12 奴隷商人の逆恨み
「うわぁぁぁ!?」
深夜、家の外から悲鳴が響き渡る。
誰かが敷地内に作った落とし穴に嵌まったと見える。
「来たみたいだな」
予想通りソイツ等が夜襲を掛けて来た事を確認した俺は、傍に控えていたメーネに目くばせをする。
メーネも無言で頷くと、椅子から立ち上がって家の外へと向かう。
「迎撃します!」
「気を付けてくださいね」
侵入者を撃退するべく、フル装備のメーネが両手に松明を持って飛びだした。
「はぁっ!」
そしてすぐさま目についた侵入者に向かって松明をブン投げる。
「ぐわっ!?」
「ぎゃあ!?」
投げたのはただの松明だが、それを投げたのは常人以上の身体能力を発揮する『超人』スキルを持つメーネだ。
松明はまるで鉄球を投げつけられたかのような勢いで侵入者を吹き飛ばし、砕けながら地面に落ちる。
「くそっ、待ち伏せか!」
「落ち着け、男を探せ! ヤツを殺せばこっちの勝ちだ!」
やっぱり目的は俺の方か。
だが俺は家の中に待機しており、入り口はメーネが守っている。
「メーネさん、松明です」
俺は外から位置に待機し、火をつけた松明をメーネに手渡す。
「次行きます!」
メーネが受け取った松明を残った敵に投げつけていく。
「避けろ! 松明だからと侮るな! 相手はスキル持だぞ!」
侵入者のリーダーが警告し、彼らが回避に専念しだす。
けれどそれは無駄な事だ。
「メーネさん次です」
俺の指示にメーネが頷き、松明を敵の足元に向けて投げ始める。
「どこに投げている!」
侵入者達が大外れした攻撃を嘲笑うが、これも作戦の内だ。
「アキナさん、視界確保できました!」
そう、メーネに松明を投げさせたのは、闇に紛れて襲ってくる敵の姿をあらわにする為だ。
これで侵入者達の姿は丸裸。
メーネから準備完了の報告を受けた俺は、松明に火をつけて渡すのをやめ、代わりに大きなザルを抱える。
「よっと、どうぞ」
これが結構重く、俺は必死で支えながらメーネにザルを渡す。
「はい!」
対してメーネはひょいっとまるで紙でも持つかの様に軽々とザルを持ちあげた。
さすがは『超人』スキル。筋力が半端ない。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
メーネがザルを抱えながら体を半回転させる。
「何のつもり、うがぁっっっ!?」
「ギャァァァァッッッ!!」
メーネの前方に居た侵入者達が悲鳴をあげる。
よし、大成功だな。
「な、何が起きた!?」
突然悲鳴をあげて倒れた仲間達に動揺する侵入者達。
「アキナさん!」
「どうぞ次です!」
俺は次のザルを抱えてメーネに差し出す。
「くらえー!」
「か、回避しろ!!」
リーダーとおぼしき男が回避を命じ、男達が斜め後方に下がる。
散る事でまとめて倒される事を回避する狙いだろう。
けれど、何十mも後ろに逃げるのならともかく、この程度の距離の退避では寧ろこちらの攻撃にとって最も効果的に敵をせん滅出来る距離と言わざるを得ない。
何故なら、こちらの攻撃は拡散するからだ。
「ギャァァァァァ!」
「ウギャァァァァッッ!!」
「痛ぇ! 痛ぇよ!」
距離を開けた筈の仲間達がメーネの攻撃を受けて悲鳴をあげる。
「も、物陰に隠れろ! 相手の攻撃から身を隠すんだ!」
襲撃者のリーダーは仲間達に遮蔽物の陰へ隠れる様に指示するが、彼等はその命令に困惑してしまう。
「ど、どこに隠れれば良いんですか!?」
「何を馬鹿な事を……なにっ!?」
そこでようやく敵のリーダーは気付いたらしい。
周囲には隠れる様な場所が何もない事に。
そうさ、俺の家の周囲は畑だけで、隠れる様な場所は何処にもない。
酒を生やした木も全部収穫してからメーネに伐採してもらい、先程投げた松明になっていたのだから。
これこそメーネに松明をバラ撒かせたもう理由の一つ。
周囲を明るくすることで敵に逃げ場が無い事を思い知らせ、戦意をくじく為だ。
あとはダメ押しの一撃だけだ。
「メーネさん、とどめです!」
俺はメーネに三つ目のザルを差し出す。
「はい!」
メーネが狙うは襲撃者のリーダーだ。
謎の攻撃で次々に味方がやられた状態で、リーダーまで倒されれば、敵は総崩れである。
「たぁーっ!!」
気合いの入った声と共に、メーネがザルを勢いよく振る。
「こっ、この!? ウギャァァァッ!!」
何とか回避しようと大きく横に跳躍したリーダーだったが、メーネの攻撃を回避しきれず、悲鳴をあげながら地面に転がり落ちそのまま足を抱えてうずくまった。
どうやら攻撃が足に当たったらしい。
「リ、リーダーがやられたぞ……
「ど、どうするんだ?」
「俺が知るかよ!」
予定通り敵の士気はダダ下がりだ。
だがこのままでは臆病風に吹かれて逃げてしまうだろう。
だから俺は侵入者達に投降を呼びかける。
「大人しく降伏しろ! 逃げたら攻撃する! 足元で転がってるヤツ等と同じになりたいのか!?」
「う、うう……」
今すぐ逃げたい、だが逃げたら得体のしれない攻撃で一網打尽にされてしまう。
抵抗すれば何をされるのか分からないという恐怖に負けた男の一人が武器を捨てて降伏する。
「こ、降伏する。命だけは助けてくれ!」
「お、俺もだ! こっちは金で雇われただけなんだ! 命を懸ける義理なんざねぇ!」
一人が降伏すると、連鎖的に降伏していく襲撃者達。
「よし、メーネさん連中を拘束してください」
俺は用意していたロープをメーネに手渡す。
「分かりました! ……それにしても、こんな物を使って侵入者の集団を制圧出来るなんて考え付きませんでした」
と、小さな声でメーネが語り掛けて来る。
「しっ、その話は侵入者達を拘束した後ですよ」
「そうでした!」
俺に注意されたメーネが慌てて侵入者達を拘束しに向かう。
そして俺は、使わなかった4射目のザルを見つめる。
「こんな物でも、彼女が使えばとんでもない武器になるんだから怖いよなぁ」
そのザルのなかに入っていたのは、無数の小石だった。
そう、俺は畑に埋まっていた小石を集めてメーネに投げさせていたのだ。
名づけるならザルショットガン。
ザルからブチ撒けられた小石で敵をせん滅するメーネ専用の飛び道具である。
まぁ欠点はザルがメーネの力に耐えきれなくて吹き飛ぶ事くらいだが、侵入者達を一網打尽に出来たのだから安い出費だったと言えるだろう。
「頭数だけ集めても、無意味なんだぜ、高利貸しさん」