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悪意

「どないゆうことか…説明してもらいまひょか。」


獣人の死体を見てか、表情に抑えられない怒りを湛え、ベルテがそう口にする。魔力が陽炎のように空気を歪ませ、ウェルベックの黒い魔力の霧を侵食していく。


「そうね…貴方達じゃ。討伐隊が来たら生き残れないでしょ。だから、ここで私の糧になってもらうの。安心していいわ…貴方達を皆殺しにした後で討伐隊も全員食べてあげるから…ふふふ」


獣人の死など、ベルテの怒りなど少しも気にした様子もなく、そう口にした。


「…だから言うたやないか。吸血鬼なんて信用出来へんって。」


「…すいまへんなぁ。こんなんになるなんて…ほんま堪忍…。」


「別に責めとる訳やない。獣人達のためにも、このボケをここでバラして討伐が来る前に態勢を整え直せばいいことや!」


そう言うとマウレは赤い魔力を纏い顕化する。狐のような毛並みを持った赤い人狼になった。


それに続くように、ベルテも顕化する。こちらは黒く美しい狼そのものといった人狼となる。


獣人が殺された事を二人とも怒っているようだ。


「まぁ…その通りどすな。」


「ふふふ…人狼種二人で私の相手が務まると思うの?」

そう言って解き放った魔力は、アウラやベルテの何倍も大きいことが分かる。この距離でも空気が動くのが分かる。げっ…これ勝てるのか?逃げた方が…


「…どうしますのん?あの吸血鬼…実力はほんまもんどすえ」


「とにかくぶん殴る!」


ベルテが一瞬、コイツマジか…って顔をした。やっぱりアウラだ。馬鹿だ。繁みに隠れながらそんなことを思う。アウラは一瞬で間合いを詰めて、殴りかかる。


ボッ!クン!尋常じゃない音がした。…吸血鬼の頭が吹き飛ぶ。おいおいどんな威力だよ。でも…勝ったのか?


しかし、次の瞬間、頭のない吸血鬼の体が何事もなかったようにマウレの腹を殴打した。


「うぐっ!」

攻撃を受けマウレはそのまま後ろへ跳ぶように距離を取る。マウレの体勢が整う頃には吸血鬼の頭はも映像を巻き戻したように寸分違わず元どおりになっていた。ゲェ、気持ち悪い。


「ふふふ…嬉しい誤算ね。こんなに強いなんて…本当に楽しめそう!」

そう言って、吸血鬼が軽く腕を振るった。それだけで…マウレの身体が吹き飛び、身体を切り裂いていく。


「ぐっ!」


「…ふふ、どんどん行くわよ。」


「油断しすぎどす。」

そう言ってベルテが爪で吸血鬼を切り裂く、これも凄まじい威力だが、吸血鬼の一部を剥ぎ取るだけに終わる。次の瞬間には元に戻っていた。うぁ…化け物だ。


「チッ!相変わらず桁違いの回復力やわ…嫌になるわ」


「ちょっと煩わしいわね。」

そう言って吸血鬼は両腕に魔力を圧縮させる。それは黒い霧と共に辺りを吹き荒れた。黒い爆炎とも言える魔力に、マウレとベルテが吹き飛ばされる。


これは…マズイんじゃないか?レベルが違いすぎる。マウレの攻撃は通用しているように見えるが、回復するのではジリ貧だ。


「マウレ…ベルテ…」


思わず呻くように声を出した。その時だ。吸血鬼と目が合った。嘘だろ…あんな小声にこの距離で気づくのかよ。


「あら…あれら以外にも眷属がいたのね。」

次の瞬間、耳元で声が聞こえた。そして冷たい手が俺の首に回る。おいおい、一瞬で移動してきたのか?瞬間移動か?何でもありか?そう思いながらも、俺は両手でその手を引き剥がそうとする…ぐぐぬぬぬ!ビクともしねぇ。


「うーん…人狼にしてはひ弱ね。何の眷属なの…吸血鬼?それにしては魔力が弱すぎるし、まぁ、いいか!どうせ食べてしまうんだし…」

にこやかな顔でそんなことを言う吸血鬼…ひー嫌だ。


「フェルを離せボケ!」

走って間合を詰めてきたマウレが、吸血鬼を殴ろうとする。しかし、俺を盾にされたことででマウレの動きが一瞬止まる。馬鹿…俺に構ってる場合か!


次の瞬間には、吸血鬼の放った黒い爆炎がマウレを吹き飛ばしていた。


「ふふふ…邪魔しないで、それじゃ!いただきます。」


「やめい!」

地面に叩きつけられたマウレが制止の声をあげるが、魔力でつくり出されたであろう黒い杭が立ち上がろうとするマウレの足を貫いた。


「ぐっ…」

いくら人狼種でもあれでは回復に時間がかかるだろう。情け無い…何もできないどころか足手まといそのものだ。


ベルテはマウレを守るように吸血鬼の間に立った。どうやら、こちらを助けるつもりはなさそうだ。


そりゃ…そうだ戦力になる実の姉と何の戦力にもならない他人どちらを助けるか、考えるまでもないだろう。短い転生人生だった…でも、死ねば足手まといにはならずに済む。そう思い目を瞑る。

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