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5.松原ちゃんのプレゼン能力

短めです。

富士くんが鬱陶しい。

最近は友人たちの塩まき攻撃にも傘で応対するようになってしまった。


……友人たち、ファミレスで三俣に会った時は私を置いていった癖に、富士くんには強く出るな……。


「北!一緒にお昼食べよう!」


富士くんがお昼休みに突撃してくる。

周りの友人は霧吹きで聖水をかけるが、富士くんにはなんの効果もなかった。

ただ松原ちゃんは離れたので、松原ちゃんには効果があるようだ。どういうこと?


「今日のデザートはとんこつラーメンっすよ〜。」


松原ちゃんがちょっと離れたところで言う。

デザートがとんこつラーメンとはどういうことなのだろうか。言い間違えかな。

しかし彼女は親子丼ととんこつラーメンを持っている。本当にデザートのようだ。


「2人で食べなよ……。

私は皆と食べるから……。」


「カップルは一緒に食べるものなんだろ?」


「カップルはね?

私たちはただの学校同じ人じゃん。」


「そうか、ならカップルになろう。」


「嫌だってば……。」


何回言わせるのだ。しつこい奴だ。

私が手で富士くんを払うと、松原ちゃんがスッと私の前に仁王立ちした。


「北先輩、今日は北先輩の為に富士先輩の良いところをプレゼンしに来ました。」


「……手短にね。」


松原ちゃんは「了解っす!」と言うと、スケッチブックを五冊取り出した。

お手製か。なんだか可愛い。

しかし五冊全てプレゼン内容じゃないだろうな。


「まずその1!

強い!」


松原ちゃんはスケッチブックをめくった。

そこには今年の四月からおおよそ何人と喧嘩してきたかを表にしてあった。


「この表を見てもらうとわかると思うんすけど、私たちは毎日平均3人の人間から喧嘩を売られてんすよ。

でも、ほら、勝率は100パーセント。

五月の時点でのべ120人と勝っているということがわかると思うっす。」


「はあ……。」


「次にパンチの威力っす。

これを見てほしいっす。

これは先輩が殴った壁なんすけど、ヒビが入ってるのわかります?

このパンチ力をパンチングマシーンで測ってみたところ、300という数値が出たっす。ちなみに自分は240だったんで、自分の1.25倍っすね。」


「なるほど。」


「次にキックの威力……」


「松原ちゃん。」


私は松原ちゃんのスケッチブックを取り上げる。


「あの、興味ないから。」


「……!?

興味がない……?」


「うん。

そもそもパンチとかキックとかって、付き合う上で必要ないよね……。」


「あ、将来性の話は第3章でやるっす。」


松原ちゃんは新たにスケッチブックを取り出すと渡してきた。

パラパラとめくるとズラリと表や図形が書いてある。


彼女の努力を無下にしてしまったようで罪悪感が生まれるが、この話を聞いてたら放課後になってしまう。


「ええっと……。」


なんとか断ろうとしたら、富士くんがスケッチブックを開いた。


「松原……。お前ここまで俺のことを……。

なんていい奴なんだ……!」


「フフフフ、先輩のためなら火の中水の中!」


「可愛い奴め!」


富士くんは松原ちゃんの頭を乱暴に撫でた。

……イチャイチャしちゃって。

なんで私に絡んでくるんだか。


「早く北先輩とゴールインしてください!

自分、式場考えてあるっす!」


「ありがとう!

立派な式にするからな!」


冗談じゃない!

私は思わずスケッチブックで富士くんの頭を叩いていた。

富士くんがよろけると、友人たちが塩を撒き聖水を掛ける。


チャイムが鳴って富士くんたには自分のクラスに戻っていったが、あんまりに酷い有様なので私たちが先生に怒られることとなった。



「調子乗ってんじゃないわよ!」


ドンと肩を押され、壁に背中が付く。

目の前の女は眉間にしわを寄せ、憎々しげにこちらを睨んでいた。


「なんであんたが富士くんと……!」


「そうよ!」


「ブスのくせに……。

今日も富士くんと仲良くしてたわね!」


私は学校の帰り道、1人で歩いていた。

今日こそはアイカツをやろうと思ったのだ。

だというのに、いきなり3人組の女の子が私のカバンを取ると空き地まで誘導してきた。

アイカツカードが入っているカバンだ。

放っておくことはできない。

結果、こんな言いがかりを言われるはめになってしまった。


「あの!私別に富士くんと付き合ってもないですし、好きでもないです!

今日は塩まいて聖水かけただけです!」


「ならなんであんな一緒にいんのよ。」


「あれは向こうが勝手に……。」


パチンとデコピンされた。

地味に痛い。


「な、何するんです!

暴力反対!」


「うるさい!ブス!」


「何よ!ペチャパイ!」


「ブスブスブスブスブス!」


「ペチャパイペチャパイペチャパイペチャパイ!」


今度こそ本気でデコを叩かれた。


「承太郎の取り巻きごっこさせんじゃないわよ……。

とにかく、富士くんと関わらないで。

いいわね?」


「私にはどうすることも出来ないから……。

っていうか富士くんのどこがいいの?

ヤンキーじゃん。」


私が言い返すと、首謀者の女はやれやれと首を振った。

周りの2人もハア、とため息をついている。


「顔面以外に何があるの?」


「……その通りですね……。」


顔面以外も見てやれよ、と思ったが顔面以外良いところがない。

残念ながら、現実とはこういうものだ。


「そういうわけだから!2度と!富士くんと!喋らないで!」


3人は私の顔面をペチペチ叩く。

誰か、小指目に入ってますけど。


「言われなくたって、」


「……何やってんだ……?」


呆れたような声が耳に入る。

この低音は……。


「お、大喰……くん……。」


大喰くんは顔をしかめながらこちらを睨んでいた。

手にはタバコを持っている。

もしやここ、ヤンキーの溜まり場なのでは……。


「ギャ!大喰だ!」


「ヒェッ!殺される!」


「やめて!生皮剥がないで!」


私を囲っていた3人は私のカバンを投げ捨て慌てて駆け出した。

……私も一緒に行こうかな……。


「白嶺……。

……またあんた変なのに絡まれてたのか……。」


名前を呼ばれては仕方がない。

砂まみれのカバンを拾って抱きかかえながら頷く。


「ええっと……まあ……そうです……。」


ハーッと深い溜息をついて大喰くんは吸い殻を地面に捨てた。

それから私の顎を人差し指で軽く上げ、顔を寄せてきた。

顎クイ……というやつだ……。


「なんでデコを集中的に叩かれてたんだ?赤くなってるぞ。」


「さ、さあ?」


「他に何もされてねえな。」


大喰くんは私から手を離す。

……なんだったんだ、今の。

もしこれが大喰くんでなくて伊野尾慧だったらロマンス始まってたぞ……。

伊野尾慧は5秒に一回恋のロマンスが始まるからね。


「なら行け。

ここは溜まり場になってんだ、また捕まったら……」


「あーー!キタキタハクレイ!!」


この素っ頓狂なあだ名で呼ぶのは1人しかいない。

振り返らずに逃げようとするが、それより早く首根っこを掴まれた。


「よー!元気そうだな!」


「三俣!何遍言わせんだ!

無関係な奴を巻き込むのをやめろ!」


「いや、今日は喧嘩の人質じゃねえよ。」


三俣は首根っこを離すと、私のカバンをあっさり奪う。


「カツアゲしようと思って。」


なんだそれは!

私が叫ぶよりも早く三俣は吹っ飛んでいった。大喰くんが殴ったのだ。

彼は倒れ込んだ三俣の腹を蹴る。


「お前には恥ってもんがねえのか?ああ?」


「やめ、死ぬ!」


「死ね!」


「わー!ストップストップ!

ここで殺人事件が起こったら私が証人じゃないですか!やめてください!」


大喰くんの腰にまとわりつきなんとか暴行を止める。

これ以上時間がかかったらアイカツ出来なくなってしまう。


「……チッ……。命拾いしたな、三俣。」


「本気で殺そうとすんなよ……。」


「悪いな、ついに三俣の性根が腐ったみてえだ。」


「いや、大丈夫です……。」


大喰くんは私のカバンを投げてよこす。


「……それにしてもなんで私にカツアゲなんか……。もっとお金持ち狙いましょう!ファイト!」


「いやあ、ほんの冗談ってか、あそこのたい焼き食べたいけど金無かったから奢ってもらおうと思って……。」


三俣が指したのは有名なたい焼き屋だった。

空き地の目の前にこんなお店があっただなんて。

確かにカツアゲしてまで欲しくなる美味しさなのは知っている。


「ああ……。

諦めてください。私は自分の分買いますけど。

じゃあこれで。」


「いや待て、俺が買う。」


大喰くんが私のカバンの紐を引いた。

……これだよ、これ。

三俣と涸沢よ、首根っこを掴むんじゃなくてカバンの紐を引っ張ってくれ。


「大喰くんも買うの?」


「あんたの分奢るって言ってんだよ。」


「え、や!いい!」


「詫びくらいさせろ。」


……詫び?なんのだろう。

私はいつも大喰くんには助けてもらっているのに。大喰くんには。


彼は私の手を引くと、たい焼き屋に向かいたい焼きを二つ買った。


「ほらよ。」


「ほんとにいいの?」


「いいから。

三俣が馬鹿なあまりにお前にはいっつも迷惑かけてるからな。」


確かにそうかもしれない。

それでは遠慮なく頂こう。


「ありがとうございます……。」


大喰くんの手からたい焼きを貰う。

暖かくていい匂いがする。

私はたまらずかぶりついた。


「んー、美味しい!」


「だな。」


「……あれ?三俣……さんの分は?」


「あるわけねえだろ。

いつも迷惑被ってる俺とあんただけだ。」


「被害者の会というわけですね。」


「ハハッ、そうなるな。」


私は三俣以外にも富士くんという加害者がいるけれど。

大喰くんは被害者の会という言葉が面白かったのか、いつもの眉間のシワを消し、声を上げて笑った。


……あれ?

眉間のシワが無いとこんなに爽やかな顔面なのか……。


シワひとつで顔は変わるものだと、コエンザイムなQ10なCMでやってたかもしれない。

きっと三俣に気疲れさえしなければ、もっと爽やかに暮らせただろうに……。

私は憐れみながらたい焼きを食べた。


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