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17 王様の優雅な悩み

「大変な事になったな」


 これは私がこの国の継いで初めての大事件と言えるかもしれない。

 私の言葉に大臣が説明を続ける。


「違法奴隷を売買していた奴隷商人の犯罪が明るみに出た事で、後ろ盾になっていたホールデン子爵が敵対派閥に攻撃され、更に奴隷商人の事務所から違法奴隷を購入した貴族のリストが発見されたそうです」


「そんな物まで発見されたのか」


 私は頭を抱える。

 召喚した勇者が戦闘向けのスキルを持っていなかった事で、短絡的な家臣達を静めるのに苦労したと言うのに、今度は違法奴隷の発覚で騒動になるとは。


 まぁ、あの勇者については幸いにも農業スキルを持っていたおかげで、利用価値を家臣達に納得させる事が出来たのがお互いに幸いだったのだがな。

 寧ろ国王としては、魔族との戦いよりも食糧を迅速に確保できる勇者の方がありがたいというのが本音だ。


 もっとも、そんな本音は口が裂けてもタカ派の家臣達の前では言えんのだよなぁ。

 せっかく呼んだ勇者を、痩せた領地や名声が欲しいだけの連中が戦争を続けたいが為に殺されては元も子もない。

 本来勇者とは、この世界が真に必要とする力を持った者が召喚されるのだから。

 とはいえ、国内でその事実を知っているのは、余を含めて一部の人間だけなのだがな。


「まぁ、ホールデン子爵達は仕方あるまい。法を犯していた事が明るみに出たのだからもう如何しようもあるまい。厳罰に処するがよい」


 どうせホールデン子爵は裁かれても問題ない程度の貴族だ。

 その上で命令をしていた者達にとっても、金ヅルが減った程度の感覚であろう。


「承知いたしました。ではホールデン家当主は違法行為を幇助した罪で役職を取り上げ、当主の座からも強制的に引退、更に財産の半分を没収、とどめに分家の出来るだけ有能で分別のある人間を当主に据えましょう。厳しい沙汰の理由は魔族との戦いで大変な時に、愚かな行為で国を混乱させた罰と言う事で。他の違法奴隷を売買した貴族達は役職を降格させたのちに当主の引退と罰金、それと違法奴隷の解放と言ったところですかな」


 おいおい、随分と厳しい沙汰を下すではないか。

 あまりキツイ罰でも余が恨まれるから止めてくれよ?


「……それが落としどころか。全ての罪はホールデン子爵に押し付けられ、違法奴隷を買って巻き添えを喰らった連中はヘマをして権力を失ったホールデン子爵を恨む。弱った悪党はいつの世も生贄の役目を負うものだ」


 間違いなくホールデン子爵が裁かれる時は、身に覚えのない他の貴族の罪まで押し付けられているだろうな。

 だが貴族が本当の意味で失敗する時というのは、全てを失う時だ。

 家名が残っているだけ温情ある沙汰と言えよう。


「ヘマをしたのがホールデン子爵で良かったですな」


 大臣の言いたい事も分かる。

 なにしろホールデン子爵は戦争継続を望むタカ派の中核の一人だ。

 その一人が突然咎人として裁かれれば、タカ派の連中もしばらくは大人しくするより他ない。


「国を繁栄させる力を持った勇者が現れ、それに合わせる様に戦いを望む者に楔が撃たれた。これは天啓であろうかな?」


「さて、どうでしょうな。ただ言えるのは、今後しばらくはホールデン子爵以下罰された貴族の役職を求めて宮廷中が大騒動になると言うところでしょうか」


「それはそれでウンザリするな」


「精々愚か者が差し出す賄賂で国庫を潤すとしましょう」


 ふん、どうせその様な者達に役職を与える気はないくせに。


「これで少しは城中の風通しが良くなると良いのだが」


 余は心からそうなる事を願うのだった。


 ◆


「ホールデン子爵が捕まったか」


 私は王都を見下ろしながらひとり呟く。

 まったく愚かなヤツめ。せっかく私が違法奴隷の後ろ盾役を任せてやったと言うのに。

 おかげで私に入る金が減ってしまったではないか。


「まったく、誰がヤツの敵対派閥に情報を流したのだ」


 忌々しい、この国で私に逆らうなど愚かにも程がある。

 あの弱腰の国王ですら、私を相手にする時は細心の注意を払うのだぞ!


「件の違法奴隷商人とトラブルを起こした者を探せ」


「かしこまりました」


 私の命令を聞いて、部下が迅速に動き出す。


「この私の顔に泥を塗ったのだ。徹底的に苦しませて殺してやる」


 ◆


「おい商人。お前狙われてるぞ」


「え? やぶからぼうに何ですか一体?」


 メーネの壊した武器の修理を頼む為、いつもの鍛冶屋に行ったら店主にそんな事を言われた。


「お前高利貸しのゴルデッドと問題を起こしたろ。その件を調べ回ってるヤツが居るらしくてな、ウチにもそれとなく話を聞きに来たぞ」


「げげっ、マジかよ」


 意外に動きが早いな。

 ゴルデッドの後ろ盾と敵対していた貴族の所には顔を隠して行ったってのに。


「武器殺しの件で揉めてたのは近所じゃ有名だぞ」


 しまった、メーネの件から探れば簡単に俺に行きつくわ。

 とはいえ、まだ俺が勇者だとはバレていない筈。バレていないと思いたい。


「逃げるなら早くした方が良いだろうな。頼まれた武器は直しておいてやる。ほとぼりが冷めたらこっそり取りに来い」


「っ! ありがとうございます」


 俺は情報を提供してくれた店主に深く礼を言って店を出た。


「あの、すみませんアキナさん。私の所為で」


 護衛としてついてきたメーネが申し訳なさそうに謝罪してくる。


「良いんですよ、遅かれ早かれこうなるのは分かっていたんですから」


「え? それじゃあアキナさんは最初から貴族と敵対するつもりだったんですか!?」


 いやそう言う意味じゃなくて……ああいや、俺が勇者で、俺を処分したい貴族に狙われるかもしれない状況だってのは、言わない方が良いか。


「アキナさん、そこまで私の事を……」


 おかしい、何か変な方向に勘違いされているような気がする。


「予定が前倒しになりましたが、我々はこの国を出ようと思います。今からその為の食料や必需品を買いに行きましょう」


「はい! 貴方とならばどんな場所でも天国です!」


 あー、異世界にも天国って概念あるんだなぁ。


「あ、でも新しく雇った皆さんはどうするんですか?」


 ああ、元奴隷の社員達か。

 俺の逃亡に巻き込むか、彼等を放って自分達だけ逃げ出すか。

 メーネがどうするのかと不安げな目で俺を見つめて来る。


「それについては考えがあります」


 うん、せっかく雇った社員達だ。

 働いてもらう前に解雇するのはあまりにも不憫だろう。

 そう、彼等には俺の代わりにこの国で働いてもらうとしよう。

 俺のアキナ商店の窓口、チェーン店の店員としてな。


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