見られてる気がするのはいつもの事です。
「敵意でも悪意でもないんだよな。俺の警戒にはひっかからねぇから」
Sランク冒険者のオルは、何度も首を傾げていた。
「私の『知らせの風』にも引っかからないのです。誰かが見てる形跡はあるのですが、それが誰なのかがわかる特定出来ません」
ギュンターが悔しそうな顔をするのを初めて見た。どうやら難敵らしい。
「天使……クラウス様は人気者ですから、いつも誰かに見られていますね」
セシリアは俺を『天使様』と言おうとして、ギュンターに睨まれて言い直していた。俺はセシリアの淹れたお茶を一口飲むと、話し合う三人を見る。
「まぁ人気というか、王族だからね。見られるのも仕事の内かな。それよりもその視線って?」
「詳細を申しますと、入学式の時からですね。なので一年の誰かだと思うのですが…」
ふむ。不思議だ。
オルとギュンターの感じる視線というものが、実は俺には感じられない。でも二人は確かに俺を見ていると言う。
「視線の事は注意しておくとして、今日の午後は魔法学の実技だよ。僕は休んでギルドに行くけどギュンターとオルは?」
「私は休まれるクラウス様の付き添い…ということでお伴します」
「俺はサボる。クラウスが居ないなら自由行動って事で、そっちに付いて行く」
「私も行きます!」
「「セシリアはダメ(です)」」
「何でですかぁ!いつもの置いてきぼりですぅ!」
涙目のセシリアを、ギュンターが呆れ顔で見ている。
「セシリア、あなたは入学試験で、実技が最低点だと聞きましたよ。クラウス様のお役に立ちたいのであれば、実技が苦手でどうするのですか」
「それは……」
少し可哀想になってきたな、叱られた子犬みたいで可愛いけど。
「セシリア、君の回復魔法と神力には期待しているよ。何かあった時に絶対必要な力なんだ。今を疎かにせず、成長して助けになってほしい」
「クラウス様……」
セシリアは俺の王子スマイルに、頬を染めて目をキラキラさせている。ギュンターを見ると歯を食いしばっている。耐えたなギュンター。
さて、今日もレベル上げと訓練だ。
再び男三人で冒険者ギルドに向かうことになってしまった。早くセシリアが成長するといいなと思いつつ、ギルドの受付に向かうと閉まっていた。昼休憩らしい。
「いつもは誰かがいるはずだけどよ……人手不足か?」
「それではギルドの向かいにあるレストランで軽食でも取られますか?」
「そうだね」
ギルドの向かいには宿泊施設と『森の憩い亭」というレストランがあった。入るとお酒がたくさん並んでいるカウンターもあるから、夜はバーみたいになるのかもしれない。
「ん?」
奥で栗色か見えた気がした。
ドクドクと心臓が高鳴る。
「クラウス様、どうされました?」
「……いや、何でもない」
そんな訳がない。ここにいるはずないだろう。
自分に言い聞かせていても、心臓の鼓動は速いままだ。
奥から中年の女性が出てくる。三角巾姿で出て来たので髪色は見えない。
「はい、いらっしゃい。お客さん何にするかい?」
「軽食のセットを三つください」
ギュンターが注文すると、つい声をかける。
「あの、ここには他に従業員は居ないんですか?」
「三人いるよ。昼間に一人、夜に二人だね。昼の子は午前中だけ学校に行ってるんだけど、今日はまだ帰って来ないねぇ」
「そう……ですか」
「あんたらもマイコのファンかい?あの子は不思議に人気があるんだよ。週末には吟遊詩人としてあの子が歌うから、来てみるといいよ」
「ありがとうございます」
マイコ…マイコ…せめて名字が分かれば…って、何で俺はこんなに期待してるんだ。
「お客さんならあの子と同じくらいかね。友達になっておくれよ」
女性はそう言うと、厨房へ入って行った。
同い年?
違うだろう。彼女は高校三年で俺と同じだった。
しかもあれから三年以上経つから、成人しているはずだ。
「調べますか、クラウス様」
「ああ、頼む」
「クラウスも女に興味持つんだな」
オルは何故か感心した顔でこっちを見ている。下世話な意味では無いらしい。
「どういうこと?」
「や、加護が強すぎると、特定の相手を見つけづらいって聞くからよ」
それについては、俺は違う。
だって、加護が付く前から彼女を想っていた。その感情に名前がついた時には、俺はもう……。
出された食事の味は憶えていない。
俺は週末に、再びここに来る事を決めた。
お読みいただき、ありがとうございます!
タグの回収…




