大会前夜
「スパーリング終わりっダウンして集合!」
龍生が掛け声をかけ、その日の練習が終わりを迎える。ダウンと呼ばれる最後のランニングと整理体操を終えて、海生はいつもの練習が終った後の自主練に励もうとするが、上地から集合の声がかかった。
「あー今日は明日の説明をするから、ちょっと集まってね」
明日の説明とは大会についての説明だろう。
「まずは団体戦のメンバーから発表する」
道場の壁に一枚の紙が貼りだされた。団体戦のメンバーが書いてある紙だ。
50kg級 仲村渠 匠
55kg級 山本 幸隆
60kg級 大城 龍生
66kg級 上島 彰
74kg級 宮城 安則
84kg級 中村 康太
120kg級 与那覇 佳祐
二、三年生の中に混じって幸隆の名前も入っている。一年生で団体戦のメンバーに入ることが出来るとはさすがだ。
団体戦に96㎏級はなく、佳祐が120㎏級で出場することになる。団体戦では96kg級から120kg級に出ていい決まりになっている。
「後は個人戦は皆で出てもらうから、軽量のための最後の調整を忘れないように」
レスリングは階級によって分かれているため、体重の調整を行わなければならない。50kg級なら50kgより体重が上だと出場出来なくなり、55kg級なら50kgから55kgの間の体重でないと出場出来なくなってしまう、という区分けだ。
もともとの体重がその中に収まっていれば良いのだが、そうでない部員は減量のために殺気だっていた。
減量中の部員の前で不用意に食べ物を食べてしまおうものなら、たちまち技をかけられ落とされてしまう。
紀之などはその餌食になり、先輩たちに技をかけられてしまっていた。何故か康則に裏に連れて行かれ戻ってきた時には、
「もうお婿に行けない」
と嘆いていた。
何をされたのか、どんな技をかけられたのかは分からない。分かりたくもなかった。
海生は66kg級なのに対して63kgだったため、特に問題なく大会を迎えられる状態だ。
「来たね大会」
「来ましたよ大会」
美優と優香の二人がニヤニヤと笑みを浮かべている。何か良いことでもあるのだろうか?
不思議そうに二人を見る海生に気づき、二人は答える。
「まぁ隠していたワケじゃないんだけど」
「私達は筋肉フェチなのさっ」
「筋肉フェチ……ですか」
筋肉のある体は男でも憧れであるため、わからなくもない。男と女ではまた見るところや感じ方が違うだろうが。
「私は細マッチョ。龍生先輩とか幸隆みたいな」
「私はゴリマッチョ! 佳祐先輩とか康太先輩みたいな!」
とそれぞれに好きなタイプを語る二人。キラキラと目が輝いているように見える。
「大会で着るユニフォームは体のラインがくっきり見えるから好きなんだ」
「そうそう! だから大会が楽しみでさ!」
なるほどレスリング部のマネージャーになったのはソレも理由の一つなのかもしれない。
「男の体を見るのが好きなんですね」
「何その言い方」
「間違ってはいないけど何かその言い方やだ!」
いつもからかわれ気味のマネージャー二人。逆にからかいつつ今日の練習は終わった。