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第四話 もう一人の勇者の帰還

 ――やっと……やっと帰れるんだ。


 私の体がオレンジ色の光の粒子へと変わり、渦を巻くように空へと昇っていく。

 つい先程まで雲に覆われていた灰色の空は、青い絵の具をぶちまけたようにその色を塗り替えていく。

 灰色が消えた空から太陽が顔を出し、その眩しさに私は苦々しく目を細める。


 私は空から目を背けると、目の前に広がる景色を見つめ、笑みを浮かべる。

 そこにはたくさんのモノの死骸が散らばり、オレンジ色の粒子の動きに合わせるように、ゆらゆらと蠢いて見えた。

 この光景を見るために、私は長い間、長い、長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い間、この世界に挑み続けてきたのだ。


 そう、それは挑みだった。

 仲間すらいない、一人きりの挑戦。

 永遠に続くかと思われた、一人きりの挑戦。

 容姿が、言葉が、心が、常識が、価値観が、違う。

 獣の姿をした獣人達の国と、魔物を統べる魔王が支配する魔国が争いあう世界。


 今思えば『彼』も被害者だったのだろうか?

 私をこの世界へと召喚した、あの憎むべき、あの唾棄すべき男。


 ――キミは、この世界の魔王を殺すんだ。


 学校帰りに突如現れた魔法陣。

 気付けば周りは汚れた床に汚れた壁、目の前には汚れた服を着た汚れたボサボサ髪の男。


『クリア条件が設定されました。魔王の討伐:難易度A』


 突然の状況が飲み込めず混乱する私を観察しながら、男はブツブツと呟きながら言葉を続けた。

 ただ、転移する瞬間に見た魔法陣や魔王という言葉。突然脳裏に浮かんだメッセージウィンドウを見て、私は憧れの異世界冒険という夢に淡い期待を抱いていた。


 ――良し、システムメッセージも見えてるみたいだね。じゃあいくよ。


 ――キミはこの世界の魔物を滅ぼすんだ。

『クリア条件が追加されました。魔物の殲滅:難易度S』


 一瞬でも異世界冒険というものに抱いた夢は、男の言葉によって一気に打ち砕かれた。

「魔物を……滅ぼす?」

 何かの聞き間違いかと、見間違いかと聞き直す私を見つめ、男は言い聞かせるように繰り返す。


 ――そう、魔物を滅ぼすんだ。一人残らず、一匹残らず、俺の邪魔をしたアイツらを。俺から全てを奪ったアイツらを根絶やしにするんだ。そして――


 歌うように、呪うように男は続ける。


 ――そしてキミは、獣人も皆殺しにするんだ。俺を認めず、俺を受け入れず、利用するだけ利用して俺を殺そうとした獣人どもを、一人残らず、一匹残らずだ。魔物も獣人も、全て、全て殺すんだ。そうしないと――


『クリア条件が追加されました。獣人の殲滅:難易度S』


 男はこれが言いたかったのだろう。これを言うために私を召喚したのだろう。

 気味の悪い、引きつった満面の笑みを浮かべて――


 ――そうしないと、キミは、もとの世界には戻れない。




 そして私は、目の前の男を、この世界での一人目を殺したのだ。




 長かった。

 とても長かった。

 それがやっと終わるんだ。


 目の前に広がる魔物と獣人の肉片を眺め、狂ったように笑う。

 辺りに広がるオレンジ色の光の粒を眺め、狂ったように笑う。


 狂ったように笑い続けた日々が終わる。

 狂ったように狂い続けた日々が終わる。


 ――いま帰るからね。お父さん、お母さん。




 長い長い旅を終え、私は、元の世界へと帰還した。





 ――帰還勇者が一定数に達しました。


 ――勇者救済プログラムを開始します。


 ――第一シークエンスを開始します。

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