休憩
少し早いけど、と前置きをされて技の基礎まで教えてもらった。技の種類はタックルと投げ技だ。
タックルにも投技にも幾つか種類があるらしく、教えてもらったのは基本となる正面からいくスタンダードなタックルと、投技の基本である一本背負いだ。
「技自体は色んな種類を覚えてまんべんなく使えるのが理想だけど、得意技を見つけるのも良いかもしれないね。自分が気に入った技のほうが覚えるのが早くなったりするから」
上地はそう言って基礎を教えてくれた後練習全体を見るのに戻り、10分ほどの休憩になった。
飲水を準備していたマネージャーの先輩たちが部員にコップを渡していく。
「入部してくれたんだね」
声をかけて来たのマネージャーで二年生の先輩の美優だ。
「どう? 仲間は出来そう?」
「仲間ですか……」
正直一年生としか話していないが、どうなのか良く分からない。紀之は仲良くなれそうな気はするし、幸隆も悪い奴ではないと思う。
「個人的には相棒とか出来てくれると嬉しいかな。その方が妄想が捗るし」
二言目は声が小さくて聞き取れなかった。相棒となると仲間や友達よりハードルが高い。
練習しているうちに仲良くなることも出来ると思い、欲しくないわけではない相棒の提案に純粋に答える。
「相棒欲しいですね。相棒って呼べるほど仲が良くなってくれる奴がいればの話ですけど」
「そっか……欲しいんだ……」
何故か少し機嫌がよくなった美優は、150センチ程度しかなさそうな小さな体をいっぱいに伸ばし海生の頭を撫でてきた。
「よしよし憂い奴じゃ」
「っ!?」
予想外の行動に変な声を出してしまう海星。年上とは言え、女性から頭をなでられるのは思春期の男子にとって異常に恥ずかしい。
「せ、先輩恥ずかしいです……他の人達も見てますし」
「おーい美優! なんだ気に入った奴でもいたのか?」
笑いながら声をかけてきたのは、ガタイが良く背の高い短髪の頭を丸めた先輩だった。
「佳祐先輩、後輩が可愛いです」
180センチはありそうな背の高いガタイの良い先輩は快活な笑みを浮かべ、こちらに近づいてくる。
「気をつけろよ一年生。いつ何のネタにされるか分からないからな?」
「ネタ……ですか?」
何の話か解らずに首を傾ける。
「余計なことは言わなくていいです」
その続きを美優が遮る。気になってしまいその理由を問おうとすると、
「海生。知らない方がレスリングを楽しく続けられることもあると思うの」
その言葉をいう美優は、これ以上話すことを許さないとでもいうような、不気味な笑みを浮かべていた。