を畑に埋め、余ったスペースに野菜と、ついでにメーネが狩って来た魔物の肉を畑に埋める。


「魔物の肉って食べられるのか?」


「はい! 戦うのは危険ですけど美味しいですよ! 新人冒険者の中は、食費を押さえる為に魔物肉を食べる人も多いですよ」


 そういうものなのか……


 そして、鉄を増やす間傍らに食料も増やし、貯まった鉄を積み込みに行くついでに食料も運ぶ。


「おお、野菜だけでなく肉も売って頂けるのですか!?」


「芋を20個売ってくれ!」


「肉をひと固まり売ってくれ! 干し肉にしたいから塩も無いか!?」


 凄い勢いで食料が売れていく。

 特に保存性の高い食材が人気だな。


「旦那様、肉が足りません!」


「芋のもうありません!」


 ああ、こりゃあ食料の追加発注が必要だなぁ……。


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