その後の吟遊詩人です。
マイコは学園を自己都合で退学する事となった。
かの有名な吟遊詩人サンダルフォンの弟子である彼女は、旅をする事が修行であり吟遊詩人としての生であるとして、諸外国を旅するために学園を離れることとなったのだ。
そして今日も俺は、退屈な授業を受けている。
そして今日も後ろから可愛いつぶやきが聞こえる。
「はぅ……クラウス様……いい匂い……」
うん。可愛い。
マイコは俺の場所が匂いで分かるらしい。俺がこの学園入学するというのも、セシリアから僅かに俺の匂いがしたからだそうだ。すごいな。
俺専用の隠密になったマイコは、常に俺の近くに控えるようになった。一応着替えとかでは外してくれてるのは分かるから良いんだけど……別に俺はそこまでしなくても「いいえ、私がしたいのです。力になると神に誓ったのです!!」と、この調子だ。俺の思考を邪魔してまで主張をするくらいだから、好きにさせることにした。
……まぁ、マイコは俺が絶対守るけどね。
「駄目だろう」
「ん?何が?」
「いけませんクラウス様。王族たる者、私達に守られていて下さい」
「マイコは僕が守る」
「ったく、俺らが見とくから、クラウスは大人しくしとけ!」
だってしょうがないでしょ。俺の初恋の人だし、恋人だし。
……って、そこが微妙なんだよなぁ。
今セシリアは買い物に出ていて、マイコに護衛をお願いしている。
男三人は留守番で、現在密談中なのだ。内容は主にマイコの処遇について。
「正直、『風の知らせ』にも限界がありました。集中してコントロールしないと、声を拾いすぎてしまうので。私が声を拾い、マイコさんの隠密で裏を取るという方法が、実際のところ一番効率的なんですよ」
「俺は狭い範囲でしか戦えないからな。ギルドの制約もあるし。ま、依頼が終わりのはクラウスの卒業までだ。それまではせいぜいクラウスに魔力操作を習って強くなってやるさ」
「ねぇ、マイコは僕の恋人なんだよね?」
「クラウス様、今はマイコさんのこれからについての話し合いを……」
「これからの話だよ。僕は何度も伝えているのに『私はクラウス様の助けになるため、これからも頑張ります』ってさ、それって……遠回しに断られてる?」
「まさか!クラウス様ほどの御方に想いを寄せられて、喜ばぬ女性はおりません!」
「ギュンター、話がずれてっぞ?」
オルの冷めた目に、ギュンターは慌てて居住まいを正し俺をまっすぐ見る。
「まずは情報です。増えてきているという魔獣に関して調べつつ、魔獣狩りをしてレベルを上げていくというのは?」
「そうだな。マイコ嬢ちゃんの力も見てみたい。俺の魔力操作も試したいのがある」
「ちょうど夏休みに入るね。遠征に行こうか。僕は夏バテで城に引きこもったことにしよう」
「なぁ、もう病弱アピールしなくても良いんじゃね?」
「ダメだよ。力は無いって事にしないと、王位継承権の争いになっちゃうから。主にバカ貴族達が」
なんだかんだ話しているとパタパタという足音と、可愛い声が聞こえてくる。
ドアが開くと同時に「おかえり!」と、帰ってきた歌姫を抱きしめる。
真っ赤になった顔を栗色で隠しつつ「ただいま」と小さな声で言われて、今ほど自分が十歳である事を悔しく思った事は無かったと、後に俺は歯を食いしばってオルに語るのであった。
「夏休みはクラウスが帰って来るな、王妃よ」
「その通りですね、陛下」
「さぁ、それはどうでしょう……」
「「サウス司祭!?」」
王の間で、ほのぼの話していた美形夫婦の前には、神官服を身につけ錫杖を持ったサウス・ウィンスター司祭がいた。
「しばらく王都を離れるかもしれません。許可証を」
「はいはい、どこに行くの?」
「さぁ、どこですかねぇ?とにかく無事であるよう祈っててください」
サウス司祭は綺麗な空色の瞳を細めて笑顔を浮かべると、一礼して部屋を出て行った。
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