寝技
グラウンドは、どういう行動とればどのくらいポイントが入るかというものが決まっている。
例えばバックを取られた時点で1ポイント、腹部に手を回し締め上げ、回転もといローリングをすると2ポイント、というように。
ここでポイントを稼げれば、10ポイント以上差がついた時点でテクニカルフォールというポイント勝ちが確定する。
コレを意識して練習することでポイントを取るための練習が出来るのだ。
「ようしじゃあグラウンドの練習を始める前に、テンションアップをするために曲を変えるぞ!」
佳祐が張り切って、おそらく自分が持ってきたのであろうCDを取り出しラジカセの中に入れる。
「俺の好きな曲なんだよこれが」
基本的に練習中に流れるCDのチョイスは、三年生の先輩たちの意向によることが多い。最上級生なのだから当たり前といえば当たり前だが。
そのため、どんな曲だろうと変えることはほぼ許されない。その曲が終わる、もしくは先輩の気が済むまでその曲を聞き続けるほかないのだ。たまに上地先生の趣味の曲も入るが。
流される曲、部員達に流れる戦慄。流れた曲はなんと、一昔前のラブソングだった……
何故こんな古い曲で、しかもこんなラブソング……
「まじかよ」
寝技の練習をしている時にこれである。道場はその立地上、下校中の在校生に練習を見られることになるのだが、明らかに通り掛かる学生の反応がおかしい。
こちらの方を指さし笑っているもの。なんとも言えない表情でこちらを見ている者。
明らかな嫌悪の表情で練習を横目で見ていく者。
それはそうだろう男同士で寝技で絡みあっている男子高校生というだけであまり良い絵面ではない。
ましてや流れているのはこの歌詞だ。
『愛しあう~ふ~た~り~ し~あわせ~の~そら~』
周りの目線と曲の歌詞が気になって全然練習に集中出来ない。周りからの目が痛い。なんというチョイスをしてくれたのだろう。
佳祐の方に目をやるが、佳祐は満足そうに練習に入っている。こちらの意見を聞いてくれそうにはない。
「もう嫌だ。早くこの曲終ってくれ」
『もーいっかいっ』
結局グラウンドの練習が終わるまでこの曲はループ再生され続けた。




