ハッタリ
おいおい…ベルテさん。俺にいきなり話しを振るなよ。俺は前世で…初対面の女の子とまともに話せたことなど一度もない男だぞ。クソォ…童貞舐めんな。
と心の中で悪態をついたが、俺がなんか言わないと話しが進まないようだ。ここは一つハッタリでこの場を乗り切るとするか。
「…おい、ウェルベックっとか言ったな?」
…ビック!と身体を震わす吸血鬼ウェルベック。あらやだ可愛い。
「何よ…。」
「ここで退くならば、こちらは追わない。ただ、村人に危害を加えるなら容赦はしない。」
「な…なんでや…許すやなんて…。」
マウレが何か言っているが、勘違いして貰っては困る。俺には戦闘能力はないのだ。攻撃を反射したようだが、全ての攻撃が反射されるとは限らない。実際、マウレには何度か殴られてるし、さっき吸血鬼には突き飛ばされたし、もしかしたら攻撃できる手段があるのかもしれない。
「…舐められたものね。見逃すって言うの?」
「そうだ。君を殺してもメリットがない。」
「また、獣人を殺すかもしれないわ。」
「そうなったら…君を確実に殺す。だが、君はやれないさ安全でないと分かっているのに手を出すほど君は馬鹿じゃない。」
「な!?…どこまで知っているの?」
「…何も知らないさ。ただの勘だよ。」
自慢じゃないが勘なんて今まで当たった試しがない。常識的なことを尤もらしく言おうと適当に言ってたら、相手が核心をつかれたみたいな反応をしたので、適当に合わせて言っているだけだ。本当に何も知らん。
「…分かったわ。ここは引かせてもらう。」
「逃げるんか?」
おいおい…やめろマウレ…挑発するな。せっかく退いてくれるんだ。素直に、さよならしようぜ
「そうね。逃げさしてもらうわ。上級眷属の相手なんてしてられない。これでも、自分の命は大切なのよ。」
「他人の命は何とも思わへんのに…大した心構えやな。」
「否定はしないわ。私は自分が生き残ることしか興味ないから…それに、吸血鬼はそう生きるように作られてるの。」
「ふん…大層な理由やな。もう顔も見とうないわ…とっといねや。」
「そうね…そうさせてもらうわ。上級眷属がいればあの専門部隊もどうにかなるかもしれないしね。」
あの専門部隊?どう言うことだ?何か知っているのか…問いただそうとすると、すでに吸血鬼は霞となって消えていた。こういうところは、前の世界の作り話と同じなんだな。
などとしょうもない事を考えていると…ベルテが話し掛けてくる。
「ふー…助かりました。フェル様…」
「ん?ああ…勘違いしてくれて助かりましたね。」
「そうなんよ。お姉はんがゴネ出した時は生きた心地がせんでしたわ。」
そんなやりとりをしているとマウレが近づいてきた。
「何で逃したんや?フェル」
コイツまだ分かってないのか。ああ、もう説明がめんどくせぇ。
「帰ったら説明するよ…それよりマウレ…なんか言うことないの?」
「何がや?」
「君は僕に仕事を押し付けて、遊んでたらしいじゃないか…どういうことかな?」
「いや…それわやな…まぁええやんか。はは…」
いいわけあるか。お前にはいつか性的な仕返しをしてやる。まぁ、今日は疲れた。
「まぁ、いいや。今日は疲れた。帰って飯食べよう。」
「そや…それがいい!嫌なこと全部忘れようや。今日は何にするん?」
いや、お前が仕事を押し付けて遊んでいたことは絶対に忘れんが…
「キノコと猪肉が残ってるから、それを使って…」
「ウチはステーキがいい!」
「分かった。じゃあそうしよう。」
「フェル様はお姉はんに甘いんどすなぁ。」
「ん?そうか?別に遊んでた件は許した訳じゃないぞ。それより、ベルテもどうだ飯食うか?」
「いいんどすか…?」
「いいよ。2人前も3人前も変わんないし、みんなで食べた方が美味しいだろ?」
「…変な眷属ですなぁ…フェル様は」
そうか?一般的な考えだと思うが、まぁ、ベルテが言うならこちらではそうなのかもな。そんな、たわいない話しをしながら家に向かう。一時はどうなるかと思ったが何とか無事に終えることができた。