邪竜の討伐です。
邪竜化する原因は、伴侶を失うか子を失うのと、邪の気を浴びるという二つの要因が重なって起こることだ。
さらに邪の気を祓う秘術は、北の山にあると、俺の読んだ本に記載されていた。
「その秘術で抑えることが出来なかったということ?」
「……そうだ」
「で、なんでクラウスに声かけたんだ?」
「……長の指示だ。連れて来いと言ってる」
北の山の長といえば、竜族の頂点に立つ者だ。しかも強さがすべての竜の上に立ち、神に近い力を持っているという話を聞いたことがある。
「ますます分からないね。どうしたらいいかなサウス司祭」
「そうですねぇ、クラウス様に北の山の長が会いたいということでしたら……会いに行かれては?」
「セシリアのレベルアップは出来てる?」
「クラウス様、私はまだ修行中の身なのですが、治癒石などをたくさん用意しますので持って行ってください」
セシリアは残るつもりのようだ。治癒石は魔獣から採れる核に治癒の力を込めたもので、教会の人間にしか作れず高価なアイテムに入る。そんなの貰って大丈夫なのかな?
「幸いにもワイバーンから大量に核が採れました。それを元に作ったので持って行きましょう」
ギュンターが俺の考えを読んだかのようにフォローしてくれた。さっきは怖かったけど今は大丈夫だ。
「オル、ギュンター、マイコと僕で行こう。それで良いかな北の山の方」
「……了解した」
「じゃあ、出発のその前に……プリン食べましょう!」
音もなくテーブルに用意されていた、マイコ特製プリンが並べられていた。セシリアが慌ててお茶を淹れ直す。
俺とマイコ以外は皆首を傾げていたが、数分後には皆蕩ける笑顔を浮かべることになるだろう。
ニヤニヤしてたらギュンターに「色気を出さないでください」って怒られた。何でだ。
予想通り、マイコの作ったプリンは美味しくて、甘いものに興味なさそうだったオルまで喜んでいた。火の竜の人は無言で食べているけど、時々頭の角が赤く輝いている。あれって喜んでいるよね?
「マイコってもしかしたら家事ひと通り出来る子?」
「はい。あっちでは一人暮らしで、こっちでは師匠の世話をしてましたし、旅で野宿するときの料理も出来ますよ」
「偉いなぁ。こっちじゃ本ばかり読んでたから、魔法くらいしか強みが無いよ」
「だからこその私です。必ず力になると神様に誓いましたから」
マイコは栗色の髪をふわりと揺らし、綺麗な顔を微かに綻ばせた。いつも俯きがちなマイコのレアな表情を見れて、俺は満足だ。俺の嫁は最高すぎる。
「ん?」
その時、部屋がぐらりと揺れる。窓が開いていないにも関わらず、濃密な邪の空気が流れてくるのを感じた。
「……邪竜」
「そんな!!ここに来るとは!!」
サウス司祭はセシリアを連れ、慌てて近くの教会へ向かう。避難誘導をするのと、けが人の救護の為だ。
部屋は数度揺れ、置いてあった茶器やお菓子が床に落ちてメチャクチャになってしまっている。
「ギュンター、風はなんと言ってる?」
「邪竜は……二体。番を失った者と、子を失った母。この町に到着するまであと十五分です」
「……まさか、増えるとは」
「火の竜、迎え討つ対策はとっているか!」
「……長の指示は、お前を北の山に案内する事のみ」
「オル、出れる?……オル?」
冒険者としてトップクラスの実力を持つ『オルフェウス』であっても、邪竜という存在は恐ろしいものなのか、彼は体を震わせ下を向いている。
「オル……仕方ない。とりあえずは三人で……ん?」
俺の肩をオルが掴む。肩に触れた手が異様に熱い。
「俺がやる」
「へ?」
「ギュンター、風で俺を運べ。クラウスと影女は守れ」
「オ、オルフェウスさん?何を守るのかな?」
「この町に決まってんだろが」
「「「はぁ!?」」」
そう言うとギュンターに風で邪竜のところまで飛ばさせと、オルは邪竜に向かって双剣を二回振るった。
数秒遅れて響く爆発音。
その余波をマイコは大地を隆起させて壁を作り、俺は風と氷の壁で町を取り囲む。
感じるのはオルの怒り。
そして痛いくらいの悲しみ。
火の竜は呆然とした顔で、地上に降り立つオルの見ている。
「俺の……プリン……」
町から数百メートルほど離れた所に出来た二つのクレーターは、食べれなかったプリンの数だと、後にオルは悲しげな顔で語ってくれた。
…………知るか!!
お読みいただき、ありがとうございます。
伝説の騎士の伝説は、わりとベタ?な理由でした。




