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16 新しいお仕事

「アキナさーん!お客様ですよー!」


 畑で作業をしていたら、メーネが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 栽培スキルを使っている畑には絶対入らない様にメーネには伝えてあるから、なにかあったら大声で俺を呼ぶように言ってあるんだ。


「何かあったんですか?」


 作業を切り上げた俺が出て来ると、事務所の前に見覚えのある人達の姿があった。


「貴方達は……」


 先頭に立っていた男が俺の姿を見ると頭を下げてくる。


「先日はお世話になりました」


 そう、男達はゴルデッドの襲撃の際に俺達と戦った違法契約奴隷達だった。


「俺達は、貴方に是非ともお礼が言いたくて……」


「お礼?」


 男達は俺の前に集まると、なんと突然土下座を始めた。


「「「助けて頂き、ありがとうございますっ!!」」」


「な、何ですかいきなり!?」


「貴方がゴルデッドの違法奴隷販売を告発してくれたおかげで、俺達は不当な契約で被害を受けたとして奴隷の身分から解放されたんです。それにゴルデッドの事務所に隠されていた書類から、奴の悪辣なやり口も判明して俺達が借りた借金も無効となったんです」


「おお、それは良かったですね!」


 この世界の社会形態を考えると、本来なら引き続き奴隷としてそのまま別の主に売られるのが普通の様な気がするけど、これはおそらくゴルデッドの後ろに居る貴族達を攻撃する口実を作る為に、違法契約奴隷達を完全な被害者に仕立て上げたんだろうな。


 そういう意味ではこの人達は運が良かったと言える。

 偶然とはいえ、奴隷の身分から解放されてさらに借金も帳消しになったんだからな。


「本当にありがとうございました!」


「いえいえ、俺はちょっとお手伝いをしただけですよ」


 まぁ感謝されるのは嬉しいが、あまり大げさにされてもなんだか恥ずかしい。


「この御恩は一生忘れません。アキナさんになにかありましたら、我々はすぐに駆け付けます!」


 うん、こういう義理堅いのは良いねぇ。


「そういえば皆さんこれから働く当てはあるんですか?」


 ふと俺は元奴隷だった彼等のこれからの事が気になった。

 ゴルデッドに騙されたとはいえ、彼等は何かしらの理由があって借金を作り、そして返済が出来ずに奴隷になってしまったのだから。


「それは……」


 一部はゴルデッドにスキル目当てでハメられた人達だったが、中には単純に生活苦で食っていく事が出来ないという人達も居た。

 するとやはりというか、彼等の多くが目を伏せる。


「ウチは数年前の凶作で長男以外の全員を奴隷商人に売る事になりました。奴隷とはいえ、食事はさせてもらえますから」


「ウチもだ」


「ウチは親が商売で失敗して何もかも失った。帰ってももう家は他人のものだ」


「私達の村は魔物に攻められて壊滅して、必死で逃げ出したんですが、当時子供だった私達では碌な働き口が無くて……」


 まぁなんとなくそうだろうというのは分かっていた。

 地球でも奴隷として働かされていた異民族が奴隷反対派に救われて解放されたが、何をすれば良いのか分からなかったり、そもそも職が見つからなかったりで元の主の下に戻るというケースが少なからずあったそうだ。


 彼等は奴隷の身分から解放されただけましだが、現実には解放された後の事まで考えてやる必要がある。

 とはいえ、俺がそこまでしてやる義理はない。

 非情な様だが、俺だって余裕がある状況じゃない。

 今回の件は、俺にとって有益な存在になるメーネを手に入れる為に行った事だ。

 特に役に立たない人間までしょいこむ必要は全く感じなかった。


「あの、アキナさん……」


 けれどその時、メーネが俺になにかを言いたそうに声をかけて来た。


「なんですかメーネさん?」


 いや、言いたい事は分かるんだけどな。


「この人達を助けてあげる事は出来ませんか?」


 自分を救ったように彼等も救って欲しいと言いたいんだろう。


「メーネさん、気持ちは分かりますが、さすがに人間は犬猫じゃないんですよ。これだけの人間を養う余裕なんてありませんって」


 うん、いくら俺が『栽培』スキルでお金を無限に増やせるとはいえ、それで何十人もの奴隷を養うとなるとその責任は重い。

 そもそもそんな俺に依存する生活じゃあ、将来俺が死んだらそれでおしまいじゃないか。


 けれどメーネは首を横に振った。


「ええと……それは分かっています。ですから、この人達をアキナさんのお店で雇う事は出来ませんか?」


「え?」


 その時メーネが言葉にした提案は、俺が予想もしていない事だった。

 いや、普通に考えれば、その選択もありだったんだが、どうやら俺は自分でも気づかないうちにいっぱいいっぱいになっていたらしかった。


「雇う……ですか?」


「はい。アキナさんは行商をしていますが、将来を考えるとお店を持つ可能性もありますよね? 行商を続けるなら沢山の商品を運ぶ為にいくつもの馬車でキャラバンを組むって選択肢もあると思うんです」


 むむむ、確かにそれもあると言えばあるか。

 いや寧ろ商人として大成するなら、多くの商品を扱い、それを販売管理する社員の存在は必須だ。

 俺とメーネの二人では、どうしても出来る事が限られるのは間違いない。


「確かに、それはそうですね……」


「でしょう! だったらこの人達を雇いませんか!?」


 うーむ、これは俺の想定ミスだな。

 寧ろこのアイデアは経営者である俺が考えつかないといけないものじゃないか。

 長年ブラック企業でこき使われてきた所為で、社畜根性が染みついて経営者の視点でものを考えられていなかった。


 どうも大勢の元奴隷達を救うという行為に対し、自分一人ではとても背負いきれないと、俺が彼等を養うつもりで考えてしまっていた。

 彼等を救う事を考えた時、奴隷は雇い主が養うものというイメージに囚われてしまっていたが、よくよく考えると、彼等はもう奴隷じゃない。


 それに世界一の大商人になるつもりなら、俺がこの世界に来る前から渇望していた起業の夢をこの世界で再開するつもりなら、社員を雇うという行為は、避けては通れないものじゃないか。

 そしてなにより、大商人として大成するのなら、この程度の人数の社員相手に怖気づいて上手くゆく筈がないじゃないか!


「……」


 俺は男達に向き直る。

 皆これからの生活を考え不安そうな顔をしていた。

 今度こそ上手く出来るのか、また借金まみれになって奴隷になってしまわないかと。


「皆さん」


 俺は彼等に語り掛ける。


「は、はい!?」


 皆が顔をあげて俺を見つめる。

 うわー、数十人から見つめられるってめっちゃ緊張するわ。


「もしよければですが、俺の店で働きませんか?」


「あ、貴方の店でですか!?」


 俺とメーネを除いた全員が、驚きの声をあげる。


「ええ、主な仕事は商品の販売輸送業務、それに護衛や農作業などです」


「い、良いんですか!? 元奴隷の我々で!?」


「やる気があるならですが……」


「ぜ、是非! やらせてください!」


「俺もやらせてください!」


「私も働かせてください!」


 その場に集まった全員が、俺の元で働きたいと声をあげる。


「では皆さん、これからよろしくお願いします!」


「「「よろしくお願いします旦那様っっ!!」」」


「だ、旦那様!?」


 なんだそれ!?


「だってアキナさんは数十人の人間を雇う大商人になったんですよ? そしたら店員達はアキナさんの事を旦那様というのは当然でしょう?」


 ああ、つまり旦那様っていうのはこの世界でいう社長って意味か。

 そういえば時代劇でも丁稚が店の主の事を旦那様って言ってたなぁ。


「うわ、めっちゃ違和感」


「うふふ……」


 メーネが愉快そうに、面白そうに笑い声を浮かべる。


「旦那様ばんざーい!」


「俺達旦那様に一生ついて行くぜー!」


 やーめーろー! なんかめっちゃ恥ずかしいーっ!

 うわーっ! これから社員が増える度にこんな思いをしないといけないのかよー!

 経営者きびしーっ!


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