6.一狩り行くよりも大事な物がこの世にはあるはずだ。眼鏡とか。
モンハンのモンスターの話してますけど、本編になんの関わりもないので流してください
(あとがきに注釈付けました)
ここ最近、三俣たちに絡まれることがない。
これなら安心してアイカツが出来るというもの。
私は兄を引き連れてゲームセンターに来ていた。
「太鼓の達人やろうよ。」
「あ、いいね。」
アイカツは後にして太鼓の達人やるか……。
フルコンボ狙うドン。
「じゃあ夏祭りで。」
「太鼓の達人やるといつもそれやるよね。
アンパンマンにしようよ。」
「いやあ、夏祭りだよ。」
兄に強行され夏祭りとなった。
私は人生で何度空に消えてった打ち上げ花火と聴くこととなるのだろう。
私が花火に思いを馳せていると声をかけられた。
「いたいた。北ー。」
この軽い声は……。
見ると、赤メッシュ女好きヤンキー涸沢がいた。
日曜の今日は彼もさすがに制服ではなく私服であった。
久しぶりに見るその顔。懐かしさは感じずただ危機感を覚えた。
「……はーちゃんの友達……?」
「違う。逃げよう。」
「させるか。」
涸沢は私の首根っこを掴んだ。
何故!そこを持つ!猫じゃないんだこっちは!
「北を誘拐しないで富士を呼び出そうとしたんだけどやっぱり無理だったから誘拐するわ。」
「諦めないでよ!」
「悪いなあ。
まあ大人しくしてたらビスコあげるからよ。」
「いらないから。」
涸沢は私の首根っこを掴んだまま出口に向かって歩き出した。
兄ちゃんに助けを求めよう、そう彼の方を見たら太鼓の達人の陰に隠れていた。
……情けない。
「兄ちゃん!店員さん呼んでよ!」
「はーちゃん……。俺は確かにベルナ村だと英雄だ。
だけど現実はただの男なんだよ。
ナルガクルガみたいな奴と関われない……。」
ただの男なら見てないで店員を呼べという話だ。
「……ナルガクルガ?
え、ナルガクルガって俺?」
兄の言葉に涸沢がはしゃぎ始めた。
「え、そ、そうだけど……。」
「マジかよめっちゃ嬉しいわー。
俺ナルガクルガ好きなんだよね。
お前北の友達?ダブルクロス持ってる?ってか武器なに?」
涸沢は私を放って兄に近づいていく。
これはチャンスかな、と思ったけれど兄が心配なので少し離れたところで見守る。
「は、白嶺の兄です。
もしかして君もダブルクロス持ってる?」
「持ってる持ってるー!
俺の周りクロスしか持ってない奴ばっかだから嬉しい。
北の兄貴にしては似てないね。普通にイケメンじゃん。名前なんていうの?俺は涸沢 穂高。大剣使い。」
出会い系の男かな?と思うくらい矢継ぎ早に質問している。
これが彼のナンパの手口だろうか。兄じゃなくて女の子に披露したらどうだろう。
「北 銀嶺です。いつもは操虫棍使ってるけど、なんでも使えるよ。」
「え?銀嶺?ヤベエ、銀嶺ガムートじゃん!
めっちゃ強え!」
2人は何故か笑い始めた。
なんだなんだ!何仲良くなってる!
「北の兄貴おもしれー。ガムートとか。
北はドドブランゴみたいなのに。」
「え?はーちゃんはキリンだよ。」
「現実見ろよ。ドドブランゴもしくはケチャワチャだ。」
「いや、どんなに悪くてもケルビだから。」
さっきまで笑いあっていたというのに今は睨み合っている。
何が何だか。
「……ポポで手を打とう。」
兄は何かに負けたようだ。
涸沢は満足げに頷くと再び私の首根っこを掴んだ。
「じゃあ北は貰ってくわ。
北からお前のLINE教えてもらうから今日狩り行こうぜ。」
「オッケー。イビルジョーよろしくー。」
兄は手を振っている。
……え?私見捨てられてる?
「ちょ、ちょっと兄ちゃん……!」
「涸沢くんのLINE聞いとけよー!
じゃあ俺家帰るから。」
この単細胞生物め!
兄はサッサとゲームセンターを後にする。
残されたのは満足げな涸沢と、私と、太鼓の達人から流れる夏祭りだった。
*
また……。
私はまたここにいる。
この汚らしい部室に。
「涸沢!キタキタハクレイ!遅いぞ!」
三俣は偉そうに椅子に座っていた。
何故か彼は制服だ。制服しか持ってないのかな。
「すんません、北の兄貴と話してて……。」
涸沢は私を部屋に放ると、三俣の横に座った。
2人とも携帯を見て何やらぽちぽちしている。
……あれは、パズドラ?
涸沢はゲーマーなのか。
「よし、富士が来るまでこのクエ終わらせよう。」
「了解でーす。」
彼等はついに私を見張ることすらしなくなった。
それは構わないけれど……。
せっかくの休日なのに学校に来てパズドラをやっている意味がないし、私を誘拐する意味もわからない。
「……あの。」
「今忙しい!後にしろ!」
「なんで私連れてこられたんですかねえ。」
「富士が後から来るんだよ。」
「今日富士くん来ないよ。
松原ちゃんと24時間カラオケパーティするって言ってたから。」
今日はミュージック・アワーの最初のナレーションを完璧にすると言っていた。
ポルノグラフィティにでもなるつもりか知らないが、そんなことしてどうなるというのだろうか。
「はあ!?!?なんだよそれ!」
「早く言えよ。」
「言ったよ!言ったけどその時涸沢……くん、ずっと兄ちゃんとLINEしてたじゃんか!」
道中ずっと涸沢は兄とLINEしていた。
なんでも今夜集会所に行って狩りに行くらしい。
外出といえばゲームセンターにしか行かない兄が集会所とやらに行くとは。いいことかもしれない。
「はー、ならいいや。
帰っていいぞ。」
連れて来たのはお前らだろ!
とイラついたが、帰れるならこれ以上のことはない。
私はこの汚らしい部室を後にした。
*
山岳高校はどこもかしこも汚い。
本当にここで授業が行えるのだろうか?
あの3人からは授業をしている姿が想像できないけれど……。
今日は休日だし、校舎はガランとしている。
いつもはヤンキーたちが騒いでいるのでなんだか新鮮だ。
私は校庭を突っ切らないで、校舎を通って校門から出ることにした。
他の学校を見るのはやっぱりちょっと楽しい。
飾られている物も間取りもそうだが、空気が違う。
……ここは特にそうかもしれない。
私の通う峰高校、三俣のいる山岳高校、そして塩見のいる麓高校は中々に柄の悪い学校だ。
1番荒れているのは山岳高校で、荒廃した世紀末状態。次は麓高校、最後は峰高校だ。
家から近いこの三校だったら1番峰高校がマシだと峰高校にしたが、富士くんに絡まれることとなるなら麓高校にした方が良かったかもしれない。
そんな風に思いを馳せていると、教室から黒い人影が現れた。
この大きさは大喰くんだろう。
彼も休日だというのに制服を着て学校に来ていた。
「大喰くん?」
「…………白嶺?」
大喰くんは驚いた顔をしていた。
しかしそれよりも私の方が驚いた。
大喰くんは眼鏡をして、前髪を下ろしていた。
さわやか3組並みに爽やかだ。
着崩した姿はヤンキーだが、漂う優等生感。
これが魔王と言われた男の姿……?
「……大喰くん、だよね?」
「あ?何言ってんだ?
んなことよりあんたなんでいんだよ。
また三俣か?」
「う、うん。」
「ったく……。殴られ足りねえのか……?」
大喰くんは眉間にシワを寄せ、不穏な言葉をつぶやく。
こうするとインテリヤクザだ。
「悪いな、日曜までこんな目に合わせちまって。」
「あー、や、大喰くんのせいじゃないから……。」
「お前を巻き込まないようかなり強めに言っといたんだが……。
痣が消えたらなんで怪我したかも忘れたようだな。」
ここ最近、三俣たちに絡まれなかったのは大喰くんのお陰か。
三俣たちには悪いが、あと何発か殴られておいてほしい。
「三俣どこいいる?」
「殴りに行くの?」
「それもあるけど、あいつ補講サボりやがった。
あいつが日曜補講あるから付いて来いって言ったくせに……。」
補講!
そんなものがまだこの世紀末山岳高校にあったとは!
「三俣くんならいつもの部室みたいなところにいたよ。」
「ハア……。あそこか……。
本当にあいつはどうしようもない……。」
大喰くんは面倒そうにため息をつき、髪をグシャグシャと掻く。
なんで大喰くんは三俣とつるんでいるのだろうか。彼だけはまともなのに。
大喰くんは三俣を迎えに行くことにしたのか、廊下を歩き出す。
私はその後を付いて行くことにした。
「……あんた、暇なのか?」
「ゲームセンターで遊んでたんだけどね……。」
あそこにいると高確率でヤンキーに絡まれる。
大喰くんもそれがわかったのか、何も聞かなかった。
「……大喰くんは、目が悪いの?
いつも眼鏡かけてないよね。」
「最近視力が落ちたんだが、喧嘩の時邪魔だから掛けてねえな。」
そんな理由……。
コンタクトにしないのも同じ理由だろうか。
きっと彼のあの目つきの悪さは視力の悪さに繋がっていたんだろう。最近視力が、と言っていたが眼鏡をかけているだけなのに今日は怖いと感じないからきっとそうだ。
眉間のシワもなく、こちらを睨んでも来ない。
「髪セットしてないのはどうして?」
「……ああ、そういえば今日なんもしてねえな。」
彼は前髪をグシャグシャと掻いた。
「朝、三俣に起こされて急いでたからな……。」
前髪が下された分、表情の険しさが隠れていて良い感じだ。
彼は絶対、今の格好の方がモテると思う。
余計なお世話かもしれないが、いつもの100倍爽やかで、いつもの1000倍穏やかそうに見える。
「……そういう格好は、普段しないの?」
「そういう格好って……眼鏡か?」
「あと前髪……?」
「眼鏡は授業中だけだな。あんまり受けてねえけど。
前髪も、急いでたらそのまんまで来る。…………変か?これ?」
「う、ううん!良いと思って!」
私は親指を立てた。イイね!
大喰くんは笑って「そりゃありがとな。」と言った。
すごくかっこいい。
……普段この格好してればいいのに。そしたら生皮剥がないで等と叫ばれることはないだろう。
「あんたも良いな、その格好。」
「え?」
私は自分の格好を見返した。
良い格好だろうか?シャツワンピとスニーカーの、気の抜けた格好だ。
「良いかな……?」
「良い。」
「そ、そっか。ありがとう。」
ストレートに褒められると嬉しいものだ。
私はほっぺを抑える。
「その格好だと逃げやすそうだ。」
……なるほど。そういう発想か。
褒められたと勘違いして照れたことに羞恥心を覚える。
私は話題を変えることにした。
「あー、えっと、大喰くんって三俣くんと仲良いんだね。
どうして?」
「仲良いか……?」
「朝三俣くんに起こされたって言ってたし……。」
「自分は出るのに俺が補講を受けないのはズルいとか言い出したんだよ。
三年になれないとマズイから受けるって言ってたけど、まだ5月だから大丈夫だろ。」
大丈夫かな?
あんまり大丈夫じゃないと思うけど。
でもヤンキー高校だし、基準はわからない。
「付き合ってあげるなんて優しいね。」
「あいつ見張ってねえと碌でもないことしかしねえからな。」
全くその通りだ。
いや、見張ってても碌なことしない。
大喰くんもそれに気付いたのか、髪をワシャワシャしながらこちらを見下ろした。
「あんたを誘拐しないようもっとキツく言っとくから。」
「お願いします……。」
実際の彼のキツく、はとんでもないものだった。
三俣は3度は宙に浮いた。涸沢は今夜兄と集会所に行くなんて無理だろう。
今夜は悪い夢を見そうだ……。
モンハンのモンスターについて
注1:ナルガクルガ/モンハンのモンスター。めっちゃ速く動く。
注2:クロス、ダブルクロス/モンハンのナンバリングのこと。5作目と5.5作目。
注3:ガムート/モンハンのモンスター。マンモス。銀嶺は強めのマンモスのあだ名。
注4:ドドブランゴ/ゴリラ
注5:キリン/綺麗な鹿
注6:ケチャワチャ/メガネザルみたいなの。
注7:ケルビ/鹿
注8:ポポ/牛
注9:イビルジョー/ゴーヤ
つまり白嶺はあの時、兄から綺麗な鹿みたいだと言われ、涸沢からゴリラか猿だと言われ、結局牛で落ち着いたということ。
かなり貶められていた。