栗色の幻影
「マイコという女生徒は普通クラス午前の部に在籍しておりますが、なぜかこちらが出向くと席に居ないのです。王都でも一番と呼ばれる、吟遊詩人サンダルフォンの弟子との噂もあり、週末の吟遊詩人としての活動ではファンクラブが出来るほどの人気とか」
「ファンクラブ?」
「まぁ、吟遊詩人マイコを応援する会との事です。ケーラー商会の会長が立ち上げたそうですよ」
「なんか…すごいな…」
寮の中にある俺の部屋で、ギュンターは報告書を読み上げると俺をじっと見る。
「なんだ?」
「……いえ、何も」
まぁ、俺って中身はともかく、クラウスとしては十歳だしな。女の子に興味を持つのとか、早いのかもしれないなぁ。興味っていうか、確かめたいだけなんだけどね。
でも、この報告書の感じだと、週末に『森の憩い亭』に行っても会えなさそうだ。
どうやら……彼女に避けられてるらしい。
「ギュンター、彼女の他に午前中だけ学園に通うものは?」
「五名ですね。女子はマイコ嬢だけです」
「 あの視線、午後にもあるか?」
「……っ!!」
ギュンターが心底驚いた顔をしている。レアだな。
まさか監視対象者に、ずっと見られていたとは……ってね。俺もびっくりした。本当にそうだったら……。
「クラウス、情報だ」
その時ノックすると同時にオルが入ってきた。ノックの意味だないだろうと言いたいけど、オルの表情に顔を引き締める。
「マイコって奴は二年ほど前に王都に来たってよ。吟遊詩人と半年ほど一緒に修行の旅をしたそうだが、情報を集めていたらしいぞ」
「情報?」
「魔族の情報だ」
……魔族……?
なぜ魔族?……まさか……魔王が現れることを知ってる……!?
青ざめる俺を不思議そうに見る二人。
そう、二人は知らない。魔王が現れる事を。
「マイコちゃんでしたら、お友達ですよ?」
「「「なっ!?」」」
驚く男三人。そんな俺たちを不思議そうに見て、セシリアはお茶を淹れている。
何ということでしょう。苦労していた俺たちがバカみたいじゃないか。いや、バカは俺か。セシリアは女子の中で情報を集めてもらうって、当初の取り決めだったじゃないか。
「マイコちゃんの歌は、不思議と心安らぐんです。教会で歌ってもらうこともあるんですよ」
「セシリア、あなたは彼女と会ったことがあるのですか?」
ショックを隠しきれないギュンターがセシリアに問いかける。
「もちろんです、お友達ですから。栗色の髪に薄茶色の瞳の、とても綺麗な子なんですよ。今年で十三歳になるそうです」
「そ、そうですか……」
なんかギュンターがめちゃくちゃ落ち込んでるな。いや、これは色々と予想外だった。セシリアはキョトンとした顔をして俺を見た。
「クラウス様、マイコちゃんの歌を聴きたいとかですか?」
「ああ、だが会うのも無理そうなんだ。どうやら避けられてるみたいでさ…」
しょんぼりとする俺。意識はしてなかったが、アンニュイ王子顔をしていたらしくセシリアとギュンターは顔を真っ赤にして涙目になっている。オルは瞑想で逃れたようだ。さすがSランク冒険者。
「私、お願いしてきます。大丈夫です。マイコちゃんも言ってましたから。クラウス様の助けになりたいって」
「え?」
なんで?助けに?
「よく分からないんですけど、修行して、強くなって、クラウス様の助けになれるようにって」
「えっと、なんか避けられてる理由は?」
「分からないです。でもマイコちゃんは良い子ですよ」
や、それは分かるんだけどさ。
うーん、分からない。年齢的にも「彼女」じゃない感じだし。うーん、うーん……分からん!!
「では、そっと見てみるというのはどうでしょう?
マイコちゃんは教会の孤児院で、歌を歌ってることが多いんです。ちょうどお父様の執務室から見えるんですよ。そこからならクラウス様を神力で隠せますし」
「サウス司祭の許可はもらえるのかな」
「大丈夫です!お父様もクラウス様のファンですから!」
あ……そう……?
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