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6.死ぬまで側に

突然、世界が動き出した。


アサヨがいなくなったことで術が解けたのだろう。


「ん……。」


腕の中にいた白嶺が身じろぎをし、目を覚ます。


ああ、白嶺が目を覚ましてしまった。

彼女はもう俺のことを好きじゃない。

どうなるんだろうか。

酷い言葉を投げかけられるかもしれない。


頼むから、あんたまでいなくならないでくれ。

俺が祈るように彼女を見ると、状況に気付いたのかワッと飛び上がった。


「ワア!?なん、え!?」


「気がついたか。」


「う、うん。

あれ……私何してたんだっけ?

ええっと、あ、富士くんに大納言小豆を買うように頼まれて……それで……?」


うーん、と唸っている。

いつもの白嶺と変わらない。


「なんか変な夢見たんだよね。

アサヨちゃんに羽根が生えて矢で射抜かれるの。

……私どうして……。」


「お前は貧血で倒れてたんだよ。」


「大丈夫っすか?」


白々しい。

しかし白嶺は信じたのか「レバー食べなきゃね」と言っていた。


「ごめんね、大喰くん。重かった?」


「いや、全然。」


白嶺は何も変わらない。

そうか、恋心が消えても俺のことを嫌いになるという訳ではないのか。

試しに思考を覗くが何もわからなかった。

やはり、涸沢の力は解け彼女は俺の物ではなくなっている。


「こういう時って救急車呼ぶべきかな。

でも元気だし……。どう思う?」


「元気ならいいんじゃないの?」


「……あれ?そういえば松原ちゃんも涸沢くんもいつの間に?」


「倒れてる間に。」


そんなに長いこと気絶してた?と白嶺は時計を見る。


「迷惑かけてごめんね。

私もう大丈夫だから、アイス買いに行こう。」


白嶺はヘニャヘニャ笑うと俺の手を繋ぐ。

……ん?


「……えっと、俺はもう松原がいるから、カップル割を装えるから大丈夫だぞ。」


「あ、そうだね。

じゃあ私たちの分だけ買おっか。

涸沢くんはいる?」


「待て、白嶺。

あんた……その、カップル割のアイス食いたいか?」


白嶺はキョトンと首を傾げる。


「カップル割だと毒でも入ってるの?

塩見みたいなリア充に嫉妬しちゃう店員に心当たりが?」


「いやそうじゃねえけど……。」


「?

大丈夫?なんか変だよ?」


彼女は俺の方にグイと顔を寄せてきた。


「大喰くんも貧血?休む?」


「……白嶺、俺のこと好き?」


口をついて出た質問に白嶺はポカンと俺を見た後、顔を真っ赤にさせた。


「な、す、きだよ……!あ、当たり前じゃん!

いきなりなに……!?」


どういうことだ。

アサヨの矢が当たったら、悪魔の呪いは解けて彼女はもう俺の物じゃなくなると言っていた。

実際、彼女の思考を覗くことは出来なかった。


「……俺も好きだよ。」


「……う、嬉しいけど、その、出来れば、あの……ふ、ふたりきりの時がいいな……。」


可愛い。なんだ?どうした?

いや白嶺はいつも可愛かった。


違う、そうじゃない。

なんで彼女は俺のことが好きなんだ。


涸沢を見る。


「あー、なんていうかー、両思いだった、的な?」


「は?」


「だから、俺を使うまでもなく北も大喰さんのこと好きだったってことですね……。

あ、怒らないで!俺だって知らなかったんです!

実際、俺が魔法をかける前は確かに漫画のキャラが一番好きだったはず……なんですけど……。」


「おい。」


「いやいや、待ってくださいよ!

さすがにこれは騙してないですから!

それにほら、契約は強制的に解消されて魂は俺の物じゃなくなってますし!ね!だから大喰さんは損してません!」


こいつ、アサヨのことも黙っていたし信用ならない。

俺の魂は無駄に取られるところだったんじゃないのか?


「落ち着いてください、大喰先輩!

北先輩は鈍感っすよね。もしかしたら自分の気持ちも気付いてなかったのかもしれないっすよ。

でも、大喰先輩が呪ったお陰で自分の気持ちに気付いた……とか。」


「さっきからみんななんの話ししてるの?」


白嶺が不安そうに俺の腕に縋り付いてきた。

可愛い。このまま連れ去って……。

いや違う違う。


「白嶺は俺のこといつから好きなんだ?」


「へっ!?さ、さっきからなに!?」


「教えてくれたらアイス奢る。」


「別にそんなことしなくても教えるけど……あの……みんなの前で?」


俺は頷いた。2人きりのときはもっと色々しながら聞く。


「いつからかな……。廃ビルに塩見を助けに行った時は確実に、好きだった、よ……。

でも、たい焼き奢ってくれた時から意識はしてた……かも……。今思えばだけど……。」


白嶺はもじもじしながら答える。

可愛すぎないか?危ない。こんなに可愛いと攫われてしまう。

それよりも前に俺が


「監禁はダメですよ。

……でもそうか、元々好きだったのか。」


「……大喰くんはいつから私のこと好き……?」


袖を引かれ上目遣いで聞かれる。

なんて破壊力。


「初めて会った時。」


「……!!

そっか、一目惚れ……?」


へへへ、と笑う彼女の可愛さは今すぐ攫って


「監禁はダメですよ。

ほら、アイス買いに行きましょう。」


「監禁……?」


「なんのことだかサッパリだ。」


「北、何かされたら俺に言えよ。

気が向いたら助ける。」


何もしないと言うのに。



「槍、どこ行くの?」


祖母が心配そうに俺を見つめていた。


「友達んとこ。

夕飯までには帰るから。」


「遅くなるなら電話してね?」


俺は頷いて、玄関の扉を閉めた。


あの後、家に帰ると胸に大きな穴の空いた両親の遺体が台所に2つ並んでいた。

死因は失血死。

警察は懸命に捜査したが、未だに犯人は見つかっていない。


アサヨは行方不明となり、彼女も捜索されたがこれも現在見つかっていない。


俺も何度となく事情聴取を受けたが、何も話していない。信じてくれるとも思えないし話しても無駄だと思ったからだ。


事件は凍りついて溶けそうにない。

これでいいのだろう。


涸沢に頼んで蘇らせることもできた。

ただ、悪魔の力を利用しアサヨを蘇らせた結果がこうだと思うと、それは得策とは思えなかった。


そう伝えると涸沢は「承知した」とニンマリ笑った。


俺はすぐに東京の祖父母の家に引き取られた。

2人とも辛かったね、と俺を気遣ってくれた。

しかし、両親が死んでアサヨもどこかに消えたというのにひどく悲しいとは思わなかった。

もちろん悲しみはあるが、もしかしたら三俣が死んだとなった方が悲しいかもしれない。


それだけ俺たちは家族になれてなかったのだろう。


天使となったアサヨは俺の目の前に姿を現さない。

ただ、三俣とは未だに会ってるらしく彼からたまにアサヨの話を聞かされた。

元気でやってるらしい。


約束の場所に行くと白嶺がこちらに手を振っていた。


「白嶺、待たせた。」


「槍くん!」


白嶺は俺の胸に飛び込んでくる。


「元気にしてたか?」


「うん!」


3ヶ月ぶりだ。

ぎゅっと力を込めて抱きしめる。

このまま連れ去ってしまえたらどれだけいいだろうか。


元いたところから東京はそれなりに距離があるのでしょっちゅうは会えない。


「槍くんは?元気?病気してない?友達できた?浮気してない?バイト先で暴れてない?」


「元気、健康、話せる奴はまあいる、浮気してない、バイト先で大人しくしてる。」


「ほんと?

槍くんかっこいいから心配だなあ……。告白されたりしてない?」


「あのさ、俺男子校だから。」


そっか……と白嶺は安心したように息を吐く。

この説明何回させるんだ。


「どんな人と仲良くしてるの?」


白嶺の無邪気な質問に自分の顔が歪むのがわかる。


「…………説明しにくいな。」


「えっ?三俣くんよりやばい奴なの?」


「うん……。ずっとモテたいって言ってるな。

あ、ほら、お前の幼馴染……塩見に似てる。いやあんなに立派じゃねえか……。

漫画を読んでヤンキーに憧れてなったはいいけど男子校で彼女が出来ず、嫉妬にかられて他校のやつに喧嘩を売って負けてる。」


白嶺の顔はなんとも形容詞がたいものだった。

呆れと軽蔑と疑問が詰まった顔。


「なんでそんな人と仲良くしてるの?

槍くんって馬鹿な人好きだよね。三俣くんとか私とか。」


「白嶺は馬鹿じゃないだろ。

模試の結果良かったんだろ?」


俺が話をそらすと、白嶺はパッと顔を輝かせた。


「そう!A判定だった!

槍くんは?」


「あー、Cかな?」


「ええ!?な!がんばろ!?」


「なんとかなんだろ。」


俺が気楽に言うと、白嶺が怒る。


「もう、そういう楽観的なところあるよね!ダメだよ!

私と一緒に東京の大学行こうよ。」


ね、と顔を覗き込まれる。


白嶺は俺の物ではない。

だからいつか彼女が離れていってしまうという不安に苛まれる時もある。

でも白嶺はこうして、当たり前のように2人の未来を提示してくれる。


「ああ、そうだな。」


「よし!じゃー、勉強会しよっか!」


白嶺の満面の笑みに釣られ、俺も笑う。


悪魔の力はもういらない。

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