夏休み前
幸隆は速く動くためにはどう練習しれば良いかを考えた。そして結果出た答えはシンプルなものだった。
肉体的強化だ。まず速く動くための体を作る。そしてそのための練習は都合の良いことに、九州大会から帰ってきた時には海生達が始めていた。
大会で見た動きが目に焼き付いている。そのイメージ通りの動きが出来るように、筋トレ・基礎トレを進めつつ、技トレ、スパーリングを速く動くことを意識していた。
一緒にペアを組んで練習することが多い海生は、九州大会から帰ってきた後の変化を体で感じていた。
幸隆が見てきたという55㎏級で一位になった選手の話を聞いていたので、その選手を意識しての練習だろうとは予想がついた。張り合う様に海生自信も同じように練習に打ち込んだ。
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「ねぇねぇ鏡也。私達がいない間ってどんな感じだったの?」
優香が自分たちがいなかった時の練習を興味津々という感じで鏡也に聞いてきた。九州大会が終わって少し経つが、帰ってきた後の練習が少し変わっていたのが気になったようだ。
「どんなって海生の伯父さんが来て……」
言いかけて鏡也は思い出した。マネージャー二人が去年のテスト問題を海生に渡したおかげで、自分はテストで海生に負けたのだと。海生に負けたという事実は、鏡也の中でそれなりに悔しい気持ちを残していた。
「やっぱ教えませーん!」
「なんでだよぅ意地悪だなぁ」
舌をべぇっと出して優香に拒否する気持ちを伝える鏡也。海生に負けた結果として気になっていたレスリング部に入るきっかけを貰えたのだから良い気もするが、それはそれとして幸隆に負けた事自体は鏡也の中ではまた別の話らしい。
「じゃっ俺は紀之をイジメ……練習してくるのでこれで!」
さらっと本音を漏らしながら去っていく鏡也。レスリング部に入部してから知り合った紀之がお気に入りのようだ。鏡也は少し気が弱く、いじりやすい男友達をからかうのが好きで、紀之はまさにそれに当てはまっており、鏡也の大好物だった。
「何か気になるね」
鏡也とのやり取りを聞いていた美優が、優香に話しかけてきた。
「うん。結局私達がいない間どんなだったか教えてくれなかったし」
「いや鏡也と紀之がどんな絡みするのかなって」
「あそっち?」
練習の様子が少し変わってもこの二人の思考そのものは全然変わらなかった。
その翌週から期末テストのテスト休みが始まり、結果は中間テストの時と大体同じような結果に終わった。帆億は無難に平均60~70点代で余裕をもって赤点を回避し、紀之も頑張り赤点は三個ほどに収まった。補習は免れなかったが。
そして通天高校は夏休みに入る。




