ある男の末路
…全くつまらない人生だ。高校に上がるまでは勉強もスポーツもそこそこ出来て、周りからはそこそこ優秀な奴で通っていたと思う。
進学した高校では、才能の塊のような奴ばかり、すぐに挫折して諦めた。一応は中堅大学に進学したが2年の時に嫌になり退学してしまった。
「はぁ…なんかおもしれぇことないかな」自室のベットの上で呻く、時間の無駄だと知っていても頭を過るのは、楽に金を稼ぐ方法ないかな?いい女を抱けないかな?とかである。全く自分で自分が嫌になる。
そんなことを考えていると、仕事に行く時間になっていることに気が付いて急いで支度をする。大学中退後に俺は職を転々とした。鳶職に型枠大工…そして、今やっている引越屋である。
肉体労働ばかりなのは、ただ単純に身体を動かしていれば、嫌なことを考えずに済むからだった。
肉体労働はしんどいが達成感があった。仕事を転々とした理由は…俺の悪癖にある。大学を辞めてから、俺にはどうも逃げ癖がついているらしい。嫌なことや無駄だと思うことがあるとすぐに諦めて…辞めてしまう。
自分でも自覚していることで、焦りもあるのだが…どうにも一度ついてしまった癖は中々拭えないらしい。
午前中に1件目の引越しを終えて、最近組むことが多くなった年配の同僚とファミレスで食事をしていると、年配の同僚がある話を持ちかけてきた。
「実はよ…いいバイトがあるんだよ。」
こういう儲け話には裏がある。
鳶職をやっている時にも先輩からいい儲け話があると誘われたが、内容はオレオレ詐欺の出し子だったり、ドラック絡みだったりとロクな話ではなかった。ちなみにその時の先輩は刑務所にいる。またか…と思いながら話を聞く。
「その目は信じてねぇな…まぁ、俺も半信半疑だったんだけどよ。ある場所を清掃して1日で10万貰えるんだぜ。5万ずつでどうだ?」
ある場所?確かに1日で10万円だったら破格の報酬だろう。自殺現場の清掃をする特殊清掃でもそんなにはもらえない。ただ、不衛生なことはやりたくないな。
「汚いのは嫌いなんですよね。」
「いやいや、俺も金額が金額だから最初は覚悟して行ったんだよ。だけど全く汚くねぇんだよ。神社みたいなとこでさ。むしろ清潔だし、広いけど何もないから清掃も二人でやれば4時間くらいで終わるしな。」
宗教施設か?それよりもそんな割のいい仕事なら自分だけでやればいいのではないか?疑問に思い口に出す。
「なんで、そんな割のいい仕事を教えてくれるんですか?」
「いや〜いい仕事なんだけどよ。だだっ広い薄暗い部屋で何時間も一人で作業するのが苦痛でさ。お前なら口も固いし、気心も知れてるからよ。」
気心が知れているというところはおおいに疑問だが、確かに辻褄は合っている…かな?警戒しつつも俺は破格の報酬につられてこの仕事を受けることにした。
逃げ足には自信があったし、ヤバければ逃げればいいそんな風に考えていた。
仕事の当日、迎えに来た同僚の男と現場に向かう。現場は住んでいるところから30分ほどの雑木林の中にあった。確かに巨大な神社のようである。
社務所のようなところで鍵をもらい、神社のような建物の中に入っていく。神社の中は地下に繋がっており、俺たちが清掃するのは地下の大部屋だった。
地下の大部屋は学校の体育館くらいの広さがある。だだっ広いだけの何も置いてない広い部屋…地下だからだろうか?夏だというのに鳥肌が立つほど寒い。
壁に飾られている円形の黒い鏡が気になるが、それ以外はただの広い部屋である。年配の同僚が清掃の準備を始めたのでその準備を手伝う。
床の清掃に、壁の清掃と清掃は思いのほか順調に終わった。社務所の人間に確認してもらうため地下から上がろうとした。その時、俺達は異変に気が付いた。
あったはずのドアがないのだ。
「ふぇ…なんで?」
年配の同僚が素っ頓狂な声を出す。ドアが開かないとかならまだ落ち着いていられたろう。でも、ドア自体がなくなったのである。一気にパニックになり、必死にドアを探す。
だが、何時間探してもドアは見つからなかった。諦めかけたその時…
「ねぇ…貴方たち…誰?」
少女の声が聞こえた。振り返ると髪も肌も真っ白な中学生くらいの外人?の美しい少女が不自然に高い位置に浮かぶように立っていた。
「おー嬢ちゃん!関係者の人?どこか入り口はないのか?出れなくなって困ってるんだ。知ってるなら…」
年配の同僚が、人がいたことに安心したのか、早口でまくし立てながら少女に近づく。その時、あることに気が付いた俺は大声で叫ぶ!
「ひっ…近かずくな…見えないんですか?」
「ん…?何をビビってんだ。ーひっ…」
少女をもう一度見た年配の同僚が、あまりのことに悲鳴を上げそうになる…ただ、それはできなかった。俺の目前で、同僚の頭部が吹き飛んだからだ。
なんて不幸な奴だ…いや、幸運なのかもしれない。あんな気味が悪いモノを見続けなくて良いのだからーーー少女の腰から下には巨大な蜘蛛の様な物がついており、ワサワサと蠢いていた。
「こちらが聞いていることに答えなさい。うるさいのは嫌い…あら?死んじゃったわ…」
どこか眠た気な声で少女は囁く様に…そんな風に言うと、同僚の頭部を吹き飛ばした蜘蛛の前脚を他の脚と擦り合わせながら、こちらに視線を向ける。
「貴方は誰…」
「…ひ…」
恐怖で声が出ない…腰が抜けて動けない…ヤバくなったら逃げる?そんな風に考えていた自分を殴ってやりたい。
そんなことを考えていると視界が真っ暗になったーーー少女の声が聞こえる。
「全く、質問に答えなさいよ…あら…また死んじゃったわ。」
そうかーーー死ぬのか…俺
ーーー気が付くと真っ暗な暗闇の中にいた。全身を鎖で繋がれているようだ。身動きが取れない。そして、頭の中に響く声…それと同時に感情と記憶が流れ込んでくる。あまりの情報量の多さに処理しきれなくなった俺は再び意識を手放した。