最終話 勇者の帰還
完結してから投稿しようと思ってましたが、読んでほしい病を発症してしまいました……
良かったら感想とかください^^
――やったね。やっと、帰れるね。
俺の体が、優しいオレンジ色の光の粒子へと変わり、渦を巻くように空へと昇っていく。
とても美しい、雲ひとつない快晴の空へ。
つい先程まで暗黒の雲に覆われていたのがウソのように、青く澄み渡った空に輝く太陽が大地を暖める。
太陽のマナを浴びた大地からは飢えに飢えていた命たちが我先にと芽吹き、緑の絨毯が爆発するように広がると、その絨毯の上に思い思いの色を散りばめていく。
その光景は、人類が夢に見続けた世界。
人間をただ苦しめることを生き甲斐とする魔人たちに奪われ続けた世界。
この光景を取り戻すために、人類は長い間、魔人に挑み続けてきたのだ。
そう、それは挑みだった。
戦いにすらならない、一方的な挑戦。
魔法が、剣が通じない。
言葉が、心が通じない。
それでもなお人類は諦めず、可能性を求めて挑戦し続けた。
そして人類は絶望の果てに、希望を宿した武具を作り出した。
そして人類は絶望の果てに、希望を宿した防具を作り出した。
だが人類は、再び魔人に挑むには絶望しすぎていた。
魔人に勝つために、魔人を打ち倒すために、魔人に一矢報いるために。
団結し、団結し、団結し、ただひたすらに一丸となり希望の光を求め続けた結果、ソレらを身に纏い、個として魔人に立ち向かえる者は一人としていなくなっていた。
そして人類は絶望の果てに、希望を宿した人間を、勇者をこの絶望の世界へと呼び出したのだ。
そして勇者は戦いの果てに、魔人の王である魔王を倒し、この絶望の世界を救ってみせたのだ。
この世界の、最高にして最後の魔法使いの少女と共に。
その少女は雪のように白く美しく
その少女は炎のように熱く激しく
その少女は最高にして最後にして、最愛の――
「ダメだ! まだ消えるな! いま回復魔法を」
――大丈夫。こんなのすぐ治るよ。 私ってこう見えてタフなんだから。
そう呟く目の前の少女は、崩れた魔王城のガレキに背を預けるように座り、いつものようにその美しい、花の咲くようなとびきりの笑顔を俺にむける。
魔王の最後の攻撃により胸に大きな穴が開いてるとはまるで思えない、純白だった衣が真っ赤に染まっているのも、もともとそういう色だったのではないかと思えてくる、そんな笑顔で。
少女は頬に当たるオレンジ色の光の粒子にくすぐったそうに目を細めると、空へと昇っていく光の柱を愛おしそうに見つめる。
オレンジ色の光に照らされるその姿は、まるで出会ったあの日の再現のようで。
恋など知らずに生きてきた俺がひと目で恋に落ちた、あのときの再現のようで。
「無理やりにでも連れてくって行っただろ! 俺の世界を見せてやるって。家族になろうって! これからなんだ! これからお前に希望を見せてやるんだ!」
少女へと手を伸ばすが、俺の手はもう見えないほどの薄くなってしまって。
次第に消えていく俺の体と、次第に消えていく少女の命。
――希望なら十分見せてもらったよ。こんな素敵な景色、生まれて初めてだよ。
少女は笑って、青い空と、緑の大地と、オレンジ色に染まる俺を見つめる。
――それに希望なら、ずっとずっと、特等席で見させてもらってましたとも。
俺は泣いて、崩れた壁と、赤い大地と、真っ赤に染まる少女を見つめる。
――ほら、胸を張って! 勇者がマヌケな顔して泣くんじゃない!
「んだよマヌケな顔って。超絶イケメンだろうが」
そして二人で声をあげて笑う。
お互い涙を流しながら、それでもお互いを見つめ、最後の一瞬まで目を離さないように。
異世界から召喚されし異邦人。
魔王を倒して世界を救った勇者。
最愛の人を守れなかった役立たず。
――さようなら、私の勇者様。
長い長い旅を終え、俺は、元の世界へと帰還した。