1.はじまりのはじまり
--僕は電車から降りて、駅のホームを歩いていた。
外の空気は冷たく、帰りを急いでいるサラリーマン達と入れ替わるようにすれ違う。
ああ、俺もいつかはあんな風に普通のサラリーマンになって、普通の生活を送っていくのだろうか…。
顔を下に向け、歩き進む足元を見ながらそんなことを思い巡らせる。
小一時間前、俺は公立高校の受験を終わらせた。
結果はまあまあだ。特に出来たという感じもしない。
そんなことより受験勉強という枷から外れ、ようやく封印してきたことが出来ると。
そのことの方が嬉しくてたまらないのだ。
それは---
ゲームをすること
そう、俺はゲームが大好きなのだ!
天音 悠/15歳/男の子
彼女作るより、三度の食事より、ゲームが好きなのだ!
もちろん、女の子と付き合ったことない歴=年齢
現実の友達<ネットゲームの友達
1日平均10時間以上プレイは当たり前。
RPGは特に好きだ!
それ以外にも幅広くゲームをやっている。
とにかく、面白いゲームをやるのが大好きなのだ!!
俺は、足早に階段を上り、改札を通った。
家の最寄り駅の構内にある、いつも通っているゲーム屋へ行くのだ。
ゲーム屋に着き、自動ドアをくぐると店員の気だるげな挨拶が聞こえてくる。
「いらっしゃいまっせ〜…。」
ゲーム屋の中には客は一人も見当たらず、店員も挨拶し終えたと思いきや、スマホを取り出し、ゲームを始めた。
この店……こんなんで潰れないのかよ…。
と、心配をしてしまうほど、閑散としていた。
気を取り直して、新作コーナーへと向かった。
受験勉強をしていた時にTwitterやCMを見ては、歯を食いしばり、我慢したその品々がそこには並んでいた。
「ああっ!これだぁぁあ!あれも!!それも!!くぅっ〜〜〜!!!」
欲しいっと思ったゲームから次々に、先ほど持った商品用カゴにどんどん入れていく。
「次は中古コーナーだ!」
俺は興奮冷めやらぬまま、2つ隣の棚に移動した。
「あっ!モンスターハンターズギルド(MHG)が中古であるじゃん!ラッキィーッ!」
次々にソフトがカゴに入っていき、気づいた時にはカゴがビッシリいっぱいになっていた。
重くなったカゴを会計のレジのとこまで持っていき、持ち上げてレジの台の上に置いた。
ドンッ!!!!
という音が響き、気だるげな店員が驚いて目を見開いた。
「あ、ありがとうございます!お会計ですね…!少しお待ちください〜っ」
そう言うと、店員は先程まで怠けていた体を動かし、商品を次々持ってくる。
見たところ買ったゲームは20点以上はある。
いったいいくらになるだろうか……。
待っている間に少し窓の外を見た。粉雪が少し降っている
もう2月も終わりか…と、さっきの狂乱のごとしゲーム熱が少し落ち着いた。新しい生活が始まる春がやって来るという現実を逃避しているかのように、窓から目を背ける。
そうこうしているうちに、合計が出たようだ。
「お客様、お会計税込98,230円です…。」
少し予算オーバーだったかな……?
と思いもしたが、背に腹は代えられぬ。
ポケットの中から、封筒を取り出し、中から1万円札を10枚取り出し、渡した。
お年玉と去年のクリスマスプレゼントをお金にしてもらって貯めていたのだが、ほぼ0になってしまった。
しかし、そうだ!ゲームのためなら仕方ない!
そう自分に言い聞かせた。
「こちらおつりのお渡しです、ありかどうございましたぁ〜」
店員の最初より少しだけ大きくなった声だけが小さな店内に鳴り響いた。
家は最寄りの駅から自転車で15分程の所にあり、閑静な住宅地の中にある。
どこにでもあるような平凡な家だ。
俺は、ゲームショップを出て増えた荷物を自転車のカゴに入れ、試験前に勉強していた参考書を入れたリュックを背負い、息を荒くしながらも自宅へと帰宅した。
鍵がかかっていない玄関の扉を開け、中へはいる。
「ただいま…」
誰にも聞こえないくらいの声の大きさでボソッと呟いた。
家には母、妹と住んでいる。家族構成はこうだ。
俺・天音 悠/15歳
妹・天音 唯/13歳
母・天音 由香里/本人曰く30代
父・天音 宏樹/4?歳
父はいずこへ……?というと、父はそこそこ立派な商事会社に務めているらしい。
そのため、俺が小さい頃から単身赴任を繰り返していて、未だに全国を飛び回っているそうだ。
帰ってくるのはごく稀だと母さんは言っていた。
時刻は18時半になっていた。
なので、家にいるのは必然的にパートから帰っているであろう母と、中学から帰ってきているはずの妹だろう。
いや?妹は部活でまだ帰ってないかな?知らん。
別に家族と仲がいい訳では無いから、詳しい年齢とか何してるのか、とかはあまり知らない。
妹については特に…。
「悠〜!帰ったの〜?あら、おかえりなさい。」
「うん。ただいま。」
扉の開け閉めの音が聞こえたのか、母さんがリビングから顔を覗かせてきた。
「今日どうだったの?試験は上手くいった?」
「まあまあかな。」
「何よ〜!そこは出来たよ!って言ってくれなきゃ〜、あんたの志望校なんでしょ?」
いや、別に俺が本当に望んでいる学校という訳では無い…。
ただ、俺の学力に適正だったから受けただけだ。
「いや……どうせ、レールの上…だから……。」
ボソッと呟いた。
そう、どうせみんなと同じレールの上を歩いていくのだ。何も変わりもしない。
「うん??悠、何か言った?」
「いや、何も。」
幸い、母には聞こえてなかったらしい。もし聞こえていたら、"また"家族会議が開催されていたかもしれない。
「それより!試験お疲れ様!ってことで、自分の部屋でゲームしてくるから、邪魔しないでよ!」
誤魔化すように少し声を大にして、言い放った。そして、俺は我が部屋を目標にして回れ右をして、逃げ出したっ!
「夜ご飯の時には降りてきなさいよ〜!でないと、ゲーム禁止だからね!!」
そんな恐ろしい脅迫が背中から聞こえてきた。