ですわ紫縦ロールなんて属性盛りすぎです。
「見舞い?」
「はい。親衛隊の方々がいらっしゃるとのことですが……」
魔法の実技に初めて出た俺は『体が弱い王子』という役柄を、アカデミー賞並みの演技を駆使して寮に戻っていた。
セシリアはそのまま残って授業に参加しているが、オルとギュンターは護衛という形で戻ってきている。
ま、俺たちには必要ない授業だ。今はとにかく実戦するぞと、いつものように着替えて冒険者ギルドに行こうと思っていたのに……。
「相手がヘンリエッタ・ブルーム公爵令嬢なのです。無下にお断りする事が出来なく……」
「うーんやめとこう。ここで見舞いを許可したら、ずっと対応する必要があるからね。今日は寮に引きこもろう。発熱して面会謝絶って事で」
「かしこまりました」
ギュンターは恭しくお辞儀をすると、ヘンリエッタ嬢に対応するべく部屋を出て行った。
「オルは気にせず出かけていいよ」
「いや、こういう時は色々話し合うのに最適だ」
「話し合い?」
オルは珍しく神妙な面持ちで、短くした黒髪の頭をワシワシ掻いた。
「お前は気づいてると思うが、多神の加護を受けてるのは国で俺とお前と影の女だ」
「マイコね」
「名を呼べばお前が要らん嫉妬するのがウザい」
え、オルってば気をつかってそうやってたの?マジで?
ちなみにセシリアをオルは『茶の女』とか呼ぶ。さすがにそれはどうかと思うんだけど……。
「それで、だ。俺が思うに魔王への主力メンバーはおそらくお前と俺と、勇者の三人だろう」
「そうだね。マイコの加護は僕の側にいるためのものだろうし、魔王へ対抗する力にしては弱い」
影から珍しくマイコが出てくる。俺をじっと見ている。無言で。怖い。
「置いてかないよ。マイコは影にいればいい。そうだろオル」
「ま、そういう事だ。クラウスの精神安定剤みたいなもんだ。俺はかなり死線を潜ってきているから、お前よりは精神的に強い」
「まぁ、オルがもし恋人と一緒にいるとなると、確実に弱みになるよね」
「ああ。最低でも影女くらいには強くねぇとダメだ」
オルはその青い目を眇めて俺を見た。
ああ、こいつはもしかしたら、諦めているのかもしれないな……家族を持つ事を。
「じゃあ、魔王の出現と同時に動くのは三人。その道筋を粗方決めておこうか」
「おう。……ギュンターが戻った」
オルの言葉の少し後に部屋に戻ってきたギュンターは、なぜか酷く憔悴していた。どうやら公爵令嬢はまだ寮の応接室にいるらしい。
「どうしたもんかなぁ……」
「俺が行く」
オルが立ち上がる。いやいや、それって大丈夫なんだろうな?
ギュンターも珍しく驚いた顔でオルを見ている。無理もない。オルは貴族とのやり取りを、いつも面倒くさがっているんだから。
部屋を出て行くオルを止める前に、さっさと出て行ってしまった。大丈夫なのか?
「おや……まぁ、ここは彼に任せましょう」
「大丈夫なのか?」
「ある意味ショック療法みたいなものかと」
ギュンターは風を使って状況が分かっているらしい。
まぁ、何かあればギュンターが知らせるだろうと、この場はオルに任せることにした。
「オルさん、最低です」
「昨日お任せしたのが間違いでした」
「オル、お前……」
「……」
「ち、違うんだ!俺は何もしてねぇ!」
次の日、教室に入った俺たちの前に、紫色の何かが飛び込んできた……オルに。
「オルフェウス様!昨日のあの甘美な時間を頂き……わたくしは、わたくしはもう、貴方と添い遂げますわ!」
紫の髪を縦ロールにした公爵令嬢、ヘンリエッタ・ブルームは、オルの胸元にしがみつき熱烈なラブコールを送ってきた。
うん。何したんだオル。
「俺はただ、病気がちな王子より他に相手がいるんじゃないかって言っただけだ!」
「ほう、それがオルだと」
「だからそれは言ってねぇってば!」
オルは懸命にヘンリエッタを自分から剥がそうとするが、なかなか上手くいかない。彼女はますます強くオルにしがみついた。
「わたくしがクラウス様の部屋に向かおうとした時、オルフェウス様は私を壁まで追い詰め、こう、手で壁を叩いて、その逞しい体を近づけて……ああ!クラウス様でなく自分にしろと!」
「だから、言ってねぇだろがーーーーー!!」
その後、ヘンリエッタ嬢は花嫁修行と称して、別の学園に転校する事になった。
ブルーム公爵家とギュンターが裏で手を回したんだけど、オルは「貴族の女はこりごりだ」と、すっかり貴族嫌いに拍車がかかってしまった。
まぁ、あそこまで思い込みが激しいのは彼女くらいだろうと思うけどね。
お読みいただき、ありがとうございます。
オルの壁ドン………




