6.幼なじみ
家を出て、真っ直ぐに向かったのは幼なじみの高木 美月のところだ。
幼稚園の頃に初めてのクラスで隣の席になり、近所に住んでいたので、一緒によく遊ぶようになった。
中学生になってからは、お互いに趣味が違ったので、二人で遊ぶということはなくなった。
しかし、それからも美月は俺のことをいろんな所で面倒を見てくれている。
高校も俺と同じところを受けていた。
美月の方が成績がいいから、もっと上の高校狙えたのに…。
うーん……わからん。
息を少しあげ、道を走る。もともと、道はコンクリートだったが、今ではただの土の路になっている。
周りを見ると、もともとあった家が、そのまま中世風の建造物になっているものもあれば、ひどいところは馬小屋になっていたりもする。
もっとひどいのは何も無い空き地になってしまっている所もあり、家主と思われるおじさんが泣き叫んでいた。
あれを見ると、小さくはなったが、家が残っていたというのは御の字だったのかもしれない。
少しだけ、足を早める。
きっと、ここを曲がってすぐの左側に美月の家があるはずだ。
分かれ道を右に曲がり、足を止めた。
「はぁ……っ…はぁ…っ…あったぁ…!」
そこには一階建ての木で出来た小屋があった。
俺の家と大して変わらないか…。
ドアの前まで行き、癖でピンポンを押そうとする。
しかし、ハッ!となってドアをノックした。
木製の小屋にインターホンなんてないか。
コンッコンッ
……
あれ…?留守か?
そう言えば、ドアを2回ノックするのはトイレに入っている人がいるか確認する時にやるんだってどっかの本に書いてあったような……
そんなどうでもいいことに首を傾げ考えていると、後ろから唐突に呼びかけられた。
「…………わあっ!!!泥棒だぁ!!」
「ひゃあっ!!え?ああぁ!なんだよ、美月じゃねーか。脅かすなよ~。」
「えへへ」
急に大きな声が聞こえ、びくっとなってしまった。ふう。
今一度、幼なじみを確認する。
暗い焦げ茶のショートカットで顔つきは上の下といったとこ。
黒のジャケットに、ストレッチパンツと動きやすそうな格好をしている。
スタイルはメリハリのある体つきはとても中学生には見えない。
「大丈夫だったんだな。」
「なんだよぉ~、大丈夫じゃない方が良かったのかよぉ~」
美月が口を尖らせながら冗談めいたように言ってくる。
「いや、安心した。よかったよ、美月が無事で。」
俺は当たり前のように幼なじみの安否確認ができたことを笑顔で伝える。
「ふぇっ!?いや、そのっ…そんな…急に…てれるからさ…」
美月は顔を真っ赤にして、目を伏せながらモジモジしてる。
最後の方は聞き取れなかった。
いったい、なんだこいつ。
「それより、今の状況なんだが…」
「ふぇ!?えっ!ああ!そうそう!どうなってるの、これぇ!」
急に美月が顔を上げてわーわー言い出した。
ふと思った。
「そう言えば、美月そんなに慌ててないよな。」
「まっ…まぁ、柔軟性だけはあるからねぇ~対応力ってやつかなぁ~っ。」
なるほど、確かに柔らかそうな体つきをしている。いやらしい。
「ねえ、今エロいこと考えなかった…?」
「考えてません。」
美月が一歩引いて、腕を組んで細目でこちらを睨みつける。
女の勘って怖い…!
「そっ!そんなことより!!今の状況っ!」
なんとか誤魔化しました。
「うーん…なんかね、アイテムインベントリに『冒険者の心得』っていうアイテムがあったんだけど、これによるとね…まほ」
ストップ!!!!!!!!
んん?アイテムインベントリ?どういう事だ?
「ストップ!!えっ、アイテムインベントリって何のことだ?」
数秒の沈黙が流れた…
……
「えええ!?まさか、悠あんだけゲームやってるってのにアイテムインベントリの存在も知らなかったのぉ~」
美月が俺が知らなかったことを知り、自慢げに腹を肘で小突いてくる。
だって、こんなの初見だからさ…。
「ふふ~んっ、教えて欲しかったら、教えてくださいって言いなさいよぉ~。」
胸を張ってドヤ顔でこちらを見下してくる。
ちっ…なんと、めんどくさい女であろうか。
「くっ…!分かったよ……教えてください。」
なんたる屈辱か…!!
「よし、教えてあげようじゃないかぁ~。ふふん、実はね…指先で『I』って書くだけなんだよぉ。」
えっ、それだけなのか。
すぐに、何も無い空中に指で『I』をなぞると、アイテムインベントリという項目が表示される。
なるほど、『1/5』と表記されているからして、これが冒険者の心得だろう。
そのアイコンを指先でタッチすると、様々な項目が表示され、『出現』をタッチ。
ポカンッ
っと、調子のいい効果音と共に現れたのは少し厚めの青い1冊の本。
「おお!これか、冒険者の心得とは…んーーー。」
ペラペラ本の中身を見た。
にしても、このアイテムインベントリのシステムは凄いな。感心感心。
「そうそれ、それによるとね、最初はギルドに行った方がいいって書いてあるのよぉ。でもここからギルドまで少し遠いのよねぇ…。ほらここ。」
冒険者の心得に入っていた変遷後の地図を広げ、美月がギルドの場所を指で指し示す。
なるほど、確かに遠い…。しかし、とりあえずは
職に就いた方がいいということか。
「よし、やっぱりすぐにでもギルドに行くしかないな。行くぞ、美月!」
「ふぇ?今から…?でも今から歩いて三日はかかるって…!しっ…しかもっ!二人きりで…!?」
「そんなん知るか、当たり前だろ、善は急げだ!」
どうせ、唯は付いてこないだろうし…。
即断即決大事!
「ふええええ!!」
美月はまた顔を赤らめ、手で顔を隠した。
俺は美月に2時間後にここ美月の家の前で集合するようにと告げ、準備をするため家へと一度帰った。