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前夜

吸血鬼との戦いから3日後に、マウレのもとから避難することにした。


旅立ちの前日、部屋で旅の準備をしていると、マウレが俺の部屋に来た。夕食後はそれぞれの部屋で過ごすことが多いが、戦い前に一緒に過ごせる最後の夜なので別れを惜しみにきたのだろう。


部屋はベットがあるだけなので、二人で話すとなるとベットに隣あって座る形になる。


「なぁ、マウレ…話ならリビングで話した方がいいんじゃないか?」


何にもないとわかっていても、ドキドキしてしまう。


「いや…ここでええねん。いよいよ明日やけど準備はいいんか?」


「ああ…もう大丈夫だ。あとは寝るだけだね。」


「そうか…寂しなるな。フェルがおらんと、仕事も溜まってまうからな。戦が終わったら、早よ帰ってくるんやで。」


「ああ…勝ったて聞いたらすぐに戻ってくるよ。こんなこと言うと別れの挨拶みたいで嫌だけど…本当にありがとう…マウレのおかげで記憶がなくても不自由なく暮らせた。戦が終わったら、もっと役に立てるように頑張るよ。」


ここに来ても自分が神さまだって言えずにいることに罪悪感を覚える。神であると言えば、変な希望を持たせてしまう。力を取り戻せば一緒に戦い、守ってやれるのに…今の現状ではないのと一緒だ。


マウレを信用していない訳じゃない。ただ、もし漏れた場合は今回の討伐以上の危険が村を襲う可能性がある。獣の神が復活した。そんなこと神々の眷属が無視するはずがない。


「期待しとるで、まぁ、その前にウチが討伐軍を倒さなあかんな。見とけや千人くらい楽勝や。」


かなり厳しい戦いではあるが、不安と同じくらい自信があることはマウレの目を見れば分かる。一緒に過ごしたのは数ヶ月だが、不思議と何年も一緒に過ごしたように、マウレの心の機微が感じ取れるようになっている。


「…マウレ、死ぬなよ。」


「縁起でもないこというなや…ああ!もうフェル!目を瞑り。」


ん?殴られるのか?そう思ったが何故か素直に目をつぶってしまう。


次の瞬間に柔らかな感触が、唇に触れる。


え?驚いて目を開けると、マウレの顔が目の前にある。そして、そのまま押し倒される。


え?いや、嬉しいけれども…嬉しいけど男女逆じゃね?


触れるような優しいキスは、俺が応えるように唇を動かすと貪るようなキスへと変わり、マウレの身体が熱く火照っていくのを感じる。


両手を伸ばしマウレの身体を抱きしめる。もうダメだ…留めていた感情が抑えられない。口が離れると互いに言葉が漏れる。


「マウレ…好きだ。好きだ」


「ウチもや…フェル好きや…」


言い終わると再び口が塞がれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


朝起きると、マウレの姿はなかった。夢だったのか?


いや、布団に残ったマウレの匂いとマウレの書いた置き手紙がそれを否定する。出来れば、このままマウレの匂いに包まれて寝ていたいが…


そうもいかないので、置き手紙を手に取る。手紙は神世語で書いてあった。神の記憶を頼りに読む。


そこには、今日から前線に向かうため見送れないこと、今までの感謝の言葉、村に残ろうなどと馬鹿なことは考えず、すぐ終わらせるから人の街に観光のつもりで行ってこい。と書かれていた。


正直、この手紙がなければ村に残ってしまったかもしれない。いや、確実に残っていた…しかし、ここまで言われて残ればマウレを信用しないことになる。


それに、出来ることがないのは事実なのだ。いてもゲリラ戦では足手まといの穀潰しだ。それなら、手紙に従って避難するのが正解だろう。


頭では分かっていても、悔しさがこみ上げてくる。神の力が使えなくとも、せめてマウレの隣で戦える力があれば…そんなことを考えていると出発の時間が迫っていることに気が付いた。

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