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24 広くて大きい王都のお店

「そんじゃ行きますか」


「あの、本当に行くんですか?」


 準備を整えた俺に、メーネが不安そうな顔で問いかけて来る。


「王都から逃げてきてまだ一か月じゃないですか」


 寧ろもう一か月だ。


「流石に早すぎませんか?」


「いや、壊冥の森に入って一か月も経てば、もう死んだか別の国に逃げ切ったと思っているだろう。寧ろこんなに早く戻ってくるとは思わないだろうから、王都はノーマークさ」


 そう、この世界の基本的な移動手段は馬もしくは輸送用に調教した魔物だ。

 そしてその歩みも車に比べたら非常に遅い。

 何しろ生き物なので、あまり速く走らせるとすぐにバテてしまうからだ。


 一応飛竜馬車とかいう高速機関があるらしいが、こっちは代金が非常に高いのでもっぱら貴族か大商人専用とのこと。

 あと輸送量も少ないとのこと。


 そんな訳で、外国に逃げた筈の俺達がUターンして王都に戻ってくる状況は、追っ手としても想定外って訳だ。

 勿論追っ手が、俺達は王都かその近辺に潜伏しているかもしれないと想定して、王都周辺を徹底捜査する事も考えて一か月は動かないでいた。


 その間に俺は栽培スキルで持ち込んだ様々な荷物を栽培して、商品を増やしていた。


「どのみちそろそろ戻らないと、王都に残してきた社員達に渡した生活費が切れるからな。追加の生活費と、本格的に商売を始める為の商品を渡す必要がある」


「そ、そう言われると……」


 元奴隷達を雇ってはどうかと提案したのは自分なので、メーネもそれ以上は文句を言わなかった。

 まぁ万が一追っ手に遭遇したら、メーネに守ってもらう予定なんだけどな。


「じゃあ王都に戻ろうか!」


 ◆


 「たしかこの宿だったな」


 従業員達が泊まっている宿へとやって来た俺達は、一階の酒場に待機して従業員のリーダーであるオグマが姿を現すのを待っていた。

 ちなみにオグマってのは、防御スキルを持っていた元奴隷の事だ。


 宿の従業員に呼んでもらう手もあるのだが、それをすると従業員に俺達の顔を覚えられてしまう危険があった。

 それじゃあ雲隠れをした意味が無い。

 だから俺はオグマと自然に合流する為、一階が酒場のこの宿をあらかじめ選んでおいたのである。

 そんな訳で待つ事しばし、ようやくオグマが一階の酒場に姿を現した。

 俺は彼と視線が合った瞬間に、手を振って挨拶する。

 オグマも俺が手を振った事に気づいてすぐにやって来た。


「ご無沙汰しております」


「店は?」


「案内します」


 ◆


 オグマに案内され、俺達は王都の中を歩いて行く。

 メーネはいつ追っ手に出会うかとオドオドしていたが、特に誰かに会う事も無く、俺達は目的地へとたどり着いた。


「ここが我々の店です」


「これが……。」


「すごい……」


 メーネが驚くのも無理は無い。

 正直言ってこれは俺も予想外だった。


 俺の予想では、王都で買える店はもっとこぢんまりとした小さなお店の予定だったのだ。

 だが、従業員が用意した店は俺の予想以上に大きく立派な店だった。

 店だけじゃない、立地面で考えても大通りに位置していて、非常に素晴らしい物件だ。


「荷物を入れる為の倉庫と馬車を入れる為の車庫、それに馬小屋もあります」


 至れり尽くせりだな。


「よくこんな物件を用意出来たな」


 俺がそう呟くと、オグマは嬉しそうな顔をしながら説明してくれた。


「実はこの物件はゴルデッドが借金のカタで奪った店なんですよ。けどゴルデッドの違法奴隷契約が表ざたになった事で、他所に売られる前に国に取り上げられたみたいなんです。そして先日この店が売りに出されたって訳です」


「元の持ち主に返されなかったのか?」


 持ち主に返される事無く国に没収されたと言われ、俺は驚きを禁じ得なかった。

 この世界ではそんな横暴がまかり通るのか!?


「本来の持ち主は既に死んでいまして、残った家族も奴隷にされたか国外に逃亡したらしくて、返還する相手が居なかったそうです」


 そいつは酷い話だ。

 ただ、ちゃんと返す相手が居るのなら返還はされると分かり、ちょっと安心した。


「かなり良い物件だったんで、他の大店も狙っていたんですが、旦那様から預かった予算が潤沢だったので、金貨を積んで買い取りました」


 金にあかして権利を手に入れたって訳か。

 けどそんなに多く予算を出したつもりはなかったんだがな。

 もしかして異世界の不動産事情を読み違えていたりしたのかね?


「あとはまぁ、ゴルデッドの奴隷をしていた時に、色々と裏の事情も聞いていましたからね。挨拶がてらその話をしたらあっさり入札を諦めてくれましたよ」


 なんだそれ、一体何を話したんだ?


 ……まぁいいや。良い店が手に入ったのは純粋に良い事だ。

 細かい事は気にしない様にしよう。

 きっとこちらの世界ではよくある、同業者への牽制みたいなモンなんだろう。


 ううむ、ウチは後ろ暗い営業をしないように気をつけないとナ。

 というか、そんな簡単に大店を諦めさせるなんて、ウチの従業員って結構有能なんじゃないか?


「それで、店はいつ始められる?」


「いつでも。店員の教育も終わり、あとは商品さえあればいつでも開店できます」


 おお、なかなか有能じゃないか。


「商売は初めてじゃないのか?」


「いえ、同じ奴隷にされていた仲間に商売をしていた者がおりますので、経営はそいつに任せてあります」


 ほう、それは嬉しい誤算だな。

 とはいえ、一つ確認しておかないとな。


「ちなみにそいつは何で奴隷になっていたんだ?」


 商才が無くて倒産したとかは勘弁してくれよ。


「いえ、どうも商売敵とトラブルになったのが原因のようです。それで裏で繋がっていたゴルデッドが営業を妨害して、客足が遠のいた事で商売が立ち行かなくなったみたいです」


 またゴルデッドが原因か。

 有能な人間でも、めぐり合わせが悪いと悪党に人生を滅茶苦茶にされるってのは哀しいもんだな。

 まぁ、ウチに来たからには、その才能を遠慮なく発揮してもらうとしよう!


「ああそうだ、その商売敵を調べておけ。元商売敵が働いている店と分かれば、また攻撃してくる可能性がある。トラブルになっても大丈夫な様に準備をしておくんだ。必要なら冒険者あたりを雇って店の護衛に回しても良い」


「分かりました」


 ゴルデッドが居なくなっても他の悪党とコネがあるかもしれないから気をつけないとな。


「それと馬車に積んで来た荷物を下ろしておいてくれ。それを最初の商品として売り出す」


「かしこまりました」


 とはいえ、馬車一台分ではまだまだ店の規模に比べて商品が少なすぎるな。


「ところで、頼んでおいた王都の物価情報は集まったか?」


 俺は逃げる前に頼んでおいた仕事の進行具合を確認する。


「はい、我々が入る事の出来た店のみですが、王都で扱っている商品の価格をこちらに纏めておきました」


「入る事が出来た店ってのはどういう意味だ?」


「貴族相手の店や、大工相手の材木問屋の様な大量の素材を売り買いする店などですね。そういった一般人を装って入る事の出来ない店は調べる事が出来ませんでした」


 ああ、たしかにそう言う店はちょっと無理だよな。


「ご苦労様、助かるよ。分かる店だけでも十分だ。今後も値段の推移を記録してくれ」


「い、いえ! 我々は旦那様に救われた身です。お礼を言われる程の働きはしておりません!」


 いやいや、ちゃんと働いた部下は誉める、これが出来る上司の鉄則だぜ。

 まぁ上司と言えるほどの役職になるなんて初めての経験だから本当にこれで良いのか不安だけどな。


「ああそうだ、頑張って働くのは良いけど、無理はするなよ。適度な休憩と食事を摂らせるように」


「かしこまりました! 旦那様のおっしゃる通りにいたします!」


 なんかさっきよりも声のテンション高くなってない?


 俺は受け取った書類を見ながら売れ筋で日持ちする商品を見繕う。

 ただ売れるだけではだめだ。

 まだまだ開店前で日の浅いウチが複数の商売敵を作るのは避けたい。

 だから最初は単一の商品もしくは競合相手が居ない商品で攻めないと。

 食品か、鉱物か、はたまた完成済みの加工品か。


「ああそうだ。馬車も数台用意しておいてくれ。王都とは別の場所で商品の受け渡しが出来る様にしたいんだ」


「かしこまりました旦那様」


 できれば壊冥の森の近くで商品の受け渡しをしたい。


 ふむ、いっそ近くの村に店を作って、そこで商品の受け渡しをするか?

 持ち込んだ一部の商品をその村で売れば、村人も受け入れてくれるだろうし。

 村から商品の買い取りもすれば彼等の収入にもなるもんな。

 何より村にとってなくてはならない存在になれば、何かトラブルがあった時に時間を稼ぐ事ができる。

 ……なんか郊外の大型ショッピングモールになった気分だな。


 まぁそれはおいおい考える事にするか。

 とりあえずは王都で新しい商品を探すのと……ああ、あと鍛冶屋の店主にも会いに行こう。

 メーネの武器の修理を頼んでいたしな。


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