19 ポーションを買おう!
夜逃げ先を決めた俺達は、さっそく旅支度を始める事にした。
「それじゃあ出国準備です。冒険者として危険な森を抜けるのに必要と思う物資はありますか?」
危険な長旅になる以上、旅慣れている冒険者の意見は必須だろう。
「それはやはりポーションですね。魔法が使えない場所なので複数の回復手段は確保しておきたいですから。まぁ私達は魔法を使えませんけどね」
あははと冗談を交えながらメーネが必要な品を列挙していく。
腹が決まったら随分と頼りがいのある雰囲気になったもんだ。
これもメーネの冒険者としての資質なのかもしれないな。
「ではまずはポーションを買いに道具屋に行きましょう」
俺達は何食わぬ顔で道具屋へと入っていく。
道具屋といっても、この世界の道具屋は地球のファンシーショップや生活雑貨などを売る店ではなく、ゲームに登場する道具屋の様な冒険や旅に役立つ実用品を売る店だ。
どちらかというとキャンプ用品を売る店と薬局が一緒になった店といった方が正しいかもしれない。
「私ではポーションの良し悪しは分からないので、どのポーションを買うかはメーネさんにお任せします」
ここは冒険者であるメーネの目利きを期待する事にしよう。
「はい! お任せください! ええとですね、ポーションはまず色でどの効果なのかが分かるんです。青は傷の治療、緑は毒消し、黄色は麻痺治療といった具合にです」
「ほうほう、色で見分けられるのは分かりやすくて良いですね」
「そうなんですよ、名前を書かれても文字が読めない人が居ますからね」
ああ、そういう事か。どうやらこの世界はあまり識字率が高くないみたいだな。
「あれ? でも商人ギルドでは書類を記入しましたけど冒険者ギルドでは要らないんですか? 色で判断する様なポーションを使うのは主に冒険者ですよね?」
「そういう人の為に有料で代筆サービスがあるんですよ」
代筆屋なんてものもあるのか。
こうなると文字の読み書きが出来るというだけでこの世界では金になるんだな。
ふむ、ウチの社員に読み書きが出来る人材がいるのなら、代筆業をさせるのもアリかもしれない。いや寧ろその社員に簡単な読み書きを学ばせる教室を開かせるとかどうだろうか?
ウチの社員全員に読み書きを覚えさせれば、色んな町で教室を開く事も出来るぞ。
「それとですね」
おっと、メーネの説明の途中だった。
「ポーションは色が澄んでいるほど、鮮やかなほど質が良いです。こっちの安いポーションはちっさなゴミが浮いていますよね。だから安いんです。で、こっちの綺麗なポーションは中にゴミが一つも浮いていないので質が良いんです」
「ほうほう、これまた分かりやすいですね」
と、ここでメーネが肩をすくめる。
「ただ質の良いポーションはとても高いので、皆あまり買わないんですよね。しかも消耗品なのでなおさらです。このポーションを躊躇なく買えるような人は間違いなく高レベルの冒険者ですね」
ほほう、そういう見極め方もあるのか。
しかし、質の良いポーションの見極めがこんなに楽なのは便利だな。
「で、ここからが冒険者の目利きの腕の見せ所です。たいていこういうポーションは値段と質の設定がガバガバなんですよ。質の低いのはこの金額、中くらいはこの金額といった感じで。なので私の様なランクの低い冒険者は質の低いポーションの中から一番質の良い物を選んで買うのが必須技術なんです」
地球に比べて商品の値段設定がいい加減というか、いちいち個別に価格を付けるのが面倒なんだろうな。
手作りだろうから質のムラも小さくないだろうし。
「では少し待っててくださいね! 良いのを選びますから」
「いえ、ここは一番良いポーションを買いましょう」
「わかりました! 私の目利きを期待して……って、え?」
メーネがどういう事? とこっちを見て来る。
いやだって、質の良いのは一番澄んでいる品らしいし、それなら目利きもいらないかなと。
それに店に置いてある最高級品のポーションは、中級と比べて質のムラが少ない。
澄んでいる物ほど良いのだから、最高級品だけは誤魔化しにくいという事だろう。
「危険な魔物が多いみたいですし、一番良い品を揃えていきましょうか。という訳で店員さん、一番良いポーションを10個ずつ下さい」
「え? あ、は、はい!」
近くで商品の整理をしていた店員が驚いた顔でこっちを見た後、一番高いポーションを運んでいく。
よしよし、これで後で落ち着いてから最高級ポーションを量産すれば、今後回復アイテムに困る事はないな。
「……」
「……」
何故か店内の客や他の店員達がチラチラとこちらを見て来る。
バレない様にチラ見しているつもりみたいだが、皆してみて来るのでバレバレだ。
「なんだか注目されていますねぇ」
「そりゃあこんな派手な買い物をすれば注目を集めますよ。普通全種類の最高級ポーションをまとめ買いする人なんていませんから」
成る程、どうやら俺は地球でいう石油王が店の端から端まで商品を買う様な行為をしてしまったみたいだ。
まぁでも、どうせ出ていくんだから多少目立っても構わんか。
あとポーションの目利きを中止されてメーネがちょっと不満そうだ。
あとでフォローしておかないとな。
「お客様、商品のご用意が出来ましたのでご確認ください」
俺は店員に呼ばれてカウンターへと向かう。
「ご注文通り最高級ポーションを各10個ずつご用意致しました」
そう言って店員が木箱にポーションをしまっていく。ちゃんとポーションが割れない様におが屑をクッションにしているのが好感がもてるね。
「ん?」
と、そこで俺は店員が梱包するポーションの中に、先程のメーネの説明になかった色の物がある事に気付く。
「どうされましたかお客様?」
店員がすぐに俺の異変に気付いて反応してくる。
乗客の購買意欲を失いたくないんだろうな。
「いや、この紫色のポーションは何かなと」
「さすがお目が高い。こちらは魔物避けのポーションです」
「魔物避け?」
これこそが、俺達の今後を決める事となった重要なアイテムとの出会いであった。