北の山の事情です。
「オルは足止め、僕は援護、マイコは土魔法の用意」
「「了解」」
どこからかオルは飛び降りてきて俺の前に立つ。
気配を探る。
ん?この気配は……。
「訂正、死なない程度にやっちゃって」
「いいのか?」
「大丈夫。何かあってもセシリアとサウス司祭がいる」
「分かった」
黒装束の人間が飛び出してきた。
精度の高くなった身体強化魔法で、オルはそのまま双剣で突っ込んでいく。
俺と背中合わせにいるマイコは、土魔法で敵を俺に接近させないように、土から土槍を出して牽制している。
俺の魔法は発動まで五秒ほど。まだ時間がかかるな。
【雷よ!】
鑑定魔法で見た五人に雷を落としていく。雷でショック状態の五人に対し、数秒で意識を刈り取るオル。
「おい、俺を忘れていただろう」
「オルなら避けられるだろ?」
「鬼畜」
「おい、まさかそれ定着か?」
「その通りだろ?」
軽口をたたき合っていると、最後の一人が出てきた。
同じ黒装束だが、彼は顔を見せていた。
オルとマイコが俺の前に立つ。
マイコの頭を小突いて俺の後ろに回す。頬を膨らませて怒るマイコに「またお仕置き?」って言ったら赤くなって黙った。可愛い。
「後ろのバカップルは気にすんな」
「……いいのか」
「すまねぇな」
「何をそこで連帯感持っちゃってるわけ?」
オルと黒装束のやりとりにつっこむ俺。
いや、確かに俺が悪かったけどさ……。
「で、僕たちはお眼鏡に叶ったかな?北の山の……ドラゴン?」
「……さすが万能の……長の言う通りの者か」
「マジ?この人ドラゴン?初めて会った!」
顔を見せていた黒装束が頭巾を取ると、赤い髪に左右二本ずつ赤い角が生えていた。首筋には赤い鱗が少し見える。
「火属性か。で、倒れてる人達はどうする?回復しようか?ドラゴンだから手加減しなくても大丈夫かと、結構やっちゃったけど……」
「……風の者に運ばせる」
「わかった。とりあえず僕のいる屋敷に行こうか。そこで話を聞く」
サウス司祭は額を抑えて項垂れている。
「えっと、どうしました?」
「クラウス様、大量発生したワイバーンを殲滅し、北の山のドラゴンと一戦交えた上に、その長の代行を連れてきた……ということでよろしいですか?」
「はい、そうですが」
サウス司祭は大きくため息をつき、セシリアは「天…クラウス様すごいです!」と言い、ギュンターは無言だ。怖い。
「……すまぬ。一戦交えるつもりはなかった。若い者が強者の存在を感じ、挑んでしまったのだ」
つまり脳筋だと。
なんだ、戦わなくても良かったのか……てゆかサウス司祭は俺たちが討伐依頼を受けてたって知らなかったんだな。セシリア言ってるものと思ってた。
「クラウス様の規格外っぷりは分かっていたつもりですが、ここまでとは……」
「僕だけじゃないよ。皆で成し遂げたことだよ」
「……いや、御仁だけでも出来た事であろう」
「何言っちゃってるの!もう話が進まないから、早く用件を言ってくれ!」
セシリアがお茶を淹れてくれていて、マイコはどこからかお茶うけのクッキーを用意してくれていた。
「……実は、ワイバーンの大量発生は、我が郷の者の『邪竜化』によるものだと長は判断している」
「邪竜化……」
昔から本を読みまくっていた中に、ドラゴンについて書かれている中に『邪竜化』というのがあった。
『邪竜』となったドラゴンには理性が無くなり、ひたすら破壊活動を行うだけの存在となる。そうならないよう、北の山には数々の秘術が納められているけど、ある条件が重なると『邪竜化』は防げない。
「……北の山周辺に、魔族が集まっている。邪の気が満ちてしまい、番を失っていた者が邪にやられた」
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