事情
ソフィーの家に着く頃には、マウレもいつもの調子に戻っていた。
「ソフィー…ウチお腹減って死にそうや。早よなんかたべさせてーや。」
「あ…畏まりました。ただいま準備しますね。」
出て来たのは豆と肉の塩漬けの入ったスープに、麦の粥と野菜のピクルスという質素なものだったが非常に味は良かった。
これだけの材料でどうしてここまで美味しくなるのか不思議に思うほどだ。
「うまーい!相変わらずソフィーの料理はうまいな。」
「あ…ありがとうございます。」
少し照れ臭そうにソフィーは賞賛を受け取る。
「でも、本当に同じ材料なのにマウレが作るものとは雲泥の差だ。何かコツでもあるの?」
「おい…なんでそこで、ウチを引き合いに出すんや?今はつくっとるのフェルやんか。比べるんやったら自分のと比べや」
「いや、マウレのが1番美味しくないから…」
「ぐっ…!まぁ、ええわ。ところでなんかコツがあるん?」
その後はソフィーの料理の話を聞いたり、村の話を聞いたりして村を後にした。ソフィーは俺たちの姿が見えなくなるまで、見送ってくれた…本当にいい子だ。
夜になり、マウレに吸血種について聞く。我(俺)の知識では、吸血種は我の眷属の1種であり、上級眷属として真相と呼ばれるトゥルーブラッドヴァンパイアがおり、下級眷属として通常のヴァンパイアがいる。
真祖は全部で10人おり、姿は人と変わらないが上級眷属3種の中でも随一の戦闘力を持ち、弱い神なら単体で殺せる実力を持つ。
下級眷属のヴァンパイアについても高い戦闘能力を持つところは変わらず、人狼種ならば、5人はいないと太刀打ちできないほどだ。
ただ、自由気ままで破壊衝動が強く扱いが難しい。つまり大量破壊兵器のような印象だ。
人狼種は、ヴァルナガンドと呼ばれる6人の上級眷属と下級眷属の人狼がおり、我に対して忠実で命令通りに動く使い勝手が非常に良い眷属だ。
ヴァナルガンドは獣化すると完全に獣の形になる。人狼種は、ヴァンパイアに比べれば個々の戦闘能力で劣るものの集団戦を得意とし、先の戦争で最も戦果を挙げた眷属である。
最後に混沌種がおり、上級眷属はマンティコアやキメラのような色々な動物をいいとこ取りした姿をしておりカオスロードと呼ばれている。下級種も様々な姿をしており、それぞれ空や水中など得意なフィールドに特化している。
真正面からぶつかれば人狼種や吸血種に太刀打ち出来ないが、得意のフィールドに引き込むことができれば
互角以上に戦うことができる。特殊部隊とでも言えばいいだろうか?ここまでは、マウレの話と我の知識はほとんど一緒である。
「…上級眷属は神さんが封印された後に、ほとんどが滅ぼされて少ししかおらへんしどこにおるかも分からん状況や。だから、人と対抗するには最強種吸血鬼と協力するのが1番なんや。」
「でも、マウレは乗り気じゃない…何か問題があるんだろ?」
「ああ…そもそも、吸血種はそれぞれが自分勝手に動きよるから、協力を得るにはそれぞれと交渉せなあかん。それに奴らは人狼や獣人を非常食程度にしか思ってへん。要するに協力は出来へんってのがウチの意見や。」
「それは確かに、でも、妹さんは違うわけだ。」
自分達を食糧として見ている相手と協力したいとは誰も思はないだろう。
「そや、でもウチよりもベルテの方が頭がいいんや。本来やったらあの子の方が大長にふさわしいねん。ウチは、少し腕っ節が強いだけやし、難しい事はよう考えへん…やから…任せるしかないやろ。適材適所や。」
そう言うとマウレは力なく笑った。いつも自信満々で元気な印象しかなかったアウラの弱い部分を見せられて…俺は思わずマウレを抱き寄せ…
「うわ!何すんねん。いきなり大胆すぎるやろ。もうちょっとロマンチックにせーや!」
殴られた。
「いてて…俺が思うにマウレが大長で良かったんだよ。」
「なんでや?」
「何と無くだ。」
「説得力皆無やな!」
「まぁ、そう言うなよ。俺の直感を信じろ。」
「自分…2週間前に行き倒れとったんやで?そんな直感信じられるか!」
「それはそれ…これはこれ」
「もう、ええわ…」
こうして、漫才のような会話をしながら、今日も夜が更けていった。