明日の友になってもらいます。
オルフェウスの胸を借りるということで、初手は俺からだ。
杖を両手で持って振り上げると、オルフェウスは盾で防いで剣を突き出そうとするのを読み、俺は右手を滑らせて杖の両端を持つ状態にし、半身になり剣を受け流す。そのまま右手を左手まで滑らせて、剣を持つ腕の隙間を杖で突くように攻撃するが、オルは身体強化で後退し距離とった。
「お前、どこでそれを習った?」
「近所で」
「そうか」
オルフェウスはニヤリとわらうと、身体強化の魔法をかけて一気に距離を詰め、斜め下から剣を振るう。俺はステップでなんとか避け、杖に真ん中を持ち、突き出された剣先を杖の片端を当てて反らす。それに負けずシールドラッシュをかけてくるオルフェウスに、ここで初めて俺は身体強化で魔力を軸足と腹筋、広背筋にかけて、体を捩じらせるようにジャンプして、後ろに向けて杖を突き出す。
「……っと、あぶねぇ!」
「んん、やっぱ実戦の経験がないとキツイなぁ」
距離をとったけど、やはりオルフェウスは強い。今の動きで俺は汗をかいてるけど、彼は息一つ乱していない。
「おい、今のジャンプは身体魔法か?それにしては魔力をあまり感じなかったぞ」
「ああ、君は魔力が高いから、魔力感知も出来るんだね。今の強化魔法は、運動をする時に一番負荷がかかる場所にだけ魔力を強めに通したんだ」
「だけ?」
「もちろん全身に微弱な魔力を通してから部分的に魔力を高めるんだよ」
「はぁ?」
「だから、まずはこう」
オルに近寄るとぺたりと肩に手を置き、微弱な魔力を流す。
「そんで、こう」
流した魔力に強弱をつけ、身体強化魔法をかける。
「飛び上がってみて」
納得いかないという顔をしながらも、軽くジャンプするオルフェウスは、1メートルほど飛び上がってしまいそのまま着地に失敗して盛大に転がった。
「な、何だこれ!すっげぇ!」
「本当はもっと出来ると思うんだよね。まだまだ研究段階だけど、身体強化魔法を無意識に発動する上に、使う体の筋肉とか骨とかの負担軽減まで出来れば、もっとすごいことができそうな気がするんだよ。
少ない魔力で最大限の運動を肉体にさせるって、出来たらすごくない?」
「ああ、すげぇな」
「ギュンターも見ててどう思った?」
振り向くとギュンターは、目をキラキラさせている。あれ?今回はあまりカッコ良く出来なかったはずなのに?
「杖術を使う魔法使い、初めて見ました!杖でこういう戦い方もあるのですね!」
「ああ、俺も初めて見たな。流れるような動きで無駄がなかった。ある程度の型があるんだろう。どこの流派だ?」
「うぐぐ。秘伝てことにしといて」
「ククッ、お前のそんな困った顔は初めてだな」
え?そうかな?いつも割りかし困ってるよ?
ギュンターは「秘伝…」て呟いていて、盛大に俺を過大評価してるのを感じる。やめて。
「まぁいいや、友人ってやつになるよ。いや、むしろ仲間か?」
「え!本当に!?……仲間?」
「お前、なんか目的があんだろ?今日じゃなくていいけど絶対話せよ。仲間なんだからよ」
俺が首をかしげると、オルフェウスはギュンターに聞こえないように小さな声で言った。
俺は呆然とする。
勇者を補佐しろと言われて、この三年がむしゃらに鍛えてきた。怖くない訳もなく、死ぬ事を知っているからこそ、今回の生でも怯えていた。
もしかして。
こいつには話して良いのかもしれない。魔王の話は信じてもらえないかもしれないけど。
仲間になるって言ってくれた。その気持ちに応えたい。
「お、おい」
「クラウス様!?」
知らずに涙が流れてた。慌てる二人に、泣きながら微笑んで「ありがとう」って言った。二人とも顔が真っ赤になる。照れたのかな?俺も泣いちゃって、ちょっと恥ずかしい。
「よろしく、オルフェウス」
「オルでいい」
「おう!」
差し出した手を握ってくれたオルに、俺は少しだけ、未来が明るくなるような気がして嬉しくなった。
彼とは長い付き合いになりそうだ!
オルフェウスがなかまになった!
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