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ノーマフィリア②

 湿気っていた空気が一気に乾く程の炎が燃え盛る中、マッシルは男を睨み付けながらもその場から動かず、男もその場に立ってマッシルを見つめていた。

 そして数秒後に男がマッシル目掛けて大小様々の火の球をばら蒔く。

 マッシルはそれを避けターナーを殺したのと同じように一瞬で男に近づき殴り掛かるが、どういうわけかその男は一瞬にしてマッシルの後ろに移動していた。

 そして先程の火の玉とは違い、今度は炎を手から噴射してマッシルを炎で包むとまたもや一瞬で移動して距離をとる。

 普通ならこれで火だるまになって終わるのだがマッシルは急に回りだして自分の体と回りで燃え続ける炎を消し去った。

 男は少し顔を歪めるが、その間にも迫ってきているマッシルの攻撃を避けると今度はでかい火の玉をマッシルとの間で爆発させてまた辺りを火の海にした。

 俺とエリは巻き添えを食らわないように壁の方に避難していた。


 「エリ、誰だか知ってるか?」

 「知らないわよ、どうせこの監獄にいた誰かでしょう」

  

 エリは膝を抱え込み明らかに落ち込んでいた。

 そして俺も自分で分かってしまうほどに心が折れそうだった。

 死体を見るのにはもうなれていた。

 だが先程まで一緒に喋っていた相手が死ぬのは、心に来るものがある。

 もしかしなくても必ず仲間にした奴の何人かは死ぬと思っていたし、覚悟はしてた。

 いや、してたつもりだった。

 いざ実際に仲間が死んでみると、最初は何故か何も思わなかった。

 だがそれは俺の心には余りの痛みに心がマヒしたせいだったのだろう。

 先程から徐々に込み上げてくる虚無感に今にも死んでしまいそうになる。

 その間にもマッシルと男は戦っていて、マッシルは体を徐々に燃やされて使い物になっていき押されていた。

 

 「魔法は死んだ奴を生き返らせる事は出来ないのか?」

 「そんなこと出来てればお父様は生きてるわよ」

 「魔法もたかが知れてるな」

 

 つい思った通りの事をそのまま呟いてしまい、エリは一瞬俺を睨み付けるがまたすぐに膝を抱えた後すすり泣く音が聞こえた。

 何八つ当たりしてるんだろうか、死んだやつが生き返るなんて都合の良い魔法あるわけないのは、分かりきっているだろ。


 そこで俺はあることを、ふと思い出した。

 いや、思い出してしまった。


 俺はそれを思い出すなり、体の震えが収まらなくなった。

 もしこれをやってしまったら、俺の中で何か越えてはいけないものを軽く越えてしまうからだ。

 それでも俺はこの考えを忘れやめようという選択肢を選べずにいた、虚無感を消し去る為にもしなくてはいけないことだったからだ。

 

 「佐藤大丈夫!? ねぇ、佐藤ったら!」

 

 気づくと泣いていたはずのエリが俺の目の前で体を揺さぶっていた。どうやら体が震えていたのを心配していたようだ。

 俺は自分の中で決意を決めて、思い付いたことを実践するために動き出すことを決めた。


 「エリ、聞いてくれ」

 「な、何よ急に真面目になって」

 「真面目にとは何だ、いつも真面目だ」

 

 軽口を叩くものを内心今すぐにでも、何でもないと言い出したい。

 だがそれをしてしまえばすべてが終わり、俺はこれから先虚無感に包まれながら勇者に怯えて暮らさなくてはいけなくなる。

 その自分勝手な考えが、俺を突き動かす。


 「佐藤たちを生き返らせる方法がある」

 「な、何いってるのよ? そんな事出来るわけ」

 「出来る。 普通の奴等には出来ない、というよりやらないが俺達なら出来る」

 「……言ってみなさいよ、方法を」

 「その話俺にも聞かせろよ」

 

 急に話しかけられ驚きながらそちらを振り向くと、そこにはあの男がいた。


 「そんな警戒しないでくれよ兄さん、何もしないからよ」

 「マッシルはどうしたんだ」

 「マッシル? あぁあのデカブツね、あそこだよ」

 

 指差す方を見ると、そこには黒い塊が転がっていた。

 辺りは最初はいった時とは違い、空気は乾いていて焦げ臭い匂いが充満していた。


 「焼けていく姿は見物だったよ」


 男が両手を合わせた後開くと、パイロ・アーソンという文字が炎で出来ていた。俺の名前なんだと男はいった。

 

 「色々聞きたいことがあるけど、まずは助かったよパイロさん」

 「いやいや、こちらこそ脱獄させてくれて嬉しいよ。 そんでもってパイロと読んでくれ」

 

 そういうなり男はエリを見るとエリが少し反応したが、まぁそれは自ずとわかるだろうし気にしないでおこう。


 「脱獄したということは元々ここにいたということか」

 「あぁ、ここより下の階にいたよ。 他にも沢山いるけどね」

 

 沢山いるのか、それは良いな。


 「それで、話の続きを聞きたいんだけどいいかな?」

 「勿論だ、俺達はマッシルに殺された仲間を生き返らせようとしている」

 「あー、その、死んだものは生き返らないだよ」  


 パイロは少しこちらに残念な者を見る目を向けてきたが、気にはせずに説明を続けた。


 「俺は特別な能力で素材さえあらば色んなものを作れる」

 「色んなもの、火炎瓶とかもかい」

 「そんなの五秒で百個作れるさ、その能力を使えば引き裂かれた皮膚を作り直すことも出来る」

 

 先程まで馬鹿にしながら聞いていたパイロがそれを聞くなり真剣になった。


 「俺はこの能力を使って仲間を作り直そうと思う。 だがそのためには大量の素材が必要だ」

 「素材があれば出来るのね、それで素材って言うのは」

 「それは……」



 「親分! 街がありますよ」

 「それは本当か!」


 俺の子分がゴマをすりながら話しかけてきた。

 どうやらこの先に街があるらしく、特に見張りもいないらしい。

 これは襲ってくださいと言ってるような物だ!


 「行くぞお前ら! 久々の獲物だ!!」


 俺達は走りだし、すぐに見え始めた門を開き中に入った。


 

 「親分誰もいません、しかも家のなかは根こそぎ取られてます」

 「ちっ、もう他の族に入られてたか」

 

 もう少し早く訪れてたらどれだけの物が手に入ったか。


 「まぁ悔やんでても仕方ねぇ、今日は遅いしここで寝るぞ」


 そう言った後家に部下を先にいれると、路地裏から女が一人息をきらしながら出てきた。


 「あ、あぁ神様! やはり貴方は私を見捨ててはいなかったのですね」


 女は修道服を着ていて、今の発言からして実際にシスターのようだ。

 しかし服の上からでも分かる程いい体してやがるな、この女はよ。

 

 「おうおう、どうした嬢ちゃんそんなに慌てて」

 「あなた方がどんな人なのかこの際どうでも良いのです、どうか一刻も早くここから共に離れましょう」

 

 女は体を震わせながら早口で話を続ける。

 性格は変なやつだが体が良ければ何の問題もないよな。


 「取り合えずあの家で詳しく聞こうじゃねぇか」

 

 そして俺は嫌がる女を部下のいる家に連れていくと……

 そこには俺の部下だった肉塊の中に、男が一人立っていた。


 「お前、よくも俺の部下を!!」

 

 俺は怒りに身を任せ腰に携えていた剣を掴み敵に斬りかかる。

 だがそれは簡単に避けられた後剣がこちらに振りかざされるのをみた後、一瞬の内に何も感じれなくなった。



 「パイロ、あの女はまだか」

 「もう少し待ってくれ、俺の仲間が回収に行ってる」

 

 俺は泣き声や罵声にイライラしながらも、一人逃げ出した女を今か今かと待ちわびている。

 

 「ね、ねぇ佐藤、本当にやるの」

 「あぁ、本当はもっと人がいた方がいいんだけどな」


 正直この人数は少し不安が残る所なんだが、それでもやるしかない。


 すると入口が開く音が聞こえ、そちらを見ると牢に捕まっていたパイロの部下達が一人づつ袋を担ぎ、ボロボロになった女を引きずりながら入ってきた。


 「おい! 女は捕まえたか」

 「はい、しかも数十人程確保できました」

 

 そういうなり男達は袋から大量の肉塊をある場所にぶちまけた。


 「よくやってくれました皆さん、期待以上です」


 これで更に安定した作業に出来る。

 そう、復活させるために必要な素材は肉なのだ。

 だが他の生き物での代用は少量でも出来ない。

 これは俺がこの世界に移転してきた時に真っ先にやった実験で、ネズミを使って行っていた。

 結果は成功、だがネズミ一匹に対して十匹以上も使っての成功だった。

 しかもそれは成功したときの数で、成功する前のネズミも数えていてはきりがないほどだ。

 今回はそれをクール達に行う。


 「よし、まずはターナーだ。流石にミンチのまんまは惨めすぎるからな」


 俺はターナーだった肉片のある場所に、パイロの部下に指示を出して街の住民を近づけさせた。

 

 「や、やめてくれ、どうか娘だけは」

 「お願いします。お願いします」

 「怖いよ、パパ、ママ」


 どうやら家族で連れてきたらしく、俺に向かって娘の為に命乞いをしている。

 失敗する事も考えるとこれでも心許ない位なんだ、逃がすわけがないだろう。


 「範囲内にいると巻き添え食らってしまうので離れてください」

 

 パイロの部下が離れたのを確認した後、俺はすぐに能力を使おうとしたが誰かに背中を叩かれた。

 後ろを振り向くと、エリが顔をすこし青ざめさせながら立っていた。


 「なんだエリ、さっさとやりたいんだが」

 「ねぇ、やっぱりやめましょうよ」


 そう言いながらエリは材料になる家族をちらちらと見ていた。

 何だか分からないが、エリは材料になる奴等を可哀想と思ってるようだ。


 「今更一人や二人位死んだところで傷つく事ないだろ」

 「そ、そうだけど」

 「ならさっさとやるから、あっちに行っててくれないか」


 俺はまた前を向き、今度こそ能力を使おうとしたが


 「待って!」


 とエリが叫ぶので、エリの方に向き直った。


 「何? まさか今頃になった人の命は尊いとか言わないだろうな」

 「いや、そういう訳じゃなくて、せめてあの家族だけでも」


 はぁ、そう言うことか。

 つまりエリはあの家族と自分を重ねてしまい、つい助けてあげようと思ってしまったというわけだ。


 「エリ、一つ言わせてくれ」

 「な、何よ」  

 「ふざけるなよ」

  

 エリが言っている意味が分からないといった表情をしているが、俺は気にせずに続けた。

 

 「今更過ぎるんだよ。 お前は今まで沢山の奴等を自分の為に殺してきた」

 「その中には家族がいるやつらだっていたんだ。 俺はそういう奴等がいたと分かったときはやめた方がいいと何回も言った」

 「それでもお前は嬉々として殺してきた。 なのに今更になって、そこら辺にいる普通の家族愛を見て辞めましょう? ふざけるなよ」

 「俺は勇者を殺して以前と同じ生活をするためなら何だってするという覚悟を、お前達との旅でしたんだ」

 「お前はどうなんだ、魔王の仇を討つんだろ! もしかしたらその仇には家族がいるかもしれない、仇を守る為にいる兵士になんてわんさか家族がいるぞ」

 「こんな特に何でもない一般の家族愛を見ただけで動揺してるなら、お前は絶対に敵討ちなんて出来るわけがない」

 「分かったか? 取り合えず分かってなくてもあっちに行っててくれ邪魔だから」


 エリは俺が喋っている最中に何回も何かを言おうとしてたが、今まで殺してきた奴等にも家族がいたと言った瞬間黙ってしまい、俺が喋り終わると力のない足取りで外に出ていった。


 「うっわ、ひどいっすね」

 「そりゃそうだ、たかが四人の命のために街一個分の人を殺すんだからな」


 そう言うと、それを聞いたパイロもニヤニヤしながら外に出ていった。


 これでやっと作業が出来る。

 俺は命乞いの声が渦巻く中、作業に取りかかることにした。

 材料が足りてくれることを願いながら。


 

 

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