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11.その後の私たちは

「北せんぱーい!」


松原ちゃんが私の元に駆けてくる。

もちろん、富士くんも一緒だ。


「どうしたの?」


「もー、今日はカラオケ行く約束してたじゃないっすか!」


「あ、そうだった。ごめんごめん。」


私は慌てて荷物をまとめる。


「早くしないと三俣たちがうるさいぞ。」


「三俣は早く行こうが遅く行こうがうるさいじゃん……。」


「それもそうだな。

でも早く行くに越したことはないだろ。」


富士くんは私の荷物をヒョイと奪うとサッサと教室を出る。

私と松原ちゃんはその後を追った。


✳︎


「遅いぞ!」


案の定三俣がギャーギャー騒ぐ。

遅いぞって、約束の時間よりは早く来ている。


私は三俣を無視して大喰くんの方に駆け寄った。


「お待たせ。」


「いや待ってない。

三俣がうるさいだけだ。」


大喰くんは私の肩を抱くと、カラ館に向かう。


「クソ……イチャつきやがって……。」


「そりゃカップルなんですからイチャつくでしょうよ。」


「俺もアサヨとイチャつきて〜〜!」


「無理でしょうねえ。」


涸沢が呆れた顔のまま三俣を引き摺る。

最近涸沢の三俣に対する扱いが雑だ。

もう愛想を尽かしたんだろう。


「三俣もある意味すごいやつだよな。

俺ならアサヨとだけは付き合いと思わない。」


「先輩、それは多分どんな男もそうっすよ。

……マゾヒストはわかりませんけど。」


三俣のMはマゾヒストのMだったということか。


「お前らそんなこと言うけどな!

アサヨにだって可愛いところあるんだぞ!」


「へえ、どんな。」


「大喰とキタキタハクレイが付き合ってるって言ったらすごい顔してた。

ああ見えてお兄ちゃんっ子なんじゃないかな。」


「言っておくけどな、俺も昔アサヨとお前がまた付き合ってたって聞いた時はすごい顔してた自信があるぞ。

なんでかって兄妹の色恋沙汰なんて気色悪くてたまんねえからだよ。」


確かに。

私も兄に彼女が出来たと聞いた時はちょっと気持ち悪いなと思った。

その後、彼女がときめきメモリアルのキャラだと判明したが。


「ふうん、そんなもんすか。」


「松原ちゃんは兄弟姉妹いないの?」


「いないっす。子供ならいるんすけど。」


子供……?

聞き間違いかな……?

富士くんを見ると涼しげな顔で「一児の母だもんな!」と言い放った。

……触れないでおこう。

私は別の話題を振った。


「今日はフリータイムにする?」


「そうしようぜ。

あー、早く歌いて〜!」


三俣はバタバタ走ってカラ館に入って行った。

落ち着きのないやつ。


「ったくあいつは……。

涸沢、店員に迷惑かける前になんとかしろ。」


「はい。」


涸沢も三俣の後を追う。

この間は店員さんにlive DAMを置くように迫っていたからな……。


「あれ、でも涸沢もこの間女の店員さんナンパしてたよね。」


「……使えねえなあ!」


結局大喰くんもカラ館に走って行くこととなった。

やれやれだぜ。


「私たちも早く行こうか……。」


「なあ北。

俺はお前を彼女にしたかったけどあえなく失敗しただろ。」


「なにいきなり。」


「でもこれで良かったと思う。

俺は色々勘違いしてたみたいだ。」


なんだろう、この告白する前に振られてるかのような空気。


「それに、今こうして皆と遊べてるからな。

ちょっと前の俺じゃ考えられないことだ。

ありがとう、お前のお陰だよ。」


「ど、どういたしまして?」


富士くんが何を言いたいのかさっぱりだ。


「つまり、皆と友達になれて嬉しいってことっすよ!」


松原ちゃんがニッコリ笑う。


なんだ、そんなこと。


「私も嬉しいよ。」


私も松原ちゃんにつられてニッコリ笑った。







私は今、今世紀最大に緊張していた。


なぜって、大喰くんの家にお邪魔するからだ。

この緊張の中には彼ピッピの家にお邪魔しちゃうということはもちろん、あのアサヨがいるのではないかというものも含まれている。


震える手でインターホンを押し、出たのは大喰くんだった。


「はい。」


「北 白嶺です。」


「ああ。待ってろ。」


心臓の音がうるさい。

ああ、アサヨ、あなたは今日家にいるの?


玄関の扉が開いて、大喰くんが出てきた。

今日は前髪を下ろしたラフな格好だ。

かっこいい。


「上がれよ。」


「う、うん。

お邪魔します。」


玄関の靴を見る。

くっ、綺麗に片付いてる……!

これじゃアサヨの有無がわからないじゃないか!


「……どうした?」


「あ、これ、お菓子です。」


東京ラスクというお菓子を買った。

しかしここは東京ではないし、買ったのも東京ではない。


「ありがと。」


「……あの……。」


「ん?」


「あ、アサヨちゃんは……。」


大喰くんは少し眉間のシワを深くした。


「さあな。いねえよ。」


よ、良かった!

正直、アサヨテリトリー内で息ができるかわからなかったのだ。

私は意気揚々と大喰くんの家に上がる。


「綺麗な家だね!」


「そうか……?」


玄関には謎のお面や置物が気にならない言ったら嘘になるが、この家においてアサヨ以上に恐ろしいものはないので気にしないことにする。


「親もいねえから。

ゆっくりしてけよ。」


「うん!」


「俺の部屋来るか?」


「うん!」


「……警戒心無えなあ。」


「うん!」



アサヨにうっかり気を取られて、本当に怖いものを忘れていたようだ。

あんなエロ同人誌のようなことをするだなんて。


「なあ、そのまま寝たら風邪引くぞ。

服着ろよ。」


私は渡された服を無言で着る。

世の中のカップルはこういうときどうしているんだろう。

少なくとも私は恥ずかしくて死にそうだ。


「……あれ?靴下は?」


「その辺に転がってんじゃねえの。」


見ると本当にその辺に転がっていた。

自分の身を労わりながら拾いに行く。

世の中、自分の身は自分で守らないとね。


靴下を拾おうとしたら毛足の長いカーペットまで一緒に持ち上げてしまったらしく、

ズズズと椅子がズレる。

なんで暑いのにこんなカーペットひいているんだろうか。


椅子を戻し、カーペットを整えると、その下の床が見えた。


「ウワ、大喰くんどうしたのこれ。」


床は赤黒く汚れていた。

まるであの廃ビルのようだ。


「……親父がリフォームしようとか言い出して、床に塗料塗ったら何間違ったんだかそんな色になったんだよ。

塗り直すのも面倒だし、カーペットで誤魔化してんだ。」


「そうなんだ。

びっくりした。なんかこれ血の色みたいなんだもん。」


どんな失敗をしたらあんな色になるんだろうか。

素人がリフォームに簡単に手を出すべきでないな。


「白嶺。」


私が靴下を履いていると、大喰くんが後ろから抱きしめてきた。


「なに?」


「お前は俺の物だ。」


すごいセリフに思わず全身が赤くなる。

賢者タイムじゃないのかな?賢者のお言葉ということなのかな?


「う、うん。」


「……魂にかけて……。」


魂?

どういう意味、と大喰くんを見ると彼は笑って「早く服整えないとアサヨが帰って来るぞ」ととんでもないことを言い出した。


「え、な!?いつ!?」


「そろそろっていうか、今玄関に立ってる。」


大喰くんは窓から外を覗いていた。


「ヒエェ!

ま、待って……!」


そういう大事なことは早く言うべきだと思う!大喰くん!

私が怒ると、大喰くんはただただ幸せそうに笑うのだった。


次から大喰くん視点

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