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急、花火大会

 ケガをしたせいか、昼間本を読んで寝なかったせいか、夜はいつもよりも深く眠った。


 朝起きた時異変に気づいた。


 足があまり痛くない。


「お姉さんっ!」

「……おはよう」

「お姉さんっ! 足治ったでしょっ!」

「君、何か知っているのかい?」

「ふふん、花火大会一緒に行ってくれたら教えてあげるっ!」


「わかった、とりあえず、まずは担当医の先生に話を通さないと」

「わかったーっ! 夕方に迎えにくるから準備してねっ!」

「はいはい」

「今度は猫を助けるためでも車に轢かれないでねっ!」

「次はないよ」

「わぁ、恐いっ!」


 私は諸々(もろもろ)の手続きを事務でとった。

 担当医の先生や私の家族は目を丸くした。

 坦々(たんたん)と話して歩いて見せたら唖然(あぜん)とされた。

 驚きすぎて何も言えないような状態だった。

 説明も面倒というかワケがわからない以上できないので、これ幸いと手続きを手早く済ませた。

 荷物の類は1日分だけだったのですぐにまとめることができた。

 家族の手伝いもなかったので、荷運びが大変。


「迎えに来たよっ!」

「……こんばんは」

「お姉さんっ!お姉さんっ!」

「なんだい?」

「呼んだだけっ!」

「そうかい」

「ねぇ、お姉さんっ!浴衣キレイだねっ!」

「……ありがと」


 ……なんで家の前で君は待っているんだい。


「じゃあ、行こうっ!」

「どこへ?」

「僕のオススメのポイントっ!」

「へぇ」

「早く行こっ!」


 黒髪の少年に手を引かれ私は歩く。


「ここっ!」

「わぁ」


 私の眼下(がんか)には川が広がっている。

 河原(かわら)にはたくさんの人が見える。

 私のいるところは人がいない。


 高くて、人目がなく、空が近い。

 まるで猫の日向(ひなた)ぼっこをするような場所だ。


「いい場所でしょ? お姉さんっ!」

「こんな場所知らなかった」


 この町で生まれ育ったというのに知らなかった場所だ。


 そして花火が打ち上がる。


 音は響く(ひびく)。ひゅぅぅ……ばんっ!


 空に大輪の華が咲く。


 少年の眼は花火の光を受けて輝く(かがやく)

 瞳孔(どうこう)が細く猫のように見えた。


「お姉さんっ!」

「……?」

「助けてくれてありがとうっ!」

「それは私の言葉じゃないか?」

「うぅん、僕はお姉さんに助けてもらったんだ」

「?」

「お姉さんは花火大会に行きたかったんでしょ?」

「えぇ、まぁ……」

「僕はお姉さんがそういうのを聞いたから頑張ったんだっ!」

「えぇ……と、ありがとう」


 私は得意満面な顔をしている少年の頭を()でた。


 花火が打ち上がるスピードが上がる。

 そろそろフィナーレだ。


「……お姉さん……」


 少年は沈んだ声をだした。

 初めて聞いた少年の悲しそうな声。


「どうした?」


 私はできるだけ柔らかくなるように声を整えた。


「あのね、時間切れなんだ……」


 そういうと少年は黒い子猫の姿に身体を変えた。


 チビクロは一声寂しそうな声を出すと消え去った。

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