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9.廃ビル鬼ごっこ

アサヨのことや、なんやらかんやらあったが我が峰高校は平和である。

富士くんは今日も私にちょっかいを出し、松原ちゃんが応援していたりするが、いつものことだ。


「北ー。今日部活どうするのー?」


「あー……。」


私は友達と話すだけの活動をする漫画研究部に入っている。

今日は特にやることもないし、友達と駄弁っていようか。


「おい、北は俺と一緒に……」


「私は部活あるし、そうじゃなくても富士くんとはどこにも行きません。

ほら、松原ちゃんとカラオケ行ってきなよ。」


「ポルノグラフィティは極めたんでカラオケはいいっす。」


カラオケは別にポルノグラフィティを極めるところじゃないけど。


「次はMr.Children極めたら?」


「ああ!それいいな!」


私の提案に富士くんは飛びついた。

よかった、これで追い払える。


「よし!北も来い!」


富士くんが意気揚々と私の腕をグイと引っ張ってきた。


「話聞いてた!?

部活あるんだってば!」


「いやあ!先輩とカラオケなんて嬉しいっす!」


「ちょっとお!」


2人に挟まれ、逃げ道を塞がれる。

友人に助けを求めようとしたが、既に誰の姿もなかった。

なんでいつもこうなるんだ。


どう逃げようか考えあぐねていると、携帯が鳴った。


ラッキー!逃げられるぞ!

慌ててポケットから携帯を取り出す。

発信者は塩見だった。

……塩見?


「もしもし?スタンド使いに狙われてるの?」


「北!助けて!」


第一声が助けてだなんて。

これはますますスタンド使いに狙われている可能性が高まった。


「助けてって……どうしたの?」


「やばい事になったんだよ!

何が何だか……!」


息が荒く、バタバタと音がしている。

走っている?


「ちょ、ちょっと落ち着いて!」


「お前、大喰と仲良いんだろ!?

なんとかしてくれ!」


「なんとかって……。」


「山岳高校の奴らに追われてんだよ!

ぶっ殺すとか言われて……でも俺なんもしてねえし!

なんか勘違いしてんだよ、大喰に話してなんとか……ウアッ!」


バタンガチャンと音がした。

転けたんだろうか。


「塩見!?」


「って……。

もう走れねえ……。」


「ね、今どこにいるの!?」


「廃ビル……。

クソ、来やがった……!

隠れるしか……。」


確かここから1駅行った先に建設途中で費用が無くなって廃墟となったビルがあった。


バタバタと駆ける音が響く。

それから隠れ場所を見つけたのか静かになった。

塩見の荒い息遣いが聞こえる。


「誰に追われてるの?」


「だから、山岳高校の奴だって!

いっぱいで……。

そうだ、あいつもいた。赤メッシュの……」


涸沢?

何故彼が塩見を追っているんだ。


「なんて言ってた?」


「赤メッシュは何も……。でも他のやつはぶっ殺すとか、間男とか……なんかそんな感じのこと言ってた。」


間男?

塩見が間男になれたらそれはもうめでたいことだが。

……いや、まさか。


「三俣いなかった!?

茶髪のちっこいの!」


「え、あ、いたかも。」


まさかまさか!

三俣の奴、アサヨを取られた腹いせに塩見にまで手を出そうというのか!


「わかった、大体わかった。

塩見、絶対見つかんないで。

なんとかするから。」


「ああ、ありがとう……。」


「電話一旦切るよ。」


大変な事になってしまった。

あの時、アサヨに塩見とのツーショットを見せられた時、私が塩見の名前を言ってしまったから……。

三俣の前でなんて迂闊な行動だったのだろう。


「なあ、大丈夫か?

顔色が悪いぞ。」


富士くんに声をかけられハッとする。


「富士くん!

大変なの!塩見って私の幼馴染が三俣にボコボコにされそうで……!

助けなくちゃ!」


「急展開だな。

それで?どうするんだ?」


富士くんは私に手を貸してくれるらしい。

なんてありがたい。

始めて富士くんに感謝した。


「えっと、まず三俣を止めなくちゃ。

大喰くんの連絡先知ってる?」


富士くんも松原ちゃんも首を振った。


「ブロックされた。」


2人とも何したんだ?

彼の連絡先は私は知らない。

なんてことだ。

この世で唯一三俣を止められる人間なのに。

……いやそうでもない。アサヨがいた。


「ならアサヨ、ちゃんは!?」


「それならわかるぞ。

090」


「わっ、待って待って!」


富士くんにアサヨの電話番号を教わり、かける。

……繋がらない。一体何やってるんだ。

授業中?そんなものサボってくれ!

私は留守電を残して電波を切る。


「こうなったら仕方ない。

廃ビルに行ってくる。」


「先輩が行くん行くんすか!?

危ないっすよ、ここは私たちに任せて……」


「そうだぞ!

お前はある意味有名人なんだ。

わざわざ飛んで火に行かなくてもいいだろ。」


「だ、大丈夫だよ、ちょっと塩見連れて抜け出すだけだし……。」


この2人に任せたら、問題が大きくなりそうで任せられない。

要は私と分からなければいいのだ。

それなら……。


「2人は大喰くんを探して、三俣を止めるようお願いしてほしい……です。」


「それはいいっすけど……先輩がお願いした方が効果あるんじゃないすか?」


「え?そんなことないんじゃない?

じゃあもし大喰くんが見つかったら連絡して。」


松原ちゃんは、んーと唸ってから分かりました!と敬礼して走って行った。


富士くんは何故かいる。


「あの、」


「俺はお前と一緒に行く。

危ないからな!」


「でも目立つし……。

……いや、その申し出ありがたく受け取ろう。」


私たちは走り出した。

……漫画研究部に向かって。



日頃から男装コスプレが趣味の友人がいてよかった。

私は男物のワイシャツを引っ張る。


傍目から見たら私はどこぞの高校生らしい格好をした少年にしか見えないはずだ。

胸をサラシで巻いて、髪はもともとそんなに長くないので調整すれば誤魔化せる。

顔は見られたらバレるかもしれないと、マスクをした。


男物の制服なので少しブカブカするが問題はない。


「こうすると男に見えるな。」


「良かった。」


富士くんはウンウン頷いている。

その頭に黒いカツラを被せて。


金髪の彼は目立ってしょうがないのでカツラを被ってもらうことにしたのだ。

これならパッと見て富士くんだとは気付かれないだろう。


私たちは廃ビルを見上げた。

汚く崩壊しかかったビル。

元は綺麗な長方形だったのだろうが、今じゃ凸凹していて、壁の無い箇所がいくつもあった。

立ち入り危険の看板がいくつも設置され、チェーンもかかっていたが通り抜けるのは容易い。


昔、ここである学校のクラス全員が消えたというなんとも恐ろしい七不思議があったが、そんな七不思議が囁かれるのも頷ける不気味さだ。


「さて、この廃ビルのどこにいるんだ?」


「7階にいるって。」


その時バタバタと走る音がした。

それも複数。

……塩見が捕まってないといいけれど。


「見つからないよう慎重に行こう。」


私は頷いて、廃ビルに入って行った。



廃ビルは完成真近で潰れたのだろうか。

机やら椅子やらテレビやらが散乱している。

もしかしたら、廃墟になってから浸入した人が不法投棄したのかもしれない。統一性が無いし。


「見つからないな。本当に7階か?」


「そのはずなんだけど……。

手分けして探す?」


富士くんは黙った。

……下の階からヤンキーたちの怒鳴り声が聞こえる。

危ないかもしれない。

しかし、ここでタラタラ探していたら塩見に危険が及ぶだろう。

そして、私が捕まるより塩見が捕まる方がひどい目にあわされる確率が高い。


「私なら大丈夫だから。」


「……わかった。

屋上で合流しよう。」


富士くんは反対側に歩き出す。


それにしても塩見はどこにいるのだろうか。

先程からメールしても返事が無い。


仕方なく私は次の階へ行く。

ボロボロの階段を登るのは少し怖いが、まあ大丈夫だろう。


それより、外観を見た時にゴッソリ壁の無い剥き出しの箇所があった。

あそこが1番危険だろう。


またヤンキーの怒号が聞こえる。

気を付けなくては。


8階にも塩見らしき人影はなかった。

何階にいるんだろう。

携帯を見るが連絡は無い。


その時、カツンカツンと階段を登って来る音がした。

ゆったりとした足取り。恐らく塩見ではない。

私は慌てて近くのテーブルの下に隠れる。


人影は8階のフロアに立ち、しばらくジッとしていた。

私もより一層息を潜める。


足が私の隠れているテーブルまで近づいた。

気付かれたんだろうか。


心臓の音が煩い。

見つかったら……。


しかし人影は私に気付くことなく次の階へと登って行った。

良かった。

退路は絶たれたが。


マスクが息苦しくなって外す。

深呼吸して淀んだ空気を肺いっぱいに取り込んだ。

それから私はゆっくりとテーブルから抜け出す。


その時、目の前に学校にも置いてあるようなロッカーが目に入った。

これも不法投棄の一つだろうか。


そのロッカーからは見覚えのある布がはみ出していた。

麓高校の制服のズボンの柄だ。


「し、塩見?

私だよ、白嶺。」


声をかけた途端ロッカーがガタガタ揺れ、大きな物体が飛び出して来た。


塩見だった。

半泣きだ。


「き、北〜〜!」


「静かに……!さっきも人がいたんだから!」


「ご、ごべん……。」


半泣き、というよりは八割方泣いている。


「でも良かった。見つかって。

メールしても返事ないんだもん。」


「充電切れてさあ……。」


ありがちだ。


やれやれと首を振った時、下の階から足音がして来た。

それも複数。


「や、ヤバイ、逃げよう!」


「逃げるって、どこに!?

上の階にも人が……!」


「上に行ったのは1人だよね?ならなんとかなる!」


塩見は私の腕を引っ張って階段を駆け上がる。

下の階の足音が近づいて来る。


彼らは何か叫んでいるが、全く耳に入って来ない。


「こっちに隠れよう!」


塩見が指差したのはソファだった。

9階までソファを持って来るとは、不法投棄者も中々やるものだ。

私たちはソファの物陰に隠れて息を潜めた。


「もっとそっち行ってよ……!」


「こっちだってギリギリなんだよ……!」


お互い押し合いへし合い、なんとか収まる。


足音と怒号がドンドン近づいてきた。

私と塩見はお互いの体を押し合いながら様子を伺う。


ヤンキーの集団が階段から走ってきた。


「三俣さん、なんでこんな時に携帯繋がんねえんだよ!」


「なんだよあれ!?」


「聞いてねえ!」


彼らはこちらに気付くことなく一目散に駆けていた。

なんだろうか、あれじゃまるで何かから逃げているようだった。


「なんだったんだ……?」


「さあ……?」


私は彼らの後をもっと覗こうとソファから身を乗り出した。

ら、体が大きく横転した。


「グエッ」


「うわ、潰れたカエルみたいな声出すなよ……。」


失礼な。

私は身を起こしながら塩見を睨んだ。


「あのね、レディに対して潰れたカエルはないんじゃない?

今は男装してるからレディじゃないけどさ。」


「あ、あ、あ……」


塩見は顔を真っ青にして、手で顔を覆っていた。

そんなに怖い顔したつもりないけど……。


「なに?ふざけてる?

今そういう場合じゃないからね?」


「ち、ちが、」


「……ん?」


私の顔に影が落ちる。

……影?


私はゆっくりと振り返る。


「……またあんたか。白嶺。」


そこには大喰くんの呆れ顔があった。


「大喰くん!

良かった……!松原ちゃんと会えたんだ!」


勢いよく立ち上がると、屈んでいた大喰くんの顔に頭が思い切りぶつかった。


「って、」


「ごめん!

大丈夫?」


慌てて彼のデコをさする。

なんだか大喰くんとぶつかってばっかりだなあ。申し訳ない。


「平気。

で、松原が何?」


「松原ちゃんに大喰くんを探すようにお願いしてたんだけど……会ってない?」


「……?

俺はアサヨにあんたが残した留守電を聞かされて来たんだ。

三俣もどうしようもないやつだ。

塩見、悪かったな。俺がなぐ……話しとくから。」


そうだったのか。アサヨに留守電残しておいて良かった。


塩見はホッとしたように立ち上がり、息を吐く。


「助かった……。」


「それにしてもあんたなんでそんな格好してんだ?」


大喰くんに指摘され、少し恥ずかしくなる。

やっぱりダメか、これ。


「その、見つかったらまずいと思ったから変装して……。」


「……顔知ってたら、馬鹿じゃないと騙されないだろうな。」


ですよね。

今のところあの富士くんからしか評価は得られていない。

まあでもパッと見で誤魔化せればいいからさ……そう……そういうこと……さ……。


ワイシャツの埃を払うと、先ほどのヤンキーたちが逃げ帰る様を思い出した。

そういえばなんだったんだ、あれ。


「さっきヤンキーたちが逃げてたのって、大喰くんが何かしたの?」


「何もしてねえけど……?」


大喰くんじゃない?

だとしたら……。


その時下の階から走ってくる音がした。

誰だ、誰だ、誰だ

空の彼方に踊る影 白い翼の ガッチャマン


「よっし!追いかけるぞ松原!」


「はいっす!」


……なるほど、この2人か。


「富士と松原?」


「ああ、大喰か。

北を食べるのはやめてくれよな。」


「挨拶代わりに俺を化け物にするのやめろよ。

お前らまで来てたのか。」


「売られた喧嘩は買う主義だからな!」


違う違う、目的が変わってる。

塩見を助けに来たんだよ。喧嘩はしなくていいんだよ。


こうならないためにカツラを被せたのにいつの間にか脱いでるし……。


「みんなー!今日は俺のために来てくれて本当にありがとー!」


「卒業するアイドルぶらないで塩見。

本当に本当に怖かったんだからね。」


「悪かったって。ほんとありがとな。」


さて、我々、というか塩見は三俣と決着をつけなくてはならない。

いや、決着ではなくて話し合いか……。

一対一ならなんとかなるだろう。


「大喰くん、三俣くんがどこにいるか知ってる?」


「あー、上の階じゃねえの?

あいつらみんな上に逃げてたしな。」


私たち5人は顔を見合わせ、それからスタンドバイミーのように並んで歩き出した。


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