罰ゲーム
「負けねぇぜ海生」
「俺だって負けたくないから全力でやらせてもらうよ」
本気で勝ちに行くことを狙う紀之と海生の二人。ここに来てからはもう小細工はなしだ。
純粋な技のやり取りで勝負する。組み合いに崩し合いだ。
龍生のはじめの合図で組み合う二人。体勢の崩し合い、それは首と腕を互いに掛け合っている状態での、駆け引きを意味する。
この駆引きは前や後ろに倒そうとすることで生まれる力に、一瞬逆の力を入れることによって相手の体勢を崩すというものだ。
例えば前に倒そうとする際に自分の体側に相手を引こうとすると、相手は逆の方向に踏ん張ろうとする。この力を利用するのだ。
前に倒したければ一瞬後ろに、後ろに倒したければ一瞬前に力をかけることで、踏ん張る力を利用して一気に倒しきる。
「遅すぎても早すぎても駆け引きにまけるからな。そこんとこ一緒に練習したよな紀之」
「どっちが駆け引きに勝つか勝負だっ」
そう言いながら紀之はシャカシャカとせわしなく自分の体をゆすり始めた。何をしたいのかわからないが、正直見た感じは気持ち悪い。
構わずこちらから組み合いに行くと、相手も組み合いに応じた。
組み合ったと同時にフェイントを入れ前に引くと、紀之はあっさり砂浜に手をついた。
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「この状況で何されるか解らないって何か凄く怖い」
前もって掘られていた穴に埋められ顔だけ出されている紀之。今この場で罰ゲームが行われるらしいが、何が始まるのだろう。
「マネージャーの二人お願いしまーす」
龍生先輩が声をあげると美優と優香が影から出てきた。
「今回は何になるかな」
罰ゲームを一緒に見守っている康太が一言漏らした。
「毎回罰ゲームって違うんですか?」
海生の問いかけに、その隣にいた一際体の大きい120㎏級の三年生、武光が答えた。
「去年から罰ゲームはマネージャーに任せてあるんだけど、当たり外れがあるんだよ。
外れはまぁ……あの状態からさらに砂を大量に頭からかけられて窒息の恐怖を味会わされるものだったり、海水をバケツに汲んできて前からバケツの中の海水なくなるまでかけられたり、ビンタされたり。
あっビンタはされた奴がありがとうございますって言ってたから当たり……なのかな?
頭皮マッサージされた奴もいたな」
武光は何故か何かをこらえるようにワナワナと震えながら話している。
「えぇ……」
何だか妙なラインナップで他にもツッコミたい所は沢山あったが、紀之が今日どんな罰ゲームされるのかと気になった。
紀之の頭に忍び寄るマネージャーの二人。左右の両サイドから挟むように立っている。
「おっ……お手柔らかに」
怯える紀之に美優と優香は近づき頬杖をついて寝転び、二人で紀之の耳に息を吹きかけ始めた。
「うあぁっ」
短く声をあげる紀之に二人は攻めを緩める気配はない。
「先輩やめっ……て」
顔を赤くし、びくびくと体を震わせる紀之は涙目で懇願するが、
「だそうですが優香さんどうします?」
「やめたくありませんなーどうしましょうかー美優さん」
二人は目で合図をし、小悪魔的な笑みを浮かべる。そして次の瞬間紀之の耳に同時に噛みついた。
「あぁああーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
紀之の声が響く。
その光景を見ていた海生は呟いた。
「これ今日のヤツ当たりだ」