飛竜と戦います。
ワイバーンの巣は山の中腹にあり、さすがに雪は積もっていないけど『産卵期』だから気が立っているらしい。
でも、今を逃すと爆発的にワイバーンが増えてしまう。駆除をしつつ、卵も処理しなくてはいけない。
ちなみに。
ワイバーンの卵は高級品で、料理のみならず菓子にとっても素晴らしい食材であるそうだ。
ギュンターは集めた情報を淡々と読み上げた。
「味は濃厚で栄養価も高いそうです」
「あの…プリンとか作れそうですね…」
「マイコ作れるの?」
「はい。お砂糖と牛乳があれば」
うん。頑張ろう。たくさん採ってマイコにプリンを作ってもらおう!!
俺は自分の拳に血がにじむほど強く握り締めていた。
「冗談を言ってる場合じゃない」
「さっきまで吐血する勢いでプリンとか言ってなかったかクラウス」
「気のせいじゃない?」
ギュンターはずっと静かだ。彼はマイコの事を信用していないみたいで、常にマイコから目を離さないようにしている。マイコもそれを分かっていて、ギュンターがいるときは隠密モードにならない。それがまた気に食わないの悪循環だった。
「ワイバーンの群れは脅威だ。数匹でも良いとの事だが、俺たちは殲滅をねらう」
「冗談を言ってる場合じゃないんだろ?」
「本気だよ。何のために血反吐を吐くくらい魔法陣の勉強してきたと思っているのさ」
「どういう事ですか?」
俺は荷物の中から、この世界では高級な部類に入る紙を取り出した。そこには魔法陣が特殊なインクで描かれている。
「これはこの先俺しか使わない。俺の近くからこの紙が離されると書いてあるものが消えるようになっているんだ。それくらいこの魔法陣は危険だ。ま、俺くらいの魔力がなければ、使った瞬間に生命力まで搾り取られて死んじゃうけどね」
「「なんて物を作ってるんだ(ですか)!!!!」」
「さすがクラウス様、隙が無いですね」
俺はマイコの言葉だけ受け取り、出発の号令をかける。
いざ、出陣だー。
うん。たぶん俺いらないよね。
土魔法で足場を作ると、ギュンターが風魔法でワイバーンの翼を機能させないようにする。落ちてきたワイバーンをオルの双剣が唸り、一刀両断で斬り伏せる。
オルは切る瞬間、身体強化魔法を必要な筋肉の部分にだけ使い、切れ味を良くする魔法を剣に流してスパスパ斬っていく。見ろ、ワイバーンが豆腐のようだって言いたくなった。
……とその時、ギュンターのところに突っ込んで行く一体のワイバーン。他のよりも大きいため、風魔法が上手く伝わらなかったらしい。
「ギュンター様!!」
マイコがギュンターの前に飛び出し、そのままワイバーンの大きく開いた口にマイコは思いきり奥に腕を入れる。
【火遁】!!
ワイバーンの巨体が吹っ飛ぶ。
マイコに突き飛ばされる形となったギュンターは、慌てて起き上がると激怒した。
「何やってるのですか貴女は!!」
「クラウス様の…お仲間を…助けようと…」
「じゃあ貴女はクラウス様の何なんですか!」
ギュンターが声を荒げるのは珍しいな。でも、今回はギュンターに任せよう。
マイコは黙って俯いている。
「私は戦闘に参加していないクラウス様を信じない貴女を、自分の身を大切にしない貴女を、そして何よりもクラウス様の思いを蔑ろにする貴女を許せません。守っていただかなくて結構!」
「ギュンター様……」
「私は礼を言いません。クラウス様、出すぎた真似を致しまして申し訳ございません」
「いや、いいよギュンター」
俺は戦闘に参加していなかったからこそ、状況を把握していた。ギュンターへ防御のために壁を作る魔法を準備していたし、勿論マイコの腕がワイバーンの口に突っ込む瞬間、水と風の魔法をダブルでかけて氷を作り、マイコの火遁の発動に合わせて守った。
「マイコ、反省した?」
「あの、私は、クラウス様の思いを蔑ろに……」
「うん、そうだね。これから気をつけてね。とりあえずは卵を回収して、一度屋敷に戻ろうか」
俺たちはワイバーンの巣の卵を回収して、ワイバーンの討伐証明の右足小指の爪を回収するのに数時間かけてしまい、ワイバーンを倒す以上に厄介なのはこれかとウンザリするのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。




