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13 奴隷商人の逆襲

「こんにちは」


 翌日の朝、俺達は再びゴルデッドの事務所へとやって来た。


「んぁー? 誰だこんな朝っぱらから……っ!?」


 遅くまで起きていたのか、ゴルデッドの部下は眠そうにしていた。

 おそらくは襲撃犯達が俺の殺害に成功したという報告をしに来るのを待っていたんだろう。

 だが寝ぼけた瞳で俺達の姿を確認すると、驚愕で目が大きく見開かれる。


「何で手前ぇが生きてるんだ!?」


 おいおい、そんな事口走って良いのか?

 殺した筈の俺が生きていた事に、ゴルデッドの部下は激しく動揺していた。


「んー、何の話ですかね? それよりもゴルデッドさんを呼んでもらえませんか?」


「ボ、ボスを!?」


「ええ、大事なお話です」


「……ちょっと待ってろ」


 自分だけでは状況に対応できないと判断したのだろう。

 ゴルデッドの部下は素直に彼を呼びに事務所の奥へと向かった。


 そして数分が過ぎた頃、ゴルデッドが部下とともにやって来る。

 その目は俺の暗殺が失敗した事に対する苛立ちで満ちている。

 口にこそ出さないが、こちらへの敵意は黙っていてもまる分かりだ。


「何の用だ?」


「いえね、実は昨日我が家に強盗が押し入って来たんですよ」


「ほう、そりゃあ災難だったな」


 ゴルデッドは他人事の様に言うが、こっちは犯人が誰かとっくに知っているんだよ。


「で、そんな事を言いに来たのか?」


「いえいえ、大事なのはこれからですよ。実はですね、ウチに押し入った強盗達はゴルデッドさんの部下の方の命令で俺を殺しに来たと証言したんです」


 俺は昨夜の襲撃者達が自白した内容をゴルデッドに教えてやる。


「知らんな。どうせ責任逃れの為の言い訳だろう」


 はっはっはっ、ヌケヌケとよくもまぁ。


「成る程、ではゴルデッドさんは無関係と」


「ああ、当然だ」


「そうですか。それは安心ですね。何しろ私達を襲った襲撃者達は強盗殺人をもくろんだという事で、犯罪奴隷として捕まってしまいましたから。ゴルデッドさんが無関係でよかったですよ。メーネさんを借金のカタに奴隷にしようとした貴方が奴隷になったら笑いごとじゃありませんものね」


「……言いたい事はそれだけか? ならさっさと帰れ。俺は眠いんだ」


「おや、なにか遅くまでお仕事でもされていたんですか? でも夜更かしは体に毒ですよ」


 ギロリと睨むゴルデッドに対してわざとらしく怯えるフリをしながら俺達は事務所を出ていく。


「おっとそうだ。寝不足のところ申し訳ありませんが、後ほど強盗の件で憲兵が来ると思いますから、まだ起きていた方が良いですよ。それでは失礼」


 と、言いたい事を言いきった俺は、事務所のドアを閉じた。


「さぁ、帰りますか」


 俺は後ろに控えていたメーネに語り掛ける。


「……」


 おや? どうして黙ってるんだ?


「どうしたんですかメーネさん?」


「どうしたんですかじゃないですよ! 何挑発しているんですかー!」


 口を開いたメーネが腕をブンブンさせて興奮する。


「私達を襲ってきた相手の本拠地に自分から向かうなんて、私凄く怖かったんですからねー!」


 借金を返済したというのに、未だメーネはゴルデッド達に苦手意識を持っているみたいだ。


「まぁまぁ、落ち着いてください。あれはわざとですよ」


「わざと?」


「はい。私を殺すのに失敗した彼等は、次は慎重に行動するでしょう。昨夜の襲撃で憲兵に目を付けられてもいますしね」


「それなら襲われる可能性が減るから良いんじゃないですか? むしろ挑発なんてしたらまた襲われちゃいますよ?」


「はい、襲ってもらえる様に挑発しました」


「だから何ですかー!?」


「つまりですね、彼らが大人しくするという事は、またほとぼりが冷めたら襲ってくるという事ですよ。しかも次は入念な準備をして」


「そ、そうなんですか!?」


 一度撃退したらそれで終わりと思っていたらしいメーネが驚きの声をあげる。

 まぁ向こうも金とメンツがかかってるからな。


「ああいった連中はメンツを大事にしますからね。舐められたらこの業界で食っていけないと考えているんですよ。だから必ずまた来ます。なので向こうに考える時間を与えない為にも、わざと挑発したんですよ。この業界、噂はあっという間に広まりますからね」


 まぁここはファンタジー世界でSNSとかインターネットもないけど、それでも噂というものは昔から千里をかけると言われるほど拡散するのが早い。


「という訳で迎撃の準備をしますよ!」


「は、はい! っていうか、アキナさん妙に手慣れてませんか!?」


 ブラック企業で働いていると、色んな種類のクレーマーが来るから慣れっこなんだよ。


 ◆


「行くぞ野郎共」


「「「へい!」」」


 月明かりの下、我が家の敷地を囲む様に動く影が見える。

 そして火事でもないのに四方八方からモクモクと煙が敷地内に入って来る。


「煙攻め、いや明らかに毒だよな、アレ」


 家に向かってくる煙は、毒々しい紫色をしている。


「あれ、どうやってこっちに向かってくるんでしょう? 煙って普通上に登ってくものだと思うんですけど」


 俺はふと思い浮かんだ疑問を口にする。

 ファンタジー世界は違うのかね?


「多分風魔法で煙が家の方に進む様に操作しているんだと思います」


 おお、魔法か。

 そう言えばここってファンタジー世界だもんな。

 召喚魔法があるくらいなんだから、風の魔法があってもなんらおかしくはないか。


「とはいえ、これも予想通りかな。じゃあ解毒ポーションを飲んでおきましょうか」


「はい!」


 俺が取り出したのは、ゴルデッドの襲撃対策として用意した耐麻痺と耐睡眠と耐毒ポーションだった。

 メーネのスキルの力を借りて先日の襲撃を生き延びた事は向こうも予想しているだろうから、次は絡め手で来ると思ったのだ。

 まぁ本当に毒攻めしてくるとは思わなかったが。


 とはいえ、メーネが護衛をしている以上敵さんも致死毒の類は使えない。

 商品である彼女が死んでしまっては元も子もないからな。

 となれば、眠り薬や痺れ薬を使ってくると考えるのが妥当だ。


 なので俺はあらかじめそれらの毒に対抗する為、金にあかして各種解毒ポーションを買いあさった。

 これも栽培スキルでお金を増やせたおかげだ。

 金があれば大抵の事は出来る!


 そして王都の薬屋はさすが都会に店を構えているだけあって、品ぞろえはなかなかのものだった。

 ちなみにこれらの毒消しポーション、どれも結構なお値段がしたので、後々栽培スキルで増産する事も考慮して良いかもしれない。


 俺達はポーションを飲んで毒対策を万全にすると、敵の次の行動を待つ。


「あっ、動きましたよ!」


 メーネが言った通り、煙が薄れてきた敷地を囲むように人影が侵入してくる。


「っていうかアイツ等、せっかく作った柵を壊しやがったな」


「はい?」


「ああいえ、なんでもありません」


 許さん、後で修理させちゃる。

 まぁ、生きていたらだけどな。


 そうこう考えている間にも、侵入者達が俺の家の中に侵入する。

 けど残念だったな、家の中には誰も居ないんだわ。

 それどころか、床も無かったりする。

 家の中から小さな悲鳴が聞こえた。


 そして悲鳴を聞いた後続の侵入者達が、警戒しつつ中に飛び込んでいく。

 罠を仕掛けていても、数で押せば勝てると考えたのだろう。

 でも残念。

 そもそも中に入った時点でお前達の負けなんだわ。


「あんな罠なのに皆引っかかるんですね」


 メーネが驚いた様子で次々と中へ飛び込む侵入者達を見ている。


「ポイントは夜である事、そして相手は人目に付かない様、灯りを使えない事が敗因です」


「はー、落とし穴って凄いんですねぇ」


 そう、俺が家の中に仕掛けたのは、落とし穴の罠だった。

 とてもシンプルな罠、だが夜の暗い室内に落とし穴が開いているなどと、誰が想像できよう。

 しかも見た目は小さいボロ屋なのだから猶更だ。


 狭い家の中に飛び込み、俺の首を切るだけ。

 それだけの簡単な仕事なのに、中に入ったら足元に床が無い。

 それだけで敵はパニックになる。


 しかもこの落とし穴、とても深い。すっごく深い。

 10m近い深さなのだ。


 何故そんな落とし穴が家の中にあるのか?

 それは簡単、メーネに掘ってもらったのだ。


 うん、肉体労働にも使えるので超人スキルって便利だよね。 

 意外とメーネのスキルは俺の栽培スキルと相性が良いのかもしれない。

 肉体労働的な意味で。


 敵はいつまで経っても地面につかない事にパニックになる。

 なおかつ真っ暗なので自分がどちらを向いているのか分からないから、着地体勢を整える事も出来ない。

 で、受け身も取れずに地面に叩きつけられてジ・エンドって訳だ。


 しかも運よく生きのこる可能性を考えて、床には栽培スキルで増産した槍を埋めてある。

 剣山ならぬ槍山だ。


 これで後続が警戒して中を灯りで照らすなりして確認すれば、すぐにこちらの罠に気付けたのだろうが、相手は隠密行動をしていて灯りを使えない。

 更に言えば常識的に考えて室内にこんなバカバカしい罠があるとは思ってもいない。

 まさにボロい平屋とメーネの怪力があったからこそ出来る芸当であった。


 そんな訳で当然敵はこちらの罠は室内で普通に仕掛ける事が出来るモノであると考える訳だ。

 で、考えるのが、家の中に飛び込んですぐに罠なりメーネの攻撃なりを回避しながら俺を殺すという方法だ。

 でも実際の罠は当たらなければどうという事もないとかいうレベルの問題ではなく、そもそも回避不能の罠だった訳で、自分の身のこなしに自信のある方達は悉く落とし穴の罠にかかったのであった。


 ああそうそう、敵がそう考えたのも、俺達が家の中で籠城していると考えたのも原因かもね。

 けど残念。

 俺達は家の中には居ませんでした。

 それどころか、君達の行動が丸見えの場所で、文字通りの高みの見物をしているんだよ。


「くそ! 中で何が起きてやがる! ボスに連絡だ! どうせもうこっちが攻めて来たのはバレてるんだ! 灯りの魔法を使える奴を連れて来い!」


「へい!」


 襲撃犯のリーダーらしき男が部下に命じて敷地の外で出ていく。

 そして外から叱責の声が聞こえて来た。

 どうやらボス直々に現場に来ているらしい。


 そして少しの時間が経過し、数人が敷地の中へと入って来た。


「よし、家の中に灯りを飛ばせ!」


「へい! ライトボール!」


 魔法使いらしい男が呪文を唱えると、光の玉が浮かび上がる。

 ほう、結構明るいな。懐中電灯くらいの明るさはありそうだ。

 そして男が命じると、光の玉が家の中に入っていく。


「な、何だこりゃ!? 家の中が大穴になってるじゃねぇか!」


 おっ、ようやくバレたか。

 まぁ結構保った方かな。

 さて、ここから第二ラウンドだ。


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