デリケートな問題なのです。
マイコは落ち込みながらも、ワイバーンの爪を誰よりも多く回収していた。
吟遊詩人との旅で魔獣と格闘し、獣の解体もしたのだろう。慣れた様子だった。
「マイコちょっといい?」
「はい……」
落ちていた栗色の髪をさらりと後ろに流すと、俯きがちに俺の側に来た。
そのままぎゅっと抱きしめる。
「え、ク、クラウスさ、ま?」
「マイコは俺が一番傷つくことをした」
「え、えと、クラウス様を信じなかった……と……」
「違う」
「クラウス様の気持ちを蔑ろにしたと……」
「近いけど違う。俺はね、マイコ傷つくのが一番傷つくの。知らないの?」
「え!?あ、あの、その……すみません」
「ああいう自分を傷つけるような戦い方は、たとえ回復魔法があるっていってもダメ。俺の事をもっと知ってよ。マイコは大事な人だって事を」
意識して「僕」ではなく「俺」と言う。
マイコの前では、自分を偽ることなく側に居たいから。
言っても分からないなら、行動で示す。何度でも言う。
俺は生きている。生きてる内に、もう後悔はしたくないからな。
ゆっくりと抱きしめていた腕を解くと、顔を真っ赤にしたマイコの頬にキスをする。
「お仕置き」
してやったりと微笑むと、マイコは鎖骨まで赤くして「きゅぅぅ…」と呻いて……
……倒れた。
この後、俺はセシリアに散々怒られ、ギュンターはため息をつき、オルは「鬼畜」と言った。
おい、最後のが一番酷いな!!
意外と荷物になるワイバーンの爪を空間収納に入れておいて、俺は一人で冒険者ギルドに行くことにした。
もちろんオルはどっかで見張っているし、マイコは言うまでもなく隠密を使って、俺の後ろに張り付いている。
ギルドに顔を出すと、周りの人間が自分に注目するのが分かる。王子をやってる自分には慣れたもの……とはいえ、冒険者特有の実力を推し量る視線にはなかなか慣れない。
どうやらここには実力者が多いようだ。背が伸びたとはいえ十一歳の俺はまだまだ子供だ。それなのに侮るような視線が少ないということは、俺の実力を分かっている人間が多いということだ。
「討伐証明お願いします。リーダーは俺で、パーティでワイバーンの依頼から戻りました」
髪と瞳を目立たない茶色に変えているとはいえ、相変わらずの王子スマイルは受付がお兄さんであっても頬を染めさせる威力を持っている。大丈夫、君はノーマルだよ。自重しない神の加護の所為だからね……と心の中で詫びながら、換金所に案内してもらう。
別室に案内され、空間魔法で収納していたワイバーンの爪と、結晶化している核をワラワラ出す。
ギルド職員には個々に制約がかけられていて、冒険者のスキルや秘匿している魔法などを口外できないように魔道具を身につけていて、それは生涯取ることが出来ないとされている。その分、給料はとても良く、老後もケアしてもらえるから人気職だったりもする。
「す、すごいですね」
「今回は出来れば殲滅という依頼だった。悪いけど卵は半分もらっておくよ」
「もちろんです!半分でも多いくらいいただいていますよ!」
「良かった、ありがとう」
俺はマイコのプリンを考えて笑顔になり、それを見た受付のお兄さんは顔が真っ赤になってしまった。ごめん。
無事に換金を終えてギルドを出る。
夕暮れで赤く染まる町を、一人歩く俺。
そんな中で一つ、二つ、三、四、五人かな?
「クラウス様、六人です」
「ん?んん……本当だ」
「さすがです」
気配察知はまだまだマイコに届かないな。鑑定魔法のオーラで確認するだけじゃ足りないぞ。
「一人は敵意が無いので、察知するのは難しいと思います」
敵意のある五人の気配が、ゆっくり俺たちを囲んでいく。
さてと、どうしようかね……。
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