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3.厄介な妹、厄介な知人、厄介な悪魔

「お、お、ば、み!起きろー!!!」


朝から三俣の頭の痛くなる声が響いてくる。

誰が電話をかけてきたか、確認してから出るべきだった。


「…………大喰?起きてる?」


「何の用だ……。」


「今日は補講だぞ!

お前がまた二年生をやりたいなら構わねえんだけど、俺と一緒に卒業したいだろ?」


「…………いや、別に……。」


というかまだ5月だし大丈夫なんじゃないだろうか。

補講に出る意味がわからない。


「……俺はまだ寝る……。」


「なんでそういうこと言うんだよー!

俺とお前はズッ友じゃん!?」


「……何言ってんだお前……。」


「冷た……。その冷たさは人を傷つけるぞ……。

でも俺は優しいから許してやるよ。

ほら、早く起きて学校来いって!

涸沢はもう来てるぞー!」


時計を見る。

今は9時だ。

こんなに朝早くからこんなにテンションが高いだなんておかしいんじゃないか?

人間が活動できる時間は14時からだろ。


俺は三俣に何も言わずに電話を切った。

さあもう一眠り、と思ったが三俣のあの騒がしい声のせいで目が冴えて中々寝付けない。


仕方がない。

三俣を殴るため、起きて朝食を食べることにした。

朝食を食べるのも久しぶりだ。

いつもは昼飯しか食べない。


俺が食パンをそのままむしって食べているとインターフォンが鳴る。

こんな朝早くに誰だろうか。


「はい?」


「あ、あの、東雲……あ、大喰アサヨさんいますか?」


オドオドした女の声だ。

アサヨの知り合いだろう。

玄関を見るとあいつの靴はまだあった。


「あー……。呼んで来るんで、」


「誰?」


振り向くとアサヨが立っていた。

今日も今日とて憎たらしい。


「知らねえよ。

お前の知り合いじゃねえの?」


「……ああ、あの子ね。」


アサヨはスタスタと玄関まで歩くと、今までの憎たらしい表情から一変、完璧な作り笑いを浮かべてみせた。


「お待たせ。」


「う、ううん!私こそ、ごめん、連絡すればよかったよね……。」


そこにいたのは冴えない、ビクビクした女だった。

アサヨの新しい獲物だろう。


「いいのいいの!

さ、行きましょう?」


「うん!

あ、その前にこれ……。

あの、前に言ってたライブのDVD……。」


「わあ!ありがとう!楽しみにしてたの!

あ、いつまでに返せばいいかな?

ちょっと時間かかっちゃうかも……。」


「い、いいよ。

ウチ、もう一枚あるから、あげる。」


アサヨがニンマリ笑う。

あーあ。


ああやって貢がせて、全てを奪って、捨てる。

アサヨには毒婦という言葉がぴったりだ。


「本当に!?ありがとー!」


冴えない女は嬉しそうに頬を染めてはにかんだ。


アサヨの毒牙にかかるのは女も男も関係ない。

ああいう冴えない女の時もあれば、誰からも好かれる男のときもあるし、教師の時もある。

みんなアサヨに全てを尽くしてしまう理由も分からないが、アサヨがそこまでして何がしたいのかも分からない。


ただ、人が傷つく様を見るのが好きなんだろう。


三俣を思うと哀れでならない。

あいつもアサヨの毒牙にかかった1人だ。

彼はアサヨにのぼせ上り、色々貢いだがこっぴどく振られ、メソメソ落ち込んでいた。


俺としては何度もアサヨに関わるなと忠告したのでほら見たことかと思ったが、あんまりにも情けないので今後再びアサヨに引っかからないよう見ていることにした。


親が再婚した今、再びアサヨが三俣に近づく可能性は高い。

というのもアサヨは三俣のことが"お気に入り"らしく、しつこく彼を嬲っていた。


俺は薄っぺらな笑みを浮かべるアサヨを睨みながらコーヒーを飲んだ。

学校に行くとしよう。



教師が何を言っているのかわからない。

周りの生徒を見ても、全員ぼんやり授業を受けていた。

……三俣がいねえ。

あいつ、人を呼び出しておいてサボっているようだ。


文句を言ってやろうと携帯を取り出すと、LINEの通知が来ていた。


—富士芙蓉があなたを『エクソ氏すと』に招待しました


……エクソ氏すとってなんだ。エクソシストと打ちたかったのだろうか。

LINEのグループを作ることが出来るのに何故こんなタイプミスをする。

というか、エクソシストって祓う方だろ。

使役する方がなんというか知らないが。


参加するか迷ったが、富士の目的がわからないので参加を押す。

しばらくすると富士から「おおばみ一髪で返還できないのはふべんた解明してほしい」と来た。

一発も変換も改名も間違っている。句読点も打てないようだ。


『何の用だ、ってかこのグループなんだよ』


『せっかくだからつくったた唐沢もしょうたいしたまつはら』


老人のメールの方がまだ読みやすいんじゃないだろうか。

折角だから作ったんだ。涸沢も松原が招待した、と言いたいのだろう。

しかもこの文を打つのに3分かかっている。


『жфњิ3พลџカdis&¥/』


なんだこれは。

発信者の名前はقراقورومだ。

読めない。


『松原か?

何言ってるんだかわからない

日本語で打て』


『њљрะถ_ไปху7@า?』


『まつはらはまだ日本号で撃てないから o(^▽^)o

よろしくっていってる』


顔文字を覚える前に正しい変換を覚えろ!

というか、顔文字も正しく使え。


『俺今一応補講中なんだよ

用がないなら送るな』


『おまえも歩行とかうけるんだなおもしろい』


『また2年生やることもないからな』


なにも面白くない、と思いながらも返信する。

さっきから教師がチラチラ見ているが、どうせ授業を聞いててもわからないので無視をする。


—hodakaが参加しました


どうやら涸沢も参加したようだ。

アイコンが自撮りだ。腹立たしい。

悪魔の癖になに自撮りしてるんだ。


『こんちわー!』


『これなんのグループですかー?』


『ってか母さん本名じゃんヤベw』


一回で送れ!一回で!

短文で何度も送るなよ!

そして松原はあれが本名なのか。


『ффффффффффффффф』


قراقورومは何やら言っているが、全く読めない。


文化の違いを強く感じる。


『そんな怒んなくてもよくない?』


『こうゆうのはチャット形式だから短文で何度も送るもんなんだよ』


『фффффффффффффффффффффффффффффффффффффффффффффф』


『わかったよ!まとめて送るって!

っていうかなんで日本語じゃないの?』


фは怒ってるという意味なのか。

松原が今後фを送ってきたら注意しておこう。


『เอปำ่ีะфвнбсз』


『日本語に設定すればいいじゃん

やり方わかる?』


『わかるよ。』


どっと力が抜ける。

今までのはなんだったんだ。


『ってか名前も変えなよー

それだと富士さんも読めないんじゃない?』


『おれのともだちはまつはらとおおばみときたしかいないから大乗ぶだ。』


松原と大喰も北……。3人しかいないのか……。

その選ばれし3人に白嶺がいることが嫌だ。


『名前変えればいいのか?』


『そうそう

カラ☆コルムとかにしたら?』


カラ☆コルムって。そんなつのだ☆ひろみたいな。

松原はどう思ったのか名前を松☆原に変更していた。


『わかりやすくなったじゃんー

ついでにアイコンも自撮りしたら?

富士さんと母さんで』


松原が母さんと呼ばれていることに違和感を覚える。

いや合ってるんだろうけど……。


『自撮りか、人間は昔から自分の顔を残したがるよな。』


『俺は悪魔だけどねーw

大喰さんと富士さんはやらないんですか?』


『おとこが地鶏するのはサイコパスのあかしだからおおばみはやってるとおもたぞ』


男が自撮りしたらサイコパスってどんな偏見だ。

しかもサイコパスだから俺がやってると思うって、こいつは俺をなんだと思ってる?


『せめて富士さんも大喰さんも初期のアイコンなのやめましょうよ

俺が可愛い画像送りますね』


可愛い画像?子犬とかだろうか。

しかし送られてきたのはそれ以上に可愛い画像だった。


白嶺だ。

縛られて半泣きになりながらこちらを見ている。


たまらなく可愛い。

可哀想で可愛い。


クソ、これを撮ったのは涸沢か?

白嶺をこんな目にあわせて、と言う気持ちとお前ズルイぞ、という気持ちが入り乱れる。

後で5発くらい殴らないと気が収まりそうにない。


イライラしながらも画像をそっと保存をした。

毎晩寝る前に見よう。


『可哀想に。お前が思っているより人間は脆いのだからこうやって縛るのはやめなさい。勢い余って腕を千切ってしまったらどうする。再生できないのだぞ。』


『手加減してるから^^;』


『かわいいが像きたいしてた

さんてんo(^▽^)o

つぎはねこちゃんのしゃしんにしなさい』


やれやれ、富士も殴らないといけないか?


『猫ね、了解しました

富士さん曲がりなりにも求愛してるなら三点って酷くないですかw』


『おれはうそをつけない

あとだいじなようおもいだした(#^.^#)

おおばみと唐沢とおれ達であそぼう

つもるはなしも有るし』


大事な用?

もしかして、これを言うためにグループを作ったんだろうか。


『LINEでいいだろ』


『つかれた』


それから富士からLINEが来ることはなく、松原が代理で話をしていた。


『用がないなら今日の17時に駅に集合

あるならば他の日付で』


『ない』


『ないでーす』


『では今日集まりましょう。

大喰さんは補講頑張って下さい。

K2は邪魔をしないように、視力が下がるほどゲームはやらないことだ。』


松原は文章だとだいぶ雰囲気が変わるな……。

まるでまともな人間かのようだ。


ふと顔を上げると、何か言いたげな教師と目があった。

授業中に携帯を弄るな、と言いたいのだろう。

それすらも注意できないだなんてな。

俺は黙って荷物を片付け教室を出た。



教室を出た途端、白嶺に出会う。

制服ではなく私服姿で。

どうやらまた三俣に捕まったようだ。

あいつは何度俺に同じことを言わせる気だろうか。


白嶺はかなり俺に慣れてきたのか、前のようにビクビクしなくなった。

それどころか向こうから近づいて来る。


俺の格好についてあれこれ聞き、下から覗き込んで来る。

可愛い。眼球舐めたい。


今日の白嶺はワンピースで一段と可愛い。

ワンピースの生地は薄いのか、体の線が制服よりわかりやすい。

彼女の柔らかそうな二の腕に貪りつきたくなる衝動をなんとか抑える。


「大喰くん?」


俺の横をちょこちょこ付いてきていた彼女が見上げて来る。

変な顔をしていたのだろうか、気を引き締めないと。


「……ゲームセンターよく行くのか?」


俺は衝動を逸らしたくて話を振る。

彼女は苦笑いを浮かべながら頷いた。


「まあねー……。

でもゲーセン行くと高確率で捕まるからあんまり……。」


三俣……いや、涸沢か。

あいつはどうも白嶺を捕まえると俺が喜ぶと勘違いしているのか、しょっちゅう彼女を捕まえて来る。


もし、俺が彼女を捕まえて、それで彼女が怯えるのは良い。ゾクゾクする。

だが他の奴らがそれをやると腹が立つ。


「……本当に悪いな。

三俣は人の話を聞かない。何遍言ってもあれだからな……。」


「大喰くんのせいじゃないから……。」


三俣が涸沢に誘拐を命じるのは俺のせいではないが、涸沢がその命を守るのは俺のせいだろう。

涸沢にもやるなと言っているのにニヤニヤ笑ってやめようとしない。

またゲームを買ってやらないとダメなんだろうか。


取り敢えず俺は朝起こしてきた癖に補講に出なかった三俣を何発か殴った。



俺がボロボロの涸沢を連れて駅に行くと、すでに富士たちはそこにいた。


「遅いぞー!

ん?涸沢はどうしたんだ?」


「大喰さんにやられました。」


「最低だな大喰。

松原、息子の恨み晴らしてやれ。」


「K2はこんなことで人を恨んだりするような子じゃないっすよ。」


「そうか。

よし、じゃあ俺がやり返そう。」


「なんでそんなに喧嘩っ早いんだ?」


俺は富士の繰り出してきた拳を避ける。

なんなんだこいつは!


「喧嘩売るなよ!

話があんだろ!?」


「そうだった。」


富士は拳を下ろして唐突に歩き始めた。

この男の動きが読めない。


「サイゼリヤでいいか?」


「……なんでもいい……。」


サイゼリヤは少し混んでいて、人の声がガヤガヤと店内に溢れていた。

俺はドリンクバーだけ頼み、富士と涸沢はミラノ風ドリア、松原はパフェを頼んでいた。

注文はすぐに、眠たげな女の店員が持ってきた。


「それで、話ってなんだよ。」


「ああ、なんでお前が北に付きまとってるのか聞こうと思って。」


富士はミラノ風ドリアをかき混ぜながら言った。

付きまとっている?俺が?


「それはお前だろ。」


「違う。

お前が涸沢……K2を使って北の周りを調べ始めたから、俺は北を呪い殺すのかと思って見張ってたんだ。

お前の様子を見る限り、呪い殺すわけじゃなさそうだがな。」


「呪い殺すわけねえだろ!」


「ならなんで付きまとう?」


涸沢に彼女を調べさせたことが、富士にとっては違う意味に捉えられたようだ。

だから富士は彼女に俺の女になれ、などと言って側にいるようにしていたのか。


俺は白嶺を呪い殺したりなんかしない。

大いなる誤解だ。

しかし、富士に本当のことを話すのも癪だ……。


「……なんだっていいだろ。」


「大喰さんは北を自分の物にするんですよ。」


涸沢が口の周りにソースを付けながら言い放った。

こいつ……!


「そういうことか。」


富士はポンと手を打った。


「そうかそうか、そういうことか。

お前が恋か……。甘酸っぱいな……。」


富士はフンフン頷きながら松原のパフェのイチゴを摘み食いする。

腹立つ言い方だ。


「あの、上級生も下級生も教師もボッコボコにしてた大喰が恋かあ……。」


「そういうことです。

だから俺は監禁とか、四肢切断とか、そういうことを手伝うんです。」


「そうか……。

……ん?監禁?」


余計なことを。


「えっ……四肢切断……?いや、それはダメだろ大喰。」


「やんねえよ。」


多分。


気持ちが伝わってしまったのか、富士は俺のことを怯えきった目で見つめてきた。


「確かに北は若干モテる。

おっとりしてて話しやすいし、男女分け隔てなく話すからな。クラスで12番目くらいに好かれてる。でもだからって嫉妬にかられて監禁しちゃうのはよくないぞ。今日もとあるクラスの男子が北に好意を寄せていることがわかったが、北もその男子と仲良いんだが、だからって四肢切断はダメだ。」


「そういうの逆効果じゃないっすかね。」


「全くです。」


……へえ、そんなことが。


「おい大喰。顔が前科三犯の顔になってるぞ。いつもの前科一犯の顔に戻ってくれ。」


「富士先輩が余計なこと言うからっすよ。」


「涸沢、お前Wii U欲しがってたよな。」


「なんか嫌な予感。」


「その白嶺と仲良くしてる男、どっかにやれ。」


「承知した。」


涸沢はミラノ風ドリアを丸呑みすると立ち上がった。

富士がその裾を掴む。


「待て待て!

殺してやるな!落ち着け!仲良くしてるだけで、まあ今後アベックにならないとも言えないが、少なくとも今は違う!」


「誰も殺すなんて言ってない。」


どっかにやればいいだけだ。

俺が目で行くように命令すると、涸沢は「すみませんね、ナワバリバトルしたいんで」と富士を振り切ってお店から出て行った。


「おま、お前職権乱用だぞ!」


「あの子にあんまりゲームやらないでほしいっす。

目が悪くなっちゃうっす。」


「あいつゲームと女以外じゃ動かねえから。」


松原はハアと溜息をついた。

息子に呆れているのだろうか。

悪魔もやっぱりゲームにうつつを抜かすのはダメなのか。


「要求するなら魂にすればいいのに……。」


「魂?」


「そうっすよ。

人間の魂は人間にしたら5兆円の価値があるんで。

くれたらなんだってしますよ。」


人間にそんな価値があったとは。

……魂をやればなんでもやる、か。


「どこまで出来る?」


「どこまでも。

人間の女1人捕らえることは容易い。」


松原がニヤリと笑った。


「松原!」


「すみません、でも息子に手柄を立てて欲しくて。」


「しょうがない奴だな。

いいか大喰。魂を悪魔に渡せばその魂は永遠に悪魔の物だ。死後天国に行くことも地獄に行くこともなくただ漂い続けるだけになるんだぞ。」


想像より優しい。

もっと、地獄の炎に焼き続けらるとかだと思っていた。


「よく考えろよ。」


富士はそれだけ言うと立ち上がって出て行った。

松原もその後に続く。

残ったのは俺だけだった。


……俺が全部払うのか?

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