5.創造する者
唯の叫び声が聞こえて、30分も経っただろうか--
階段から、母さんと唯が降りてくる音が聞こえる。
俺は、その間にどういう仕組みになっているか色々試した。
まず、目に見える物体については触れると、そのもののステータスについて分かる。
例えば、目の前のテーブルの上にあるお菓子これを触ると---
【飴】
・飴。レモン味。
といった感じで、詳細が表示される。
視線をずらすと、テレビが目に入った。
そうだ!みんなは…!
急いでテレビをつけてみた所、緊急ニュースが流れていて、このRPG化現象(仮)は日本だけではなく、全世界で起こっているようだ。
更には、各地でゴブリンや、スライムなどRPGに登場するような魔物達が外を徘徊するようになったそうだ。
また、見た事のない現代人とは思えない風貌のヒト達が各地で目撃された。
また、違うチャンネルでは家が、中世ローマ風の建物に変わってしまったなどと、インタビューを受けている人もいた。
このようにニュースでは様々な情報が報道され、どのチャンネルに変えても、このRPG化現象の事ばかり報道していた。
テレビを見て唖然としていた所、母さんと唯が部屋へおずおずと入ってくる。
「悠、これはいったい…」
母さんがテレビの前に立ち、目を見開く。
驚くのも無理はない。こうしてニュースを見ると、現実味が増す。
これが全世界で起きているらしい…。
全て一度に変わるのではなく、ゆっくりと変わっていってる…という事だ。
唯が俺の向いのソファーに腰をかけた。
「ねえ…これ…どうなっちゃうの…?」
「わからない……ただ」
俺は息を飲んだ---
「これが現実ってことは確かだよ。」
自分に言い聞かせるように答え、この高ぶった気持ちを落ち着かせようとする。
そう、これは現実なんだと。
それから、しばらく唯と母さんと3人でテレビを見ていた。
その後のニュースを見て分かったことがある。
『これは完全にRPGの世界に変わりつつある。』
ニュースからは魔物の出現や、いわゆるNPC思われる現代人からかけ離れた様相の人達の多数の出現。
変化していく街並みなんて、王道RPGそのまんまじゃないか…!
本当にRPGの世界になると言うなら、俺はどうする……?
もちろん、クリアしてみせる。いや、する!!
そんな覚悟を頭の中でしていると、いきなり部屋が暗くなり、部屋の中央に光が生まれた。
唐突に---
「はじめまして、NPC諸君。」
その声は光と共に、突然現れた。
そして声を発する者が光を放ち、いきなり目の前に現れたのだ。
「急に驚かせてすまない。自己紹介しよう、私はデキウスと言う。」
デキウスと名乗った者は、神々しく輝く白のローブに半透明な翼、白いロングヘアーに金の飾りを首、手首、胸元、頭など至る所に付けている。
その姿を一言で言うのなら、まるで神のように----
「そして、皆に謝らなければならない。ここに謝罪を………。」
……どういう事だ?
ふとら母さんと唯の状況が気になった。
周りを見回すと、二人とも口を開けて、ただデキウスを見上げていた。
いきなり過ぎて驚いているのだろう。俺もだ…っ。
---すると、デキウスは衝撃的な言葉を言い放った……
『この世界変遷を起こしたのは私だ。』
絶句した。どういう事なのだ…。理解ができない。目の前にいる1人が起こしたって言うのか…!?
有り得ない…。
俺は恐る恐る声をかけた。
「どっ…どういうことだ…?」
しかし、デキウスには聞こえてないのか、俺の質問には答えず、そのまま話を続けた。
「私はこの世界が変わることを望んだ。故に、この世界を変えた。それ以外の何ものでもない。そして、皆にはそれを乗り越えて欲しいのだ。
私がこの場から消えれば、変遷は終了する。」
むちゃくちゃだ!そんなの、変えたいから変えてみた、なんて理解してもらおうってのか…
いや…でも俺はこれを望んでいたのかもしれない。
トリガーとなりそうなことには………覚えがある…。
昨日のあのゲームなのか…!あれが…
俺は昨日の中古ゲームを思い出した。
----
『キミは、このままでいいのかい?』
あれは……
お前だったのか…!?
そうこう考えているうちに、デキウスは今回の変遷について話し始める。
「まずは、自分の目標を決めるんだ。職だって何歳から始めてもいい。そして、自分の目標へと向かってひたすら生きるのだ。
そして、私は皆の障害となるであろう魔物も用意した。それに負けるなかれ--。
皆がどう生きるかは皆次第という事だ。楽に生きようとも、茨の道を歩むのも好きにするが良い。」
これはっ………!
やっぱり俺の好きなRPGじゃないか!!
気持ちが高ぶり、熱くなる…!
普通の生活なんて嫌だと思ってた。いいぞ、やってやる!
俺は再度決意を固めた。
--人生ゲーム第二弾の幕開けといきましょうか……!
「では、頑張りたまへ。全人類の元に冒険者の心得を送っておこう。皆に幸があらんことを…。」
それを最後に、デキウスは光と共に消え、覆っていた暗闇も消えた。
---しかし、戻ったのは先ほどいたリビングではない。小さな中世風の家屋に変わっているのだ。
家具などもシニカルに変化していた。
急すぎるだろ!!っと脳内ツッコミをする。
「お兄ちゃん!!お母さんがっ!」
唯が大きな声で俺に呼びかけた。咄嗟に母さん達の方へ行くと、母さんが気絶していた。
口元に顔を近づけると、幸い息をはしているようだ。きっと、家が変わったことに衝撃を受けたのかな……。
ほら、ローンもまだ返してないらしいしさ…。
とりあえず唯に手伝わせ、母さんをソファーに寝かせた。
そう言えば……
外が気になるな…。少し見て来るか。
外に出ると言うと、唯は涙目になって怖がって嫌だと言い張った。なので、唯には母さんの付き添いをさせて待たせることにした。
俺は、元々は玄関のドアであっただろう、変わってしまった木製の扉を開け、外に出た---