入学式、前編です。
真新しい学園の制服に身を包み、鏡の前に立つ。
茶色いフロックコートのような長めのジャケットに同色のズボン、よく磨かれた黒いブーツは艶やかに光っている。ジャケットの下には白いシャツと、学園の一年である証の緑のスカーフをタイのように首に巻いている。
ギュンターに仕上げを手伝ってもらい、セシリアはお茶を入れつつ目をキラキラさせるという、器用なことをやっていた。
彼女の中で未だ俺の天使説は消えてないようで、残念美少女になりつつある。残念だ。
香り高い紅茶を飲みつつ、ギュンターに確認する。
「今日の入学式は城から馬車で行って、明日から寮に入るんだよね」
「そうでございます。セシリアはメイド用の部屋となりますが、私めは同室の使用人部屋にて常に控えております」
「そうなんだ」
「メイド用といいましても、かなり豪華に造られております。高貴な方の使用人は、貴族が多いですからね」
「セシリアはどのような場所でも、クラウス様の側でお世話が出来るのであれば、それだけで充分なのです!!」
「……そう、ありがとうセシリア」
若干脱力しつつ、城の正面口につけてある王家の印象が入った馬車に乗る。寮に入ってしまう俺との別れの寂しさからか、すでに泣いている父様と母様を慰めつつ、学園へと向かう馬車の時間は過ぎていった。
黒い岩を切り出し積み上げて造った、城塞のごとく重厚な建物。
エルトーデ王立学園は有事の際に砦としての役割担うそうだ。確かにかなり硬い石で作られているし、結界も常時発動している状態だ。今日は王族が来るからか、学園内の警備兵も多く見受けられる。
たくさんの学科ごとにある建物と広大な敷地は、迷わなくなるまで時間がかかりそうだ。ギュンターに期待しよう。セシリアは……うん。お茶を入れてもらおうかな。
「入学式は大講堂で行うそうです」
「よし。じゃあ行こうか」
「それよりもクラウス様、新入生代表の挨拶をされるそうですが、どのようなお言葉を発せられるのですか?」
「はぁっ!?」
爆弾を投下したギュンターは、驚く俺を見て「ほほう」と頷く。
いや、ちょっと待て、ほほうじゃなくってさ……っつか、挨拶とか聞いてないよ!?
「代表って首席がやるもんじゃないのか!?ギュンターが満点だと聞いたからお前が首席じゃ…!?」
「はは、おかしな事をおっしゃいますね。私は筆記しか受けておりません。実技は受けられなかったのです。筆記と実技が満点のクラウス様が首席である事は明白でございます」
「なぜ実技を受けなかった!?」
「何せサウス司祭様から急に入学せよとのお達しでしたから、残っていた日程が筆記試験しか無かったのです。無事合格できて安堵いたしました」
にこやかに語るギュンターを、呆然と見る俺。
……しょうがない。知識の神大先生に頼るしかないか。
「はぁ…しょうがない…五分で考えよう。セシリア、紙とペンはあるか?」
「用意してございます」
「ギュンター、この事はいつ知った?」
「学園側から通達は出していたそうですが、王様と王妃様が大層喜ばれ、結果通知を額に入れて飾ってしまったのが原因かと。私は先ほど先生方が話している内容を聞き、クラウス様に確認した次第でございます」
ギュンターは情報収集能力に長けているらしい。サウス司祭グッジョブ!!
マジで助かります!!
「ありがとうギュンター。直前に慌てずに済んだ」
「いえ、それよりも五分で挨拶文を作成されるクラウス様こそ、素晴らしいの一言では言い表せないです。流石です」
「知識の加護のおかげだよ。大した事じゃない」
セシリアとギュンターには俺のステータスを教えていない。俺のはチート(ずる)だから、二人みたいに実力で得たのうりょくを使う人間とは違う。
まぁ、俺にはやらなきゃいけない事が有るし、加護の有効活用をしっかり考えないとね。
「その奢らぬ御心がとても美しく気高いのでございます……」
俺をキラキラした目で見つめる残念美少女の更生も、しっかり考えないとね。
……出来るかな。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回……頑張れ王子!




