急転直下
討伐隊から逃げるが、やはりこちらの存在を認識しているらしく追われている。少しずつであるがじわじわと追い詰められている。
はぁはぁ…くそ!息が続かない。でも、止まるわけにはいかない。全力で逃げているのに引き離せない。
…意識が朦朧としてきた。くっ…
「フェル様…もう少しで川です。川に入れば獣人といえども追えません。」
「うん…分かっ」
そう返答した瞬間に足元が沈み込んだ。一瞬の浮遊感と共に下へ落下していく。
「フェル様!」
ソフィが駆け寄ってくるが間に合わない。…短い人生だった…
…目を開けると…地下空洞になっているらしい、かなり広い空間のようだ。落ちた衝撃で一瞬だが意識を失っていたようだが、幸いなことに柔らかな紐のようなモノに絡みとられたことで無事なようだ。
自分が落ちた穴を見る。見たこともないような巨大な地下洞窟の天井に空いた穴は控え目に言っても、20m以上の高さがある。
危なかった…この紐のようなモノがなければ大怪我では済まなかっただろう。いや…紐があるとはいえ、あの高さから落ちて無事なのは奇跡的だろう。
改めて自分に絡んでいる紐を見る。色は白く弾性があり、かなりの高さから落ちたのに切れていない所を見るとかなりの強度があるのだろう。弾性もすごい。
まぁ、それはさておいて…どうしよう…ソフィとの合流を考えれば、あまり動かない方がいいだろう。正直な話、僕が動き回って出口を探せる可能性より、ソフィに見つけてもらえる可能性の方がずっと大きいように思う。
ただ、現状を把握する必要がある。とりあえず、地上へ出る方法でもないかと辺りを見渡す。地下洞窟はかなり広くなっており、先ほどの紐が、縦横無尽に張り巡っている。
自然に削り出されたのであろう石の柱と相まって、巨大な神殿のようにも見えるし、紐が張り巡らされたその光景はあるものを思わせる。
その考えが頭を過ぎった瞬間に、悪寒が…嫌な予感がする。一気に心拍数が上がるのを感じた。
「女性の寝床に土足で入るなんて…どういうつもりかしら?」
場違いな女の声…ただ、その抑揚のない声には聞き覚えがあった。俺は振り返りもせずに勢いよく走り出す。
なんで?こんなところにいるんだよ。
音もなく追ってくる女…と言うには大きすぎる気配あっという間に追いつかれ、それと同時に地面に吹き飛ばされた。
「ふふふ…追いかけっこ?ところで貴方は誰?」
俺はその問いを無視し、態勢を立て直すと声とは反対側へ逃げ出した。無理無理無理…
カッ!カッ!カッ!
何かを考えるように、しばらく止まっていたソレは、まるでスキーポールで硬い地面を突いたような音が鳴らしながら、すごいスピードでこちらへ向かってくる。
これでは、すぐに追いつかれる…そう思った瞬間!頭上を何かが飛び越えた。そして、俺の前に立ち塞がる女…見ないようにしていた全身が視界に入る。
震えが止まらない。最悪だ…よりにもよってこのタイミングで会ってしまうとは、そこにいたのは、前世で俺の命を絶った蜘蛛の下半身を持つ少女だ。
銀色の髪に赤い目、シミひとつない白い肌は上半身だけ見れば絶世の美女と言っていい。ただ、その下半身は巨大な蜘蛛だ。
「無視されるのは嫌いなの。あなたは誰?」
「う…あぁ…。」
何か言おうとするが声にならない。こちらに来てからあまり気にしてなかったが、殺されたことは考えている以上のトラウマになっていたらしい。
「お話しもできないの?それなら…もう、いいわ死んで」
次の瞬間、蜘蛛女の前足が俺の胴体を貫く、やばい…死ぬ…くそ…アウラ…ごめん