カニバリズム
「……あら、聞こえなかったかな? 俺の名前はクール・ハンニバル、俺はいまとても腹が減ってるんだ。この辺に旨そうな人がいないか教えてくれるか?」
魔方陣から出現した男は、俺の沈黙を聞こえてないと判断したのかもう一度同じ言葉を話してきた。
「う、旨そうな人……ですか」
「おう、少しコリコリしてそうなのがいいな」
何を言ってるんだこいつ、旨そうな人? 人なんか食べたことないからどれが旨い奴なのか知るわけがない、というよりまず食いたくない。
「し、知りませんね……」
取り合えずというより全く知らないので本当の事を言った。
「そうかぁ……なら仕方ない、不味そうだけどお前を食べるとするか」
……ん?
「いや待て、不味そうな奴は食べたら駄目だろ。体に悪影響が出るかも知れないぞ、というよりまず人を食べるのがダメだろ法律的に」
「そうだな、けど俺はお腹が空いているんだ。俺は空腹の状態が一番嫌いでな、そして目の前には歩く生肉がいる……食べるしかないだろ?」
「食べるしかないだろ? じゃないだろ。しかも目の前に歩く生肉がいるって……俺は佐藤だ、生肉ではない」
「まぁまぁ、俺の腹の中に入れば皆全て栄養素になるんだし名前なんか気にすんなよ。あぁ、腹が本当に減ってきた、早く食われろ」
こいつ……まだグールの方が節操があるぞ。
食べられたくない俺はこの現状を何とかしようと脳みそをフル回転させていると、林の方からグチャグチャとかなり気持ち悪くなりそうな音が聞こえてきた。
俺とクールがそっちを見ると、肉で出来たゴーレムーフレッシュゴーレムがこちらに迫ってきていた。
「フレッシュゴーレムか……」
ここでフレッシュゴーレムが来てくれたのは運が良かった。こいつとクールを戦わせて、クールが生き残ればクールは人肉が確保できるし、クールの実力も分かって一石二鳥。フレッシュゴーレムが生き残れば、あいつはとろいから俺でも走って逃げられるという訳だ。
「おいクール! 俺より旨そうな奴があちらから来てくれだぞ」
「いや確かに旨そうだけどよ、あれは人肉か?」
「こいつらは材料によって見た目が変わる、あれは人型だから人肉が材料だ、良かったな」
「まぁそれは良かったが、素手で倒せるのかあれ?」
「モンクが倒した報告を聞いたことがある、一応倒せるだろ」
「そうか、なら倒させてもらうぜ」
そう言うと、クールはフレッシュゴーレム目掛けてその太い腕で殴りかかった。クールに殴られたフレッシュゴーレムはあまりの衝撃に体がぐらつき、バランスを崩した。
通常のゴーレムには痛覚は無く、痛みで怯むことはない。そのため下手に攻撃を仕掛けると思わぬカウンターを食らうことになる。なので、普通のゴーレムはパワー型のモンクや金槌等の打撃で砕くのがセオリーだが、フレッシュゴーレムは体が肉で出来ているため打撃が効きにくく、熟練のパワー型モンクでも怯ませるのは難しいと言われている。
「それを怯ませるどころかバランスを崩させるとは……見た目以上の怪力だ」
「おい、急所は頭か?」
「あ、あぁ、人型のゴーレムは大体頭が弱点だからな。そいつもそうだろう」
「ならこれで、止めだ!」
クールはフレッシュゴーレムの頭に足を乗せて狙いを定める、そしてすぐさま足を上げて降り下ろし、フレッシュゴーレムの頭を踏み潰した。
「さてと、肉を叩くのはこれぐらいでいいだろう。火があればいいんだが……無い物ねだりか、仕方ないしこのまんま食うか」
クールは早速自分が倒したフレッシュゴーレムを生のまま食べた、腹を壊すこと間違いなしだな。
食べている最中、クールはとてつもないほどに幸せそうな顔をしていた。そんなに美味しかったのだろうか? 食べる気はさらさらないけど。
クールはフレッシュゴーレムを半分ほど食べつくし手を止めた。
「ご馳走さまでした」
「なぁ、食事が終わって早々で申し訳ないが、話を聞いてくれるか?」
「おう、腹もいい具合に満たされたし聞くとするよ」
それから俺はクールに、ここは異世界であること、この異世界に呼んだのは俺で、勇者を倒すために呼んだ事を教えた。
「成る程ね……勇者か……」
クールは難しげな顔をした。まぁ当然の反応だろう。
「正直な所、俺に加担して生まれるメリットは何一つとない、それでもどうか俺の仲間になってほしい」
何とも酷い、今までも仕事の都合上様々な交渉をしてきたが、今回の交渉は過去最低クラスの内容だ。
「あ、仲間になるのはいいんだ、勇者とか筋肉があって食べたらコリコリした感触で美味しそうだしさ」
「え、勇者を食べるのか……まぁいい、けどそれなら何に悩んでるんだ?」
この際仲間になってくれれば良いのだが、何で悩んでいるか気になったので聞くことにした。
「いやなに、勇者って俺達だけで倒せるような奴なのかなって考えてたんだ」
「……無理だな」
そうだった、クールが予想以上に強くて浮かれていた。クールは確かに強い、だが勇者に勝てるかと言われたら余裕で首を横に振る事が出来る位でしかなかった。さっきの戦いから見てクールは人食家で馬鹿力なだけで、戦闘経験もあまりなく魔法とかも使えなさそうだった。
「こういうのも何だけど、大人しく専属になってしまった方がいいんじゃないか?」
「それだけは嫌だ」
あの勇者はナルシストでとても有名だ。専属の鍛冶職人になったあかつきには、きっと自分の銅像やら自分の顔が彫られた剣とか作らされるに決まってる、そんなの作りたくない。
「なら仲間を集めようじゃないか、聞いた話じゃ色んな国があんだろ。それ全部回って最後に勇者を食べる、これでいいだろう?」
こいつ、意外にちゃんと考える奴なんだな。てっきり食べることしか頭にないのかと思ってた……いや、食べることしか頭にないから、確実に勇者を食べる方法を考えたのだろうか。もしくは俺がこいつより間抜けなだけかもしれないけど。
「しかし提案はしたけどよ、勇者を倒したい奴なんているか? 仮にも魔王を倒して世界を救った奴だぞ。」
「確かに勇者は世界を救ったけど、その結果に至るまでに色々トラブルを起こしているはずだ。きっと何処かしらに勇者を倒したい奴だっているはずだ」
「それもそうか」
勇者と言えば、勝手に家に入り棚の中や壺にある金や道具を奪っていくことが出来る権限がある、それを快く思ってない人だっている、そんな奴等を仲間にいれればきっと勇者に勝てるぐらいにはなれるはずだ。
「よし、なら当分の目的は国を回って仲間を集める、ということで言いか?」
「そうだな、後はあのフレッシュゴーレムの残りなんだが、何かに詰めて持ち運び出来るようにしたいんだが……無理か」
クールが残ったフレッシュゴーレムを持ったいなさそうに見てる、仕方ない。
「これを使え、俺お手製のタッパーだ。これからは仲間同士だしな、助け合うとしよう」
こうして俺とクールは仲間を探すべく、まずは隣の国である護の国にいくこととなった。
正直な所、カニバリズムを深く理解してないため、これでカニバリズムとして良いのかは分かりませんが……許してください。