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4.死んでも側に

ジョジョの奇妙な冒険。

俺はブックオフで漫画を眺める。

何巻まであるんだ?長くないか?

一巻を開くも、あまり漫画を読み慣れていない上にこの絵柄。

話が進まず犬が蹴られたところでやめてしまった。


白嶺の好きだと言っていたキャラクターは何巻に出てくるんだろうか……。

先が長い。

しかし彼女の好きなキャラクターがどんなやつか気になる。

画像だとなんだかモコモコしたロシア人のような帽子を被っていた。


「あー、すみません。ちょっと漫画取りたいんですけど……」


横から声を掛けられる。

……麓高校の制服の赤髪。塩見だったか。

白嶺の幼馴染らしい。


「あれ?大喰?

こんな所で会うだなんて意外だ。」


「塩見、であってるか。」


「ああ、うんそう。塩見 鹿塩。

大喰もジョジョ読んでるの?」


塩見は俺の手元を覗き込んで来た。

今ちょうどやめたところだ。


「いや……。諦めた所だ。」


「1部は読みにくいからね。

俺のオススメは3部だ。そこから読めばいいよ。」


……1部からずつ読まないのか?飛ばして読んだら話がわからないと思うのだが。


「そういうもんか。」


「そういうもんだ。

俺全巻あるから貸すよ。3部からで良い?」


ありがたい申し出だが、読む気はあまり無い。


「あー……。

なんか、モコモコした帽子被った奴が出てくるのは何巻だ?」


「モコモコした帽子?ウェザー・リポートのこと?」


「そんな感じだったな。」


「いきなり6部はやめといたほうが良いよ。せめて4部から……。」


「いや、そのウェザー・リポートだけ見たいんだ。」


塩見は首を傾げた。

言動があまりヤンキーっぽくないやつだ。

初対面の時は喧嘩を売られたが。


「それならこの巻に出てくるけど……なんでウェザーだけ見たいの?」


「……白嶺がオススメしてた。」


塩見はああ、と呟く。


「あいつ面食いだからなあ。仕方ない。

昔っから惚れっぽくてさ、2次元3次元問わずイケメンを見たら惚れてたよ。」


「……へえ。」


「そういえばこの間も誰かのことカッコいいって言ってたな……。

眼鏡が最高にカッコいいとかなんとか……。

俺も割と眼鏡好きだけど、現実じゃあんまり萌えないなあ。

……あれ?大喰?なんか、般若みたいな顔になってるけど……。」


「漫画、今度貸してくれ。」


俺は読んでいた漫画を閉まって、店を後にする。

塩見が後ろから「3部からで良いんだなー!?」と聞いていたがもう何巻からだろうと構わない。


涸沢を呼び出すと、奴はすぐに表れた。


「お呼びですかー?」


「俺の魂をやる。」


涸沢がピクリと反応した。


「なんのために。」


「白嶺の全てを俺の物にしろ。」


涸沢はぽかんと俺を眺めた後、ニヤァと唇が吊り上がった。


「そうか、ついに、俺を使って彼女を自分のものにするのか。」


「ああ。」


「いつかと思っていたが、こんなにもすぐに!

良いだろう、白嶺をお前の物にしてやる。

過去も未来も今も昔も頭の先から爪の先脳髄から細胞の一個一個に至るまで、魂さえもお前のものだ。永遠にな。

ただし、死後お前の魂は永遠に俺の物になる。今とは逆の立場になるんだ。」


「その場合、白嶺はどうなる。

彼女は永遠に俺の物なんだろ?」


「そうだ。北 白嶺はお前の物になり、お前は俺の物になる。

安心しろ、お前の物には手を出さない。」


ああ。

この契約を結べば、地獄でも天国でもない場所で永遠に彼女と漂い続けるのだ。

なんて素晴らしい。

死すら2人を分かつことは無い。


「頼む。」


「承知した。」


涸沢は笑顔で俺の腹に手を突き立てた。



白嶺の髪を撫でる。

瞼、鼻筋、唇、首筋、鎖骨。


全部全部俺の物だ。


「く、くすぐったいよ……!」


身をよじらせるので、手を離す。

滑らかな皮膚。


「……どっか出掛けるか?」


「どこに?」


「映画館とか……?」


「なんか見たい映画ある?」


「無えなあ。」


「なら良いじゃん。ノンビリしてよ?」


白嶺は俺に甘えるよう、腕にすがりついてきた。

可愛すぎる。

たまに、白嶺は悪魔が作り出した妄想なんじゃ無いかと思う。

こんなにも可愛くて愛おしいなんて。


「そういえば床どうなった?

塗り直すって言ってたよね。」


白嶺がカーペットをめくる。

床は赤黒いままだ。


「あれ?塗り直してないの?」


「面倒なんだよ。色々どかさなきゃなんねえし。」


それに、無闇にいじっていいものかわからない。

白嶺は納得したのかカーペットを元に戻していた。


「あの廃ビルもこんな感じの床の色だったよね。

おんなじ塗料なのかなー?」


あの廃ビルは恐らく富士が松原を喚び出すのに使ったのだろう。

涸沢がそのようなことを言っていた。

気になるのはあの広い面積いっぱいが赤黒く染まっていたことだ。

何を使って喚び出したのだろうか。


松原は、カラコルムはK2より強いようだ。

贄によって悪魔の強さが変わるとしたら—


「……ねえ、鳥飼ってる?」


「は?」


なんだ突然、と白嶺を見ると彼女は大きな30センチほどもある白い羽根を摘んでいた。


「綺麗……。」


「どこに落ちてた?」


「ベッドの下。」


窓はベッドの上にある。

窓から入ってきて、そのまま落ちたのだろうか。


「鳥は飼ってねえから、窓から飛んできたとかかな。」


「なんの鳥だろ。」


パッと思いついたのは白鳥だが、白鳥がこの辺にいるとは思えない。


「あ、もしかしたら親父の趣味のやつかもしんねえ。」


親父の、よくわからない民族的な物の中にこんなものがあったかもしれない。


「ああ、お父さんの……。」


白嶺は部屋を見渡した。

俺の部屋にも、親父の部屋に入りきらなかった得体の知れない置物がいくつも置いてある。


「お父さんの趣味って一体……?」


「さあ……。呪術とか魔術とか錬金術とか、そういうやつ。

あんま興味ねえからよくわかんねえな。」


そもそも親父自身、いや家族に興味がない。

悪魔召喚の本をどうやって手に入れたのかだけは気になるが、それ以外はどうでもいい。

早く両親の元から離れて一人暮らしをしたいとずっと思っている。


「でもなんか面白そうだね。」


面白そうだろうか。

俺からしたら悪趣味としか思えない。

それどころか胡散臭いと思っていたが……。まさか本当に悪魔を喚び出せるとは。

しかしそのお陰でこうして白嶺は俺の物になった。


彼女は今や漫画やアニメのキャラクターを好きだとは言わない。

それだけじゃない。彼女の考えていること感じていることを読もうと思えば読めるようになり、彼女の記憶に入り込んで何があったか見ることも出来る。


「白嶺。」


俺が手を広げると、彼女は飛び込んできた。


(暖かい)(固い)(頭撫でて欲しい)(呪術が趣味って漫画のキャラみたい)(いい匂いする)


俺が彼女の頭を撫でると、気持ちよさそうに目をつぶった。


(気持ちいい)(あの羽根の鳥はなんだろう) (動きたくない)(なんかドタドタおとがする)(ヤバい、誰か帰ってきた?)


……この歩き方はアサヨではない。

というか、アサヨとはここしばらく会っていない。

恐らく涸沢だろう。俺は彼女が離れようとするのを留める。


「大喰さーん!」


「今忙しい。」


「俺は隣で何やってようと気にしませんからゲームさせてください。」


テレビゲームを与えたのは失敗だった。

涸沢が普段どこにいるのか知らないがそこにはテレビがないため、俺の部屋でゲームをやりに来るようになってしまった。


仕方がないので白嶺を抱きかかえて部屋のドアを開ける。

そういえばこいつ、どうやって入ってきた。


「どーも!

俺のことは気にせずどうぞ肉欲を存分に叶えてください。」


「こっちが気にするんだよ。」


白嶺は真っ赤な顔をして(言い方が生々しい)と恥ずかしがっていた。


「そんな赤くならなくても。

人間の当然の欲求なんだから。」


涸沢は呆れた顔をして、WiiUの電源を入れた。

白嶺はより恥ずかしくなったようで、俺の首に顔を埋めた。


恐ろしくなるほど可愛い。

こんなに可愛いことをしてどうするつもりだ?


クソ、こいつさえいなければ……。


「だから、俺は気にしませんから。

混ざったりもしませんよ。」


「そういう問題じゃねえよ。」


仕方がないので、3人で街中にペンキで色塗るゲームをやった。

白嶺が楽しんでいたので、まあ良しとしよう。

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