音楽の時間です。
今日もいつもの視線があったようで、ギュンターが周りを確認するけど見つからないらしく、悔しそうにしていた。
オルは探すことより俺の護衛を優先させたようだ。
「今日の午後に教会に行くけど……」
「はい!今日こそセシリアが一緒に行きます!」
「まぁ、サウス司祭に取り次いでもらわないとだし。ギュンターとオルも来てくれる?念のため周囲の警戒をしててほしい」
「了解」
「分かりました」
そして俺は彼等から視線を外さず、目の端に映る栗色を認識する。
たぶん、これが視線の主だろうと……思う。見えてることはギュンターに言わないでおく。彼女(?)は隠れているつもりなんだろうな。
少しため息をつくと長い午前の授業を受けるべく、教科書を机に出した。
当初、午後の実技授業を出席しないのはどうかと思っていたけど、俺の虚弱体質キャラと王族ってことで、かなりゆるくしてもらっている。
そういや担任も近衛隊だったもんな、俺のことも両親に報告してるだろうし、欠席しても自室で休んでるくらいだから『ゆっくり学んでいる』と思ってくれているようだ。ありがたいな。
全員で寮に戻ると着替えをし、指輪で髪と目の色を変える。
俺の部屋に集まったところで空間魔法を使い、サウス司祭の勤める教会前に移動した。
「お久しぶりですね、クラウス王子殿下、セシリアもギュンターも息災のようで何よりだ」
待ち構えていたようにサウス司祭がいた。ビックリした。
え?まさかずっと待ってたの?
「こちらに神々しい力を感じましたので、来られたのかと思いましたが、当たったようですね」
「さすがお父様です!セシリアも負けてられません!」
何をだセシリア。
「あと、そちらの…」
「冒険者オルフェウス。クラウスの仲間だ」
「……ほう、多神の加護の子。第三王子の所に来ましたか」
「来たくて来たわけじゃねぇけど、クラウスといると強くなれる」
「まぁ良いでしょう。さぁクラウス王子殿下、神力でお隠ししますので中へどうぞ」
「ありがとう」
うーん、隠さないと俺って目立っちゃうのかなぁ。
悩む俺に気づいて、サウス司祭が気配の察知について説明してくれる。
「分かる人は分かってしまいます。私は身辺に張っている神力の網が触れたら気がつきます」
「色で見える時も?」
「ありますよ。人の五感で気配を感じるのですから。人によって気配の感じ方は違います」
うん。俺のあれは気配察知だったんだ。
ってことは、前の世界でも結構チートだったかもしれないなぁ。
サウス司祭の執務室はある程度の広さはあるけど、質素な家具しか置いていない。まぁ、教会だし当然かな。ただいくつか飾ってある神の絵の視線がこっちに向いてて怖かった。やっぱ俺には教会は鬼門だな。
「この窓から見えますよ。歌も聞こえますのでどうぞこちらへ」
大きなガラス窓に近づくと、歌が聞こえてくる。
高鳴る心臓と、緊張して自然と震える体。
カーテンに身を隠しながら、そっと外を見ると栗色が見えた。
子供に囲まれて、頭一つ飛び出すくらいの身長。
サラサラな栗色の髪は背中まで伸ばし、色素の薄い白い肌と薄茶色の瞳を持つ整った顔の少女。
記憶よりも背が小さい。
小学生高学年くらいの少女。
俺と同じくらいの。
可愛い女の子。
同じクラスならきっと好きになってる。
「はは…バカだな…」
「クラウスさま!?」
ギュンターが慌てて声をかけてくるけど、なんかもう無理だった。
何を期待してたんだろう。
ここに、この世界にいるわけがない。
俺が見た彼女の顔だってうろ覚えなんだ。見たところで分かるわけないじゃないか。
「俺はバカだ…」
気づくと涙が流れている。
ああ、こりゃしばらく止まらない。皆に心配かけちゃうな。
歌が聴こえてくる。伴奏はないけれど、彼女の澄んだ声にさっきまで大騒ぎだった子供達は、すっかり大人しくなって聴き惚れているようだ。
流す涙はそのままに、今は彼女の歌を聴こう。
どこか懐かしい、聴いたことのあるその歌を。
そうだ、これは神様に救済を求める歌、シューベルトのアヴェ・マリア。
……
……
……アヴェ・マリアだと!?
……魔王も好きです。
お読みいただき、ありがとうございます!




